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東海大学法学部教授
西山 由美
東日本大震災の当日の3月11日、私は環境税の経済への影響についてヒアリングを行うためにドイツ・ハンブルクに滞在していた。テレビは連日、津波と原子力発電所の映像を流し続け、新聞は地震直後から「炉心溶融」の文字を載せ、日本の報道とのギャップに「どちらが本当なのか」と戸惑うばかり。そのような中で、日本人の行動に対して、おもに二つの言葉で称賛がなされていた。「自制心」と「団結力」である。厳しい状況にあって自らを律し、他者と共感する心は、日本人の「恥を知る精神」に繋がるのであろう。しかし、その心を維持し続けることは、思いのほか大変難しい。
ドイツもまた、この団結力(ドイツ語で「ゾリダリテート」という。) を実感した時代があり、これを形にすべく新税が創設された。ドイツ再統一(1990年)に際し、これにかかる費用―主として旧東ドイツ地域の財政支援―の調達のために導入された「連帯税」(ドイツでは「ゾリ」と呼ばれることが多い。) である。これは、所得税額または法人税額の一定割合が追加的に徴収されるもので、その割合は導入当初は7.5パーセント、1991年の導入から20年目の現在は5.5パーセント、2010年の税収は約117億ユーロである。
1961年に建設され、1989年に崩壊したベルリンの壁に象徴される民族分断の時代が終焉し、東西の市民たちが分かち合った連帯感も、時の経過とともに冷めていく。連帯税導入から15年ほどが過ぎた頃から、この税に対する不満が国民の間に出始めた。不満の一つは、再統一から20年以上も経っているのに、この終期の定めのない租税をいつまで負担しつづけるのかというものだ。さらに、ドイツ国内の景気低迷により、旧西ドイツ地域にも貧困者や失業者が増えている中で、なぜ再統一のコストだけが特別扱いされるのかという不公平感も出始めた。この不公平感は、旧東ドイツ地域出身者に対する差別にもつながりかねない。連邦憲法裁判所は今年の7月21日、連帯税の平等原則違反を理由とする違憲の訴えをとりあえず退けた。しかしこの税の廃止を訴える世論は、なおも強いという。
今回の震災の復興事業費は、今後5年間で13兆円と試算されている。これを復興債の発行で賄い、その償還財源を歳出削減と臨時増税で調達するという工程になりそうだ。臨時増税について新首相は、「期間10年、所得税・個人住民税を軸に」という方針を政府税制調査会に指示したとの報道もあるが、ドイツの連帯税にみられる団結力の時の経過に伴う脆弱化を考えるにつけ、被災地域に対する短期集中的かつ十分な支援が望まれる。
(掲載日 2011年9月26日)