第209回  ローマとユニドロワ国際商事契約原則

同志社大学教授
高杉 直

前回(第194回)はオランダのデン・ハーグを取り上げたが、今回は「永遠の都」とも呼ばれるイタリアの首都「ローマ」をテーマとしたい。ローマといえば、コロッセオ、トレビの泉、真実の口、スペイン広場などが有名であるが、国際取引法の研究者にとっては、「私法統一国際協会(ユニドロワ/Unidroit)」が思い起こされる。

ユニドロワは、1920年代に設立された、私法の統一・調和を目的とする、ローマに本部を置く国際組織である。現時点で、日本を含む63カ国が加盟している。これまで、1964年のハーグ統一売買法条約(ウィーン売買条約の前身ともいうべきもの)、1988年の国際ファクタリング条約や国際ファイナンス・リース条約、2001年の可動物件の国際的権益に関するケープタウン条約などを起草している。最近では、「国際商事契約原則(Principles of International Commercial Contracts)」(ユニドロワ原則、PICCなどと呼ばれる)を作成した組織としても有名である。

このユニドロワが作成したPICCは、条約ではなく、国際的に通用する「契約法の一般原則」と認められる規範を条文化したものである(2010年版PICCについての、内田貴・曽野裕夫・森下哲朗の3氏による条文の邦訳が、ユニドロワのウェブサイトから無料で入手できる)。PICCの前文によれば、国際契約の当事者のための中立的な準拠法、契約法の立法者のためのモデル、国際条約の解釈・補充の参考資料などとして利用されることを予定している。

最近では、PICCを準拠法とする国際契約や、PICCを適用した仲裁判断なども出始めている。日本での債権法の改正議論においてもPICCへの参照がなされている。大学教育においても、PICCの本格的な解説を行う授業が見られるようになった。PICCは、事実上の世界標準の売買法となりつつあるウィーン売買条約の基本的な考え方を契約法一般に広げ、かつ、ウィーン売買条約の欠点や不足を補うような内容を有するものであり、20-30年後には、実務上も、PICCが世界標準の契約法となっているかもしれない(と、映画「ローマの休日」を見ながら夢想している)。

(掲載日 2012年11月12日)


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