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西村あさひ法律事務所
弁護士 細野 敦
最高裁第二小法廷は、平成24年12月21日、不動産に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社アーバンコーポレイション株(判例に倣って、以下「Y株」という。)の値下がりによって投資家である被上告人が受けた損害の一部には、虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものが含まれているというべきであるのに、これを否定して、被上告人投資家が受けた損害の全部が虚偽記載等により生じたものであるとして、金融商品取引法(以下「金商法」という。)21条の2第4項又は5項の規定による減額を否定した原審(東京高裁平成22年11月24日判タ1351号217頁、以下「東京高裁判決という。)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻すとの判決を下した※1。
株式会社アーバンコーポレイション(以下「アーバン社」という。)の民事再生手続における債権届出に係る査定決定に対する異議申立事件に関する裁判例は既に多数公表され、その判断手法及び結論も区々に分かれていたところ※2、最高裁が、初めてアーバンコーポレイション事件についての判断を示したことで、今後の下級審レベルでの判断の統一が見込まれるが、今回、最高裁判決と東京高裁判決とで、金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額の可否について、結論を分けたものは何だったのであろうか。
東京高裁判決のアーバンコーポレイション事件に対する見方は、「控訴人(筆者注:アーバン社。以下も同様)は、6月末には破綻状態にあり、A(筆者注:本件最高裁判決の引用例に倣う。)や本件取引(筆者注:CB発行とスワップ契約の組み合わせ取引)による資金調達が公表されるまでは、日本格付研究所による格付けの投機的水準とされるまでの引下げなど、控訴人の破綻状態が市場にも明らかであったことからすると、控訴人の株価の下落は、本件取引による控訴人の資金調達の方法に虚偽記載があったことが公表されたことで、控訴人の信用が喪失し、今後の控訴人の資金調達の見込みが失われたことにその原因があったと認めることができる。控訴人は、6月末の時点で、資金調達の見込みがなければ、民事再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあったのだから、控訴人が、民事再生手続開始の申立てを本件臨時報告書の虚偽記載等の公表と同日に行ったからといって、民事再生手続開始の申立ては、控訴人が虚偽記載等の公表に伴って必然的にとらなければならない対応であったのであるから、控訴人の株式の下落が民事再生手続開始の申立てがされたことによって生じたものと認めることはできない。」との認定に集約されているものと考えられる。すなわち、実態として、虚偽記載を明らかにすれば、民事再生手続開始申立てに至ることは当然の状態にあったということである。また、原々審の東京地判平成22年3月9日判時2083号86頁も、本件CBの発行及び本件スワップ契約の締結自体が、アーバン社の倒産回避を目的とするものであったと認めるのが相当であるなどとして、投資家が受けた損害の全部又は一部が、有価証券報告書等においてスワップ契約の記載を欠いたことにより生ずべきY株の値下り以外の事情により生じたことの証明はないと判示している。※3
この点、本件最高裁判決は、Y株の市場価格次第では、本件スワップ契約による資金調達が見込めないわけではなかったのみならず、仮に本件CBないし本件スワップ契約による資金調達が実現しなかったとしても、アーバン社は、平成20年6月初めからAとの間で業務・資本提携の交渉を開始しており、実際にも多額の資金を調達することに成功して、これを債務の返済に充てていたほか、AによるTOBが同年8月に実施されることも見込まれ、同年6月19日にはアーバン社が再生手続開始の申立ての検討を一旦は中止していたというのであって、本件虚偽記載等がされなかった場合に、こうしたAとの提携交渉までもが頓挫したことが確実であることをうかがわせる事情は見当たらず、「本件虚偽記載等がされた当時、上告人(筆者注:アーバン社。以下も同様)が倒産する可能性があったことは否定できないものの、上告人が既に倒産状態又は近々倒産することが確実な状態であったということはできず、本件虚偽記載等によってそのことが隠蔽されていたということもできない。」と、原審、原々審とは異なる評価をしている。
須藤判事の補足意見は、原審の認定が誤っている根拠を法廷意見に沿って、一つ一つ論じている。須藤判事は、「本件臨時報告書等において、本件CB発行に際してのスワップ契約などの仕組みについても過不足なく開示されたならば、上告人の資金調達について何らかの疑念を招き得、上告人にとって好ましくない風評も市場に流れるであろうことは容易に予想され、その結果、一時的な混乱は避け難いであろうが、だからといって上記の業務・資本提携などの対応策が頓挫しあるいは破綻状態に至ることが確実であることをうかがわせる事情は見当たらない。」、「それ(筆者注:アーバン社が再生手続開始申立てをした理由)は資金繰りが行き詰まって破綻状態となったからであるが、そのような事態は、本件虚偽記載等及びその公表という事実によるものではなく、前記のとおり、本件公表日の直近時に前記の業務・資本提携策などの打開策が功を奏さなかったからである。更には,本件虚偽記載等の公表自体が上告人を必然的に破綻状態にさせ、再生申立てに至らしめるという性質を有することをうかがわせる事情は見当たらず、したがって、本件虚偽記載等と本件再生申立てとを一体視することもできない。」などとして、「経営難」に陥った企業が採る組織再編や事業上あるいは財務上の対応策に理解を示している。このことは、同一の証拠関係、事実関係に基づきながら、原審及び原々審が、本件CBの発行及び本件スワップ契約の締結自体が、アーバン社の倒産回避を目的とするものであったと評価したことと比較すると、極めて謙抑的な判断であると評価することができるものである。このような最高裁と下級審の差異が金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額の可否について、結論を分けた点と考えられる。「経営難」に陥った企業の採る財務スキーム等に関する評価は、極めて特殊な事項に属すると思われるため、最高裁と下級審が、同一の証拠関係から異なる証拠評価に到達していることは、いろいろな意味で興味深いといえよう。
(掲載日 2013年1月21日)