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早稲田大学大学院法務研究科教授・弁護士
道垣内正人
会社法は大変ユニークな存在である。司法試験では民事系科目とされているが、民法とは異なり、会社法には、多くの強行規定とともに、法務大臣等の申立てによる裁判所の命令、訴訟・非訟事件手続、特別清算手続、さらには罰則についての規定も含まれている。
筆者の専門領域である国際私法は、私法が国家的利益に直結していないということを前提に、内外の私法から等距離の位置に立ち、事案に最も密接に関係する地の法を準拠法とするという基本原則のもと、準拠法を決定するという仕組みになっている。このように私法上の問題については、国際私法によりA国法が準拠法とされればB国法が適用されることはない。これに対して、国家的利益に直結している公法については、自国の公法だけが問題対象であり、その適用範囲だけが問題となり、自国法の適用に加えて、外国の国家的利益にも関係していれば、当該外国法が同時に適用されることもあり得る。
以上のことを前提とすると、一定の強い国家的利益に基づく法目的が背後にある会社法は、私法とは言えず、刑法や租税法といった公法のように、会社法の個々の規定が、外国的な要素を含む事案にも適用する意思をその規定自身が有しているかどうかが決め手になると考えてしかるべきだ、ということになる。
会社法は、「会社」と区別して「外国会社」を定義し(会社法2条2号)、「子会社」・「親会社」には、外国会社も含まれることを明らかにしている(同法2条3・4号、会社法施行規則2条3項2号・3条1項・2項)。つまり、民法が「人」と定め、日本人か外国人かを自らは区別せず、国際私法により日本法が準拠法とされれば、外国人にも民法の規定が適用されることになるというように、その国際的な適用範囲を国際私法に委ねているのとは異なり、会社法は、自らその国際的適用範囲を定めているのである。また、かつて議論があった「社債」についても、日本の会社法の規定により割当てがされるものと定義し(会社法2条23号)、日本の会社を債務者とするものであっても、少なくとも割当てについて外国法に準拠する有価証券の発行による借り入れは、会社法上の「社債」ではなく、したがって、社債管理会社の設置義務に関する規定(同法702条以下)の適用はないことを明らかにしている。このように国際的な適用範囲が明確にされている以上、それに従って日本の会社法の適用は決まり、他方、外国の会社法の適用があるか否かは日本としては関知しないということになる。
法制審議会・会社法制部会は、2012年8月1日、「会社法制の見直しに関する要綱案」をとりまとめた。その中で、多重代表訴訟の制度の導入が示されている。すなわち、持株会社制度が多用されるようになったこともあり、子会社に生じた損害に関する親会社役員への責任追及が現行法では事実上困難であることから、親会社株主に、子会社役員に対する代表訴訟を提起する権利を認めるべきであるとの指摘を受け、財界からの濫訴のおそれありとの懸念に対応して一定の制限を付した上で、これを導入する方向が示されている。この会社法における議論は、親会社のガバナンスという観点からのものであり、子会社を作った場合にも、株主代表訴訟を活用できるようにしようという発想であるということができる。では、日本の親会社の外国子会社に対してもこれは全うされるのであろうか。
この点、通常の国際私法の枠組みで考えると、株主代表訴訟は、会社の株主による役員に対するコントロールという組織法上の重要問題であり、子会社の役員の責任追及である以上、子会社の問題であるので、子会社の設立準拠法が多重代表訴訟を認めていない限り、できないと考えられる。つまり、子会社として外国会社を設立すれば、その外国法がこの問題を規律するのであって、親会社が日本法人であって、日本の会社法上、多重代表訴訟が導入されたからといって、その外国法が親会社の株主を子会社の役員の責任追求をすることができる者として認めない限り、親会社の株主は手が出せないのである。
さらに、民事訴訟法等一部改正法により本年4月に施行された国際裁判管轄規定に照らすと、そもそも、株主代表訴訟は、被告が外国会社であれば、日本の裁判所に提起することはできない。すなわち、同法3条の5第1項によれば、「会社法第7編第2章に規定する訴え・・・の管轄権は、日本の裁判所に専属する。」と定められており、これは、外国会社の場合には当該外国の裁判所に専属することになるからである。したがって、手続法の観点からも、株主代表訴訟のような会社の根幹に関わる問題は、その会社の設立準拠法所属国のみに判断権があると考えられているのである。
もとより、法制審議会・会社法制部会も、このことは十分にわきまえている。上記においては、「子会社」・「親会社」という表現を用いたが、要綱案では、「株式会社」という用語が用いられており、定義上、外国子会社も外国親会社も排除されている。したがって、日本の親会社の株主に日本の子会社の役員に対する株主代表訴訟の原告適格を与えることに限定した改正が予定されているのである。
このように、誰が代表訴訟を提起することができるかという問題は、国際私法により、外国親会社・日本子会社の場合には、子会社の設立準拠法である日本法が多重代表訴訟を認めているのであれば、外国親会社の株主には原告適格が認められるという議論をする余地はなく、日本の会社法としては、上記のように、親子とも日本の株式会社である場合に限定してこの制度を導入しようとしているのである。(他方、日本親会社・外国子会社の場合に、当該外国法により、親会社の株主に子会社の役員に対する代表訴訟を提起する地位が認められることはあり得る。)
以上のような会社法と民法との違いはもっと注目されてしかるべきであり、会社法改正にあたっては、国際的適用範囲について常に感覚を鋭く磨き、法目的達成に遺漏なきようにする姿勢が肝要である。
(掲載日 2012年9月18日)
次回のコラムは10月1日(月)に掲載いたします。