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第170回 企業不祥事で揺らぐ第三者委員会

弁護士・高岡法科大学教授
中島史雄

「サラリ-マン川柳」に、不祥事は増えたのではなくバレたのよ、という句があった。最近、企業不祥事を巡って第三者委員会による調査報告のニュ-スがよく聞かれる。とりわけ大王製紙株式会社前会長の巨額借入問題やオリンパス株式会社の企業買収多額報酬問題や九州電力株式会社のやらせメ-ル問題などが耳目をひいている。

第三者委員会とは、日本弁護士連合会が、「経営者自身のためではなく、株主、投資家、消費者、取引先、従業員、債権者、地域住民などのステーク・ホールダーのために調査を実施し、それを対外的に公表することで、最終的には企業の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」ために、2010年7月15日に策定公表し同年12月17日に改訂したガイドラインを指す。それは、弁護士を中心とした企業から独立した委員で構成され、不祥事に関連する事実関係を調査し、それを分析・評価した上で、遅滞なく再発防止策の提言を公表することを使命とする。

大王製紙株式会社の事案は、特別調査委員会(委員構成は3名の弁護士と社外監査役と常務取締役の5名からなる)の報告書によれば、辞任した前会長が複数の子会社から無担保で個人の口座へ直接振込ませた106億8000万円の借入金があって未済額が59億3000万円に達していることが判明し(使途不明)、会社は会社法の特別背任罪で告発する方針を決定している。同委員会は選任された9月16日から10月27日に公表するまで精力的に調査を行なった。

一方、オリンパス株式会社では、過去の企業買収の高額報酬を追及した前社長を解任し、社長に復帰した会長も2週間足らずで退任した。前社長が専門機関に依頼した調査によれば、企業買収総額の約3割に当たる666億円の報酬が支払われていた。その後の報道によれば、1990年代以降の財テクによる巨額損失を穴埋めするために、「飛ばし」「時価会計」「優先株」「企業買収」等が悪用されていた。会社は取締役会で損失隠しに深く関与していた副社長を解任し常勤監査役も辞任した。11月1日に設置された第三者委員会(委員構成は5名の弁護士と公認会計士の6名からなる)は実態解明を急ぎ組織運営の改善に向けた提言なども行うが、会社はそれを待って刑事告発を検討するという。

他方、九州電力では、会社が玄海原発県民説明集会で県知事の発言に端を発した世論操作(やらせメ-ル)を厳しく指弾した第三者委員会(委員構成は1名の弁護士と2名の大学教授と1名の日本消費生活アドバイザ-・コンサルタント協会理事の4名からなる)の報告書(9月30日提出)を無視した最終報告書(10月14日)を経済産業省に提出し、同省から再報告書の提出を求められている。

大王製紙では、「創業者親子に絶対的に服従するという企業風土が根付いていることが、不祥事の原因」であり、オリンパスでは、前会長と前副社長と前常勤監査役が旧経営陣から損失隠しを隠密裏に引き継いでいたとして、第三者委員会の報告に託したのに対し、九州電力は一時しのぎに第三者委員会を利用しようとしたにすぎず言語道断である。

これらの事案は、公開株式会社にあって、コンプライアンスと内部統制システムの確立という企業統治をめぐる経営者意識の改革が今もって根本的課題であることを示している。

(掲載日 2011年11月21日)

次回のコラムは12月5日(月)に掲載いたします。

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