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苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
まず、この欄をお借りしてこの度の東日本大震災において、被災された方々に心からお見舞い申し上げる。被災地に、数多くの独自の技術をもった製造工場が集積していた事実、そしてその相当数が被災されてしまった事実を知った。そのため、被災工場から製品を受け取れない二次加工製造業者が、自らの製品の納期を守れない事態が発生し、対応に追われている。
12月に、このコラムで、不可抗力について、再考の必要性を書いたが、震災を期に再度掘り下げてこの問題を取り上げてみたい。被災工場が部品供給できない事態、これが、不可抗力によるものとして、それによる相手方の損害賠償の対象とならないことについては、特に異論ないと思われる。津波をどの程度予測する必要があるか、津波対策をしていた行政機関の責任は、ともかく、今回の津波を予想して、2拠点製造をすることまでは、部品の製造業者に要求されないであろう。では、それを受け取ってさらに製品を製造する業者にとって、部品を受け取れないために、自らも製品を製造できないという事態は、不可抗力として、その売先に対し、抗弁できるのであろうか。 日本の判例では、不可抗力を定義したものは少なく、多くは、義務者の過失の問題として、予見可能性、結果回避可能性があったかを判断し(名古屋地判平成15年1月22日※2 、東京地判平成11年6月22日※3 )、これらのいずれかが欠ける場合を不可抗力としている様である。
2次加工業者にとっても、大津波で部品供給工場が操業できない事態を予見せよというのは酷であろう。しかし結果回避可能性はどうであろうか。二社購買にしていれば、また部品在庫を相当数持つようにしていれば、直ちに製造不能の状態に陥ることはなかった、よって、過失はある、不可抗力だとはいえないとの考え方も成り立つ。もちろん二社購買ができないような、被災工場の特別の技術が必要なものについては、二社購買による補填は難しいが、そうであれば、さらに部品在庫を相当数持つべきだとの考えにも行き着く。しかし、現在では全世界で、このような在庫を極力持たない体制がとられている。そこでのコスト削減も競争力の原動力となっているからだ。よって、今回の事態そのものは、結果回避可能性もなかったとの抗弁も十分に成り立ちうるであろう。
しかし今後はどうであろう。われわれは大震災を経験し、これは予測可能性のない事態だとはいえなくなった。そうであれば、大震災に学び、一定のコストをかけてでも、二社購買が可能なような供給体制をとる必要が出てくるのではないかと思われる。部品在庫を相当数持つよりは、まだリスクが小さいという可能性もある。
特殊な技術で、その会社しか作れないものというのは、平時には圧倒的な優位を持ちうる。しかし、他方供給停止になったときの危うさは、場合によってはそれを上回る。標準的な技術で安定、かつ安価に作れる物というのも重要となってくるのではないだろうか。
(掲載日 2011年6月20日)