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文献番号 2024WLJCC007
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三
1.はじめに
本稿は、同性間での婚姻を認めていない民法および戸籍法の諸規定(以下、本件規定)の違憲性を争点とした札幌高裁判決を検討するものである。
同性間での婚姻を認めていない本件規定の違憲性を争点とした訴訟に関しては、すでに本札幌高裁判決の原審である札幌地裁判決※2以外にも、大阪地裁判決※3、東京地裁判決※4、名古屋地裁判決※5、福岡地裁判決※6が出されている。これらの一連の地裁判決では、大阪地裁が合憲、東京地裁と福岡地裁が違憲状態、札幌地裁と名古屋地裁が違憲と判断している。また、本札幌高裁判決と同日に東京第2次訴訟になる東京地裁が違憲状態とする判断※7を示している。これら一連の地裁判決が示されているなかで、初の高裁判決となるのが本札幌高裁判決であり、それだけに本札幌高裁判決は社会的にも法的にも注目されるものであり、いち早くその評釈を執筆することには高い意義があるものと思われる。
本件事案は、同性愛者である控訴人らが、同性間の婚姻を認めていない本件規定が憲法24条、13条、14条1項に違反しているにもかかわらず、必要な立法措置をとらないために精神的苦痛を被ったとして、国家賠償を求めたものである。
本札幌高裁判決では、国家賠償請求は認めなかったものの、(憲法24条2項だけでなく同条1項も含めて)憲法24条および憲法14条1項違反とした。特に憲法24条1項が同性婚の保障を要請している(すなわち「憲法24条1項は・・・・・・異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障している」)とした点で画期的な判決であると考えられる。
2.判例要旨
まず、憲法13条に関して、「個人の尊重に係わる法令上の保護は、異性愛者が受けているのであれば、同性愛者も同様に享受されるべきで・・・・・・性的指向は、重要な法的利益であ」り、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成し得るものというべきである」とした。しかし、「本件で問題となっているのは・・・・・・同性愛者にも婚姻という身分関係の変動における社会的な制度を享受させるべきかどうかということであって、さらには、歴史上の様々な事象や考え方を踏まえ、憲法の解釈上、これまで社会上、法令上想定されてきた異性愛者による婚姻の制度に同性婚を含めて容認するかという観点を含むところがあ」り、「憲法13条のみならず、憲法24条、さらには各種の法令、社会の状況等を踏まえて検討することが相当であり、このような観点からすると、憲法13条が人格権として性的指向及び同性間の婚姻の自由を保障しているものということは直ちにできず、本件規定が憲法13条に違反すると認めることはできない」とした。
次に憲法24条について、「同条は、その文言上、異性間の婚姻を定めており、制定当時も同性間の婚姻までは想定されていなかった」が、しかし、「仮に立法当時に想定されていなかったとしても、社会の状況の変化に伴い、やはり立法の目的とするところに合わせ、改めて社会生活に適する解釈をすることも行われている」のであり、「憲法24条についても、その文言のみに捉われる理由はなく、個人の尊重がより明確に認識されるようになったとの背景のもとで解釈することが相当である」とした。そして、「性的指向及び同性間の婚姻の自由は、現在に至っては、憲法13条によっても、人格権の一内容を構成する可能性があり、十分に尊重されるべき重要な法的利益であると解され」、また、「憲法24条1項は、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解され」、「そして、憲法24条2項は婚姻及び家族に関する事項についての立法に当たっては個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきと定めている」ことからすれば、「性的指向及び同性間の婚姻の自由は、個人の尊重及びこれに係る重要な法的利益であるのだから、憲法24条1項は人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障していると考えることが相当である」とした。
つまり、「性的指向及び同性間の婚姻の自由は、憲法13条によっても、人格権と同様に、重要な法的利益と解される。そして、憲法24条は、憲法13条を受けて定められており、同条1項が同性間の婚姻を文言上は直接的に保障していないとしても、同条2項が定めるとおり、個人の尊厳が家族を単位とする制度的な保障によって社会生活上実現可能であることを踏まえると、同条1項は人の人との間の婚姻の自由を定めたものであって、同性間の婚姻についても、異性間の婚姻と同程度に保障する趣旨である」にもかかわらず、本件規定は、「同性間の婚姻を許しておらず、同性愛者は婚姻による社会生活上の制度の保障を受けられない。このことにより、社会生活上の不利益を受け、その程度も著しいということだけでなく、アイデンティティの喪失感を抱いたり、自身の存在の意義を感じることができなくなったり、個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなど、個人の尊厳を成す人格が損なわれる事態となってしまっている」一方で、「同性間の婚姻について社会的な法制度を定めた場合の不利益・弊害を検討すると、社会的な影響を含め、社会上の不利益・弊害が生じることがうかがえ」ず、「同性婚を認めることは、現存の制度の例外を定め、少数の割合であるが、相応の人数に達する同性愛者に対する権利を保障し、個人として尊重することに意義を有する」とした。
そして、同性間の婚姻に関する反対意見として、「歴史及び制度上、一般的に、長らく異性間の婚姻が存続し、生殖機能の違いを有する男女の夫婦を基本的な単位とする家族制度が続いてきたことから、これと異なる同性間の婚姻について、同性愛に対する違和感、これが高じた嫌悪感、偏見を持つ場合がある」が、それについては、「感覚的、感情的な理由にとどまるものといえ、現在も実施されているように、啓蒙活動によって、同性愛は、生まれながらの器質、性質に由来し、合理的に区別する理由がないことを説いていくことによって解消していく可能性がある」とし、また、「生殖機能に相違がある男女間の婚姻についてのみ、次世代に向けての子の育成の観点から、社会的な制度保障をすることが相当であり、そうではない同性間の婚姻についてはその保障が必要ないとする意見が考えられる」とするが、それについては、「人が生まれながらに由来する自由と権利、これに係る個人の尊厳の実現には、家族とこれに対する社会的な制度の保障が不可欠であるといえるのであって、同性間で婚姻ができない不利益を解消する必要性は非常に高」く、「婚姻の制度について様々な考え方があり、生殖機能に相違がある男女間の婚姻について一定の意義を認めるにせよ、これを理由に、同性間の婚姻を許さないということにはならない」とした。
さらに、「パートナーシップ認定制度は、当該自治体による制度という制約があり、本件規定が異性間の婚姻以外について一切手当をしていないことに鑑みると、パートナーシップ認定制度により、同性婚ができないことによる不利益が解消されているということはできない」ため、「パートナーシップ認定制度の普及により、本件規定の見直しが不要になると解することはでき」ず、「婚姻と家族に係る法制度等は多種多様にわたり、法令上又は社会上定められている一部の規定においては、婚姻について、異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻を含むものと解することによって、同性婚ができない不利益を一定程度解消することができる」が、「しかし、これも、個々の規定により保護されるにすぎず、本件規定が同性婚を許さないことの合理的な理由になるとは認められない」とした。
以上のこと等から、「本件規定は、異性間の婚姻のみを定め、同性間の婚姻を許さず、これに代わる措置についても一切規定していないことから、個人の尊厳に立脚し、性的指向と同性間の婚姻の自由を保障するものと解される憲法24条の規定に照らして、合理性を欠く制度であり、少なくとも現時点においては、国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っている」として、本件規定を憲法24条違反であるとした。
次に憲法14条1項について、「自由で平等な婚姻による家族の成立とその制度的な保障によって、個人が尊重され、その尊厳が実現することは、憲法24条が定める目的と理解することができ」、「そうであれば、性的指向に差異がある者であっても、同じように制度的な保障を享受し得る地位があり、それを区別する合理的な理由はな」く、「そうであるにもかかわらず、本件規定は、同性婚を許しておらず、同性愛者は、婚姻によって生じる法的効果を享受することができない」のであり、したがって、「本件区別取扱いは合理的な根拠がない」とした。そして、「現状を見てみると、本件規定が同性婚を許していないため、同性愛者は婚姻することができず、これによる制度的な保障が受けられないことから、異性婚の成立によって享受が可能となる様々な制度が適用されないという著しい不利益を受けて」おり、「このことは、日常の生活、職場の関係、社会上の生活の各場面においてそうであるし、不慮の出来事が起きた場合にも同様であって、要するに人としての営みに支障が生じている」とし、そして、「婚姻による効果は、民法のほか、各種の法令で様々なものが定められており、代替的な措置によって、同性愛者が婚姻することができない場合の不利益を解消することができるとは認め難い」とした。
以上のこと等から、「国会が立法裁量を有することを考慮するとしても、本件規定が、異性愛者に対しては婚姻を定めているにもかかわらず、同性愛者に対しては婚姻を許していないことは、現時点においては合理的な根拠を欠くものであって、本件規定が定める本件区別取扱いは、差別的取扱いに当たる」とし、「本件規定は、憲法14条1項に違反する」とした。
ただし、「同性婚立法の在り方には多種多様な方法が考えられ、設けるべき制度内容が一義的に明確であるとはいい難いこと、同性婚に対する法的保護に否定的な意見や価値観を有する国民も存在し、議論の過程を経る必要があること等から、国会が正当な理由なく長期にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない」として、国家賠償請求は認めず、控訴を棄却した。
なお、付言として、本札幌高裁判決は、「同性間の婚姻を許さない本件規定については国会の議論や司法手続において、憲法の規定に違反することが明白になっていたとはいえないし制度の設計についても議論が必要であると思われる」としつつも、「根源的には個人の尊厳に関わる事柄であり、個人を尊重するということであって同性愛者は、日々の社会生活において不利益を受け、自身の存在の喪失感に直面しているのだから、その対策を急いで講じる必要がある。したがって喫緊の課題として、同性婚につき異性婚と同じ婚姻制度を適用することを含め、早急に真摯な議論と対応をすることが望まれるのではないかと思われる」とした。
3.検討
これまでの地裁判決は、まず憲法24条1項で婚姻の問題を扱い、それを踏まえて同条2項の婚姻の解釈を進めることで同性婚の保障の要請を否定しつつも、同条2項の家族形成のところで個人の尊厳と両性の本質的平等の要請を受け止める構成をとっている。
それに対して、本札幌高裁判決では、憲法13条を踏まえつつ、憲法24条2項の個人の尊厳と両性の本質的平等の要請を理解したうえで、それを同条1項の婚姻のところで受け止めることで、同条1項が同性婚も要請しているとしている。すなわち、「憲法24条は、憲法13条を受けて定められており、同条1項が同性間の婚姻を文言上は直接的に保障していないとしても、同条2項が定めるとおり、個人の尊厳が家族を単位とする制度的な保障によって社会生活上実現可能であることを踏まえると、同条1項は人の人との間の婚姻の自由を定めたものであって、同性間の婚姻についても、異性間の婚姻と同程度に保障する趣旨である」としたのである。そして、こうした憲法24条の理解を前提にすれば、「本件区別取扱いは合理的な根拠がない」ことになり、「同性婚を許していないため、同性愛者は婚姻することができず、これによる制度的な保障が受けられないことから、異性婚の成立によって享受が可能となる様々な制度が適用されないという著しい不利益」や「代替的な措置によって、同性愛者が婚姻することができない場合の不利益を解消することができるとは認め難い」ことから、「本件規定は、憲法14条1項に違反する」としたのである。
こうした本札幌高裁判決の憲法24条の解釈の仕方に関しては、一般論としては諸々の議論はあると思われるが、しかし、性別の取扱いの変更の審判を受けるにあたって生殖腺除去手術を実質的に強制している性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号が憲法13条違反であるとした2023年10月25日の最高裁大法廷決定※8との整合性を考えれば、憲法24条が同性婚も保障しているとの結論に至ることは、むしろ当然のことであると考えられる。すなわち、この最高裁決定によって、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号の「規定が憲法違反であるとされた以上、たとえ僅かな可能性であったとしても、戸籍上の性別では同性の間で子どもが生まれ得ることからすれば、同性婚か、少なくともパートナーシップ制やファミリーシップ制の導入による家族形成を認めなければならないはずで・・・・・・その意味では、本最高裁決定は、同法3条1項の各号で定める要件の見直しだけでなく、同性婚(少なくとも、それに代替し得る家族制度)に関する法整備を先導するものと評価でき」※9、したがって、こうした最高裁決定を踏まえれば、(同性婚かパートナーシップ制やファミリーシップ制かはともかく)もはや同性間での家族形成を認める規定を設けないことは許されないものと考えられるわけであるが、しかし、本札幌高裁判決も言及するように、同性婚の代替的な措置であるパートナーシップ制度の導入等では法的不利益の解消に限界があり、根源的な解決のためには、やはり同性婚を認めなければならないと思われるからである。
すでに、地方公共団体によってはパートナーシップ制度等の導入が進められており、同性間での家族形成に関する理解も広まり、一定程度の社会的不利益の解消も行われてきたものと思われる。しかし、それでは根源的な不利益の解決には至らず、「婚姻による効果は、民法のほか、各種の法令で様々なものが定められており、代替的な措置によって、同性愛者が婚姻することができない場合の不利益を解消することができるとは認め難い」ため、次の段階としては、やはり同性婚を認める方向が求められているものと考えられる。つまり、現在は、パートナーシップ制度等の同性婚の代替措置を求める段階から、根源的な解決のために同性婚を認めることを求める段階に変化してきているのである※10。
また、海外でも同性婚やそれに類似する制度が導入されていることからすれば、ますますグローバル化の進む現代社会において、日本でも現実には同性間で家族形成することが一般的になるものと想定される。そのため、日本で同性間の婚姻を法的に認めないことは、それを望む人たちを苦しめるだけで、何ら意味をなさないだろう。
したがって、こうした2023年10月25日の最高裁大法廷決定や本札幌高裁判決等の司法判断の大きな潮流と国際社会の状況に鑑みれば、今後、想定される司法判断を待つまでもなく、政府や国会は、同性婚やそれに類似する制度の導入に向けて、積極的に議論を進めるべきであろう。政府や国会は、「根源的には個人の尊厳に関わる事柄であり、個人を尊重するということであって同性愛者は、日々の社会生活において不利益を受け、自身の存在の喪失感に直面しているのだから、その対策を急いで講じる必要がある。したがって喫緊の課題として、同性婚につき異性婚と同じ婚姻制度を適用することを含め、早急に真摯な議論と対応をすることが望まれる」とした本札幌高裁判決の付言を真摯に受け止めるべきである。
4.おわりに
本札幌高裁判決も含め、近時の司法判断の動向は、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity:性的指向と性自認)に関する法的・社会的制度の大きな変化を促しているものと考えられる。そして、政府や国会だけでなく、企業においても、こうした動向は決して他人事ではないものと思われる。
なぜなら、PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)やESG(Environment Social Governance)の考え方は、人権の価値観を市場原理に組み込んだものと評価でき、そうであるならば、企業においても、こうしたSOGIに関する動向と捉えて、積極的な対応を行うことが成長の鍵となるであろうからである。政府や国会で同性婚やそれに類似する制度の導入を議論するにしても、一定の時間はかかるであろうが、法改正を待たずとも、それぞれの企業で実施できること(あるいは、すべきこと)は数多くあるはずであり、それらを実施することは、企業にとっても、多くのメリットを生むものと考えられる。すでに取り組んでいる企業も数多くあるが、より一層、積極的な取り組みが期待されるところである。
(掲載日 2024年3月21日)