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判例コラム
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第145回 日本でFacebookを利用する法的リスクに関する諸問題

~利用規約の準拠法、国際裁判管轄の定めはそのまま有効とは限らない

青山学院大学法務研究科(法科大学院)教授 *1
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック *2
浜辺 陽一郎

今年の正月をアメリカで過ごして、Facebookがいかに浸透しているかを知った。帰国すると日本でも話題になったので、使い始めてみた。まだまだ分からないことだらけだが、今回はこれを利用するにあたって生じる法律問題について考えてみたい。

他のSNSとは異なり、フェイスブックは実名主義を基本としており、実際には、フェイスブックでも匿名や偽名も見られる。しかし、主流は実名で、自己の発言に責任が伴うので、安心感がある。これがフェイスブックの売りである。また、実名を使用しないと、使用停止の憂き目に逢うこともあるようだ。そのことは、利用規約(Statement of Rights and Responsibilities)(以下「利用規約」という。)(注1)にも定められている。これにより、せっかく蓄積したデータが使えなくなることもありうるので、実名原則には従っておいたほうが良さそうだ。

「友達」のネットワークが基本的に公開される。友達も含めて、公開情報は限定できる。ただ、あまり情報を隠してしまうと、知人に見つけてもらいにくくなり、面白さが半減する。お互いに公開しあうところに妙味がある。フェイスブックは個人情報の塊だから、もとより、公開される情報から、いろいろなことが知られることを覚悟して臨む必要がある。

例えば、「友達」の関係が、例えば継続中の訴訟や紛争に対して、何らかの情報を意味していることもあるかもしれない。あるいは友達に「反社会的勢力」の人がいたら、削除したほうがいい、などと考えたりもする。そのほか、色々なテクニックを駆使すると、かなりの情報が見破られてしまうというリスクもあるので、隠し事がある人には不向きだろう。 「友達」は、いやならば後で削除することもできる。しかも、相手にはいちいち通知はされない。ただ、こっそりと削除されたら、あまり気分は良くないだろうが。

少し使い勝手がどうかと思うのは、言語が混じる点だ。全部一つのページで処理されるから、いろいろな言語が飛び交う。友達も、とりあえず英語でしか話さない友達も含めて登録している人たちが多い。日本語と英語の両方を使う我々はいいのだが、日本人の友達が多いと、日本人の友達には英語が得意でない人たちもいるから、日本語で書き込んでしまう。しかし、そうすると、逆に英語しか読めない人たちのところに、多くの日本語メッセージが送られてしまうのだろう。

本来ならば、日本語ページと英語ページなど、ホームページのように言語別に分かれていたほうが良いと思うのだが、Facebookのポリシーは違うようだ。元々、Facebookは、英語で世界の友人と友達の輪で結ばれるのがメインのネットワークだという。そうだとすると、日本語だけでの日本人は、メインのネットワークには入れない。ただ、これから日本人がもっと国際的に友だちの和を意識して広げていこうとするならば、これは結構、有意義なツールだとも思う。是非とも若い学生にはFacebookを使って世界にネットワークを張り巡らしてもらえればと思う。

さて、フェイスブックの利用規約は、誰と誰の契約関係なのかといえば、日本に居住する人たちの場合、「ユーザーとFacebook Ireland Limitedの間で締結されます」と定められている。日本には営業拠点が見当たらないようだから、そうだとすると、私たちがFacebookを利用する契約は、Facebook Ireland Limitedという外国法人との契約ということになる。ちなみに、利用規約15に、「抵触法にかかわらず、本規約およびユーザーと弊社の間で生じるあらゆる申し立てには、カリフォルニア州法が適用されます」とあるが、利用規約18の10には、「ユーザーは、Facebookを利用またはアクセスする際、あらゆる準拠法にしたがうものとします」とあり、日本の消費者は、日本で裁判を起こした場合には、法適用通則法第11条によって、日本の法令を選択することもできよう。

それでは、日本に裁判管轄があるか問題となるが、利用規約15には、「すべて、サンタクララ郡に所在する州裁判所または連邦裁判所で解決するものとします。(中略)ユーザーは、申し立てを行う目的において、カリフォルニア州サンタクララ郡に所在する裁判所の対人管轄権にしたがうことに同意します」とあるが、現在、国会で参議院審査中の民事訴訟法の改正(注2)が成立したとすると、改正民事訴訟法第3条の7第五項で、これがそのまま有効とはなるわけではない。このため、日本の消費者は少し面倒だが、日本でFacebook Ireland Limitedを訴える余地はありそうだ。ただし、彼らは日本に何も事務所がないことなどから、ケースによっては、「当事者間の衡平を害し、または適正かつ迅速な審理を妨げることとなる特別の事情」があるときは、裁判所はその訴えを却下する可能性もある(同3条の9)。

Facebook Ireland Limitedは、日本語版を提供しているだけで、日本の事業者ではない。個人情報保護法の規制を受けたくないから、日本に営業所を設けていないのだろうか。利用規約2によると、「ユーザーがFacebookで投稿したコンテンツおよび情報は、すべてそのユーザーが所有するものであり、(中略)どのように共有するかを管理することができます」とされている。利用目的は少し広くて漠然としているが、オプトアウトの仕組みはあるようにも考えられ、利用規約に従って利用するという各人の自己責任の世界で動いているということなのだろう。米国法における諸問題はかなりカバーされていることは、利用規約その他の取り決めから、十分に伺い知ることができる(注3)。しかし、Facebookがどこまで日本の法律専門家の助言を受けているかは知らない。日本市場をどう考えているのか分からないが、ユーザーがもっと増加したら日本法の観点からも、もう少し法律問題を検討・整理すべきではないだろうか。

(注1)フェイスブックの登録者しか閲覧できないだろうが、規約のページは、http://www.facebook.com/home.php#!/terms.php参照。

(注2)http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/177/meisai/m17703176008.htm
           http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/177/pdf/t031760081760.pdf

(注3)これらもフェイスブックの登録者しか閲覧できないのだが、法執行機関向けの情報として、http://goo.gl/1EmA2
また、教育関係者向けとして http://goo.gl/vrjo8 など、法的観点からのQ&Aも充実している。

(掲載日 2011年4月18日)

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