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判例コラム
(旧)コラム

 

第143回 管理監督者と企業コンプライアンス

法律事務所オーセンス *1
弁護士 元榮 太一郎

「やっと課長になれたよ。でも喜んでばかりいられない。基本給はそんなに変わらないのに残業手当が出ないから、結局、給料が減ってしまったんだ。」。先日、友人と食事していたときの友人の言葉である 。

管理監督者には労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の規定が適用されず、時間外労働、休日労働の割増賃金を支払う必要はない。そして、行政解釈や多くの裁判例によると、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」をいうのであり、その名称ではなく実態に即して判断すべきとされている。*2  管理監督者該当性が裁判上の争点となったケースは相当数あるが、管理監督者の範囲はかなり限定される傾向にある。つまり、「課長」という名称が付されたとしても、それだけで管理監督者に該当するわけではないのである。

平成20年1月のいわゆるマクドナルド店長判決以来、「名ばかり管理職」についての世間の関心は高い。しかし、労働者には「会社のために働いている、会社とトラブルを起こしたくない」という意識もあり、労使紛争が生じない限り問題が表面化しないことも多いように感じられる。仮に、労働者が一斉に未払い賃金の支払いを請求しこれが認容された場合、企業に生じる負担が一時期に集中することになり、企業経営に大きな影響を及ぼすことは想像に難くない。各企業は、このリスクを軽視することなく、組織や勤務・給与形態に応じた管理監督者該当性を詳細に検討して労働条件を決定し、労務管理の適正を図らなければならないのである。

なお、労働基準法上の新たな制度として、いわゆる自己管理型労働制の導入が検討されていたが(厚生労働省発表平成18年1月27日「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」 など。*3)、実施は見送られた。労働者の現状に応じた適正な労務管理のためには、企画業務型裁量労働制(労働基準法38条の4)の活用のほか、法改正による新たな制度の導入についての検討を継続することも必要不可欠であろう。*4

管理監督者が深夜割増賃金の支払い請求をできるかにつき下級審の結論は分かれていたが、最高裁平成21年12月18日判決(判タ1316号129頁)はこれを肯定した。もっとも、「管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない」との判断を示している。したがって、企業が割増賃金の定額給制を採用する場合には、この判例を意識した明確な条項を設けた上で、労働者に適切な説明をしておくなど、将来のトラブル回避に向けた方策をとる必要がある。

適切な労務管理がなされることにより労働者の労働意欲が向上し、その結果として企業が発展していく、そういう企業こそが今後社会的に評価され成長を遂げる企業であると考える。

(掲載日 2011年3月28日)

次回のコラムは4月11日(月)に掲載いたします。

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