第151号フランチャイズ本部の契約更新拒絶が債務不履行とされた裁判例
(東京地裁平成30年3月22日判決・平成28年(ワ)第37912号※1
〜本部による契約更新拒絶が債務不履行になる場合と加盟店への損害賠償額〜

文献番号 2018WLJCC027

若葉パートナーズ法律会計事務所 弁護士
若松 亮

1.事案の概要と争点

 本件は、幼児向け英会話教室のフランチャイズチェーンを展開する本部(被告)との間でフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結した加盟店(原告)が、本部に対し、本部が正当な理由なく本件契約の更新を拒絶し、これにより加盟店が本件契約の解除を強いられ損害を被ったとして、債務不履行に基づく損害賠償等を求めた事案である。本部によるフランチャイズ契約の更新拒絶の有効性が問題となる事例は多くあるが、本判決は、本部の更新拒絶の有効性を否定するだけでなく、更新拒絶がフランチャイズ契約上の債務不履行となるとして、本部の損害賠償義務を認めた点に特徴がある。
 裁判では、@本部の更新拒絶等が債務不履行となるか(契約の終了理由)、A本部の債務不履行が認められる場合の加盟店の損害という争点のほか、B本部の不当利得の成否やC本部の反対債権による相殺の成否も争点となったが、本稿では紙面の都合上@及びAについて述べることとする。
 なお、本件契約における加盟店は、他に仕事を持っているなどの者がキャンペーン活動を本部に任せることを前提として加盟店となるというホワイトナイトオーナーという位置づけがされており、教室運営への関与は限定的であった。本件契約の経済的実質は、一般的なフランチャイズ契約よりもむしろ投資契約に近いものであり、このことが本判決の判断にも影響しているように思われる。


2.本部の更新拒絶等が債務不履行となるか

  1. (1)  本件契約は、契約期間の定めのある契約であったが、「契約期間満了の6か月前までに当事者のいずれからも契約解除、終了の意思表示がない場合、同内容で5年間自動更新する」旨の自動更新条項が置かれていた。
     このような自動更新条項が置かれている場合、本部が契約書において定められた契約期間満了の一定期間前までに更新拒絶の意思を表示すれば、契約書上は期間満了によってフランチャイズ契約は終了することになる。
     しかし、フランチャイズ契約を含む継続的契約において、一方当事者が契約関係を解消しようとする場合、法律上又は契約上、形式的に解消の要件を満たすとしても、それだけでは解消が認められず、「契約を終了させてもやむを得ないと認められる事由」「取引関係の継続を期待し難い重大な事由」「正当な事由」等(以下「やむを得ない事由」と総称する。)が必要であるとする裁判例が多数存在する。これらの裁判例において、契約の解消の是非を判断する際に考慮されている典型的な事情は、@現実的に想定される取引期間と契約条項の齟齬(条項上は契約期間が短期に限定されているにもかかわらず、実際には契約が長期間継続することが予定されている等)、A被解消者への事業の影響の度合い(被解消者の初期投資の回収等)、B被解消者の取引への貢献、C当事者の非対称性(企業対個人等)、D解消の必要性(被解消者の契約違反や信頼関係の破壊等)、E解約告知期間の長さ等である※2。継続的契約の解消が問題となっている事案の解決に当たっては、上記@〜Eの事情の有無を検討することが有益であると考える。
     フランチャイズ契約においては、加盟店(フランチャイジー)は当該事業を始めるために多額の投資をしているので、その投資回収についての合理的期待を保護する必要がある(上記のAの事情)。裁判所は、本部(フランチャイザー)の更新拒絶を公序良俗や信義則を理由に制限するようになり、やがて当事者の公平の観点から、契約を継続し難いやむを得ない事由がないかぎり契約更新が原則であると判断するようになってきている※3。また、フランチャイズ契約については、本部が企業、加盟店が個人又はその法人成りした企業という場合も多く、当事者に非対称性がみられる(上記Cの事情)ことも多くの裁判例が更新拒絶にやむを得ない事由を必要とする判断をしていることの背景にあると考えられる。
  2. (2)  本件については、本件契約の終期に関する記載が契約書内や本部が発行した各書面において齟齬しており、本部は「契約期間満了の6か月前までに」更新拒絶を行ったと主張したが、裁判所はこれを認めなかった。
      そのため、本部において、加盟店に複数の契約違反行為があるため、本部の更新拒絶には正当な理由があると主張した(上記Dの事情)が、裁判所は加盟店の契約違反行為はないか、あるとしても更新拒絶を正当化するほどの重大な契約上の義務違反にあたるものとはおよそ認められないとして更新拒絶を認めなかった。ただし、本判決は、後述の本部の更新拒絶が債務不履行となるかの判断に際して、加盟店の初期投資の回収の必要性(上記Aの事情)を論じており、本部の更新拒絶を認めないとの判断については、この点の事情も考慮しているものと考えられる。
     本件においては、本部の契約書等の記載に齟齬があり、更新拒絶の通知時期が契約上の時期にできなかったことが本部の更新拒絶が認められなかった原因の一つとなっている。本部は、多数の加盟店と契約書等の書面を締結し、また自ら書面を発行することになるが、これらの書面の記載内容に齟齬がないかきちんと確認し、また適切に保管すること(いわゆる契約管理の問題)が将来の紛争防止や紛争が発生した際の証拠の準備という観点からも非常に重要であることは言うまでもない。また、本部としては、契約解除を求める根拠として加盟店の契約違反(上記Dの事情)を主張すべき場合もあるが、そのためには、契約書上に加盟店が守るべき契約上の義務を具体的に記載し、かつ、その契約上の義務違反が解除理由となる旨を明確に記載しておく必要があることも心掛けておく必要がある。
     ただし、本件に関しては、投資契約の色合いが濃い本件契約において加盟店の初期投資の回収が完了していないこと(上記Aの事情)や、本部が法人で加盟店が個人であること(上記Cの事情)といった事情があったことから、本部の更新拒絶が契約上の期間内に行われていたとしても、更新拒絶は認められない事案ではなかったかと思われる。
  3. (3)  本部の更新拒絶が有効なものと認められない場合、本部に契約を継続すべき義務があり、この義務を放棄して契約の履行を拒絶するか、事実上拒絶したとみなされるような場合には、本部の更新拒絶が債務不履行に該当すると考えられる。裁判例としても、「解約申入れは本件取引の継続を期待しがたい重大な事由を欠き、しかも相当な予告期間を与えずしてなされたものと認められるから不当解除というべく」「納品を拒否し取引を中止したことによって生じた損害を賠償すべき義務がある」とする名古屋高判昭和46年3月29日※4や、「損失補償をしないまま予告期間を4か月とする本件解約をしたのは、本件販売代理店契約上の上記義務に違反するものであって、債務不履行に当たる」とする東京地判平成22年7月30日※5などがある。
  4. (4) 本判決は、「一般に、フランチャイズ契約においては、相当の期間の経営を行うことで、初期投資の回収を図ることが予定されていると解されるのであり、正当な理由なくその機会を奪うことは、フランチャイズ契約に伴うフランチャイザーとしての信義則上の義務違反にあたるというべきである」とし、主に本部の更新拒絶の前後に行われた本部による費用等の請求についてもこれを不当な請求であるとして、これらの本部の行為を更新拒絶と併せて本部の債務不履行と認定し、本件契約はこの本部の債務不履行を原因とする加盟店側の解除によって終了したと認定している。
     本件については、本部による更新拒絶があり、かつ、主に更新拒絶の前後に加盟店に対する不当な費用等の請求があった事実が認定された事案であるため、本部が本件契約の履行を拒絶するか、事実上拒絶したとみなされるような場合に該当することが明確な事案であったと考えられ、本判決の認定は適切であると考える。

3.本部の更新拒絶が債務不履行となる場合の加盟店の損害

  1. (1)  相当期間の契約継続により投下資本の回収を図るという加盟店の機会を奪うことが、本部の更新拒絶が債務不履行である根拠とされるのであれば、この債務不履行による加盟店の損害は、更新拒絶がなければ継続することができた相当期間の逸失利益であると考えるのが論理的である。
     この点、前掲名古屋高判昭和46年3月29日は、取引中止から1年間の得べかりし利益を損害と認め、前掲東京地判平成22年7月30日も、予告期間として相当な1年から実際にとられた予告期間4か月を差し引いた8か月に係る総利益から販売直接費及び販売管理費を控除した営業利益の喪失分を損害と解しており、共に更新拒絶がなければ継続することができた相当期間の逸失利益を損害と捉えている。
     本判決も、本部の債務不履行により、本件契約が継続していたら得られたはずの逸失利益の喪失が損害にあたるという考え方を採用しており、上記裁判例に沿う考え方であると思われる。
  2. (2)  相当期間の逸失利益を損害と捉えるとして、次に問題となるのは、どの程度の期間を更新拒絶がなければ契約が継続していたであろう相当期間として認定し、その期間の逸失利益をどのように算定するかである。
      この点、本判決は、本部と加盟店の間に争いのない収支から本部による不当な請求であると裁判所が認定した金額を控除した各年の収支状況を認定した上で、本件契約の期間が5年であることからすると、少なくともその半分の期間にあたる2年半については加盟店による経営が続いていた蓋然性が高いと認めるのが相当であるとして、最終年度の利益にこの2年半を乗じた金額を加盟店の逸失利益として認定した。
     前掲名古屋高判昭和46年3月29日や前掲東京地判平成22年7月30日は、相当期間を1年間として計算しており、又、家屋の賃貸借契約の事例ではあるが、賃貸人が期間経過後に解約申入れをした事案で、契約自体は更新されるものの、更新時点において解約申入れの効力が生じたとして、6か月経過後に賃貸借契約の終了を認めた最判昭和38年2月1日 ※6を参考にすると、本判決が認定した相当期間の2年半はやや長いようにも思われる。ただ、本件は、本件契約により加盟店に収益が出るようにはなってきたものの、加盟金等の初期投資費用の回収には至っておらず、本判決は、本件契約の投資契約的色合いの強さも考慮して、2年半という長期の期間を認定したのではないかとも推測される。いずれにせよ、継続的契約の一方当事者による契約の強制的な終了が債務不履行とされる場合の損害の算定にあたっては、相当期間とその間の利益をどのように認定するかが重要な争点となり、この点に関する裁判例の蓄積が待たれるところである。
     なお、本件の本部は、一旦更新拒絶したものの、本件契約の更新を提案したのに、加盟店がこれを拒絶したのであるから逸失利益と本部の債務不履行は相当因果関係を欠くと主張したが、本判決は、既に本部と加盟店との間の信頼関係が破壊されている上に、本部による契約継続の申出は本部が本件契約の対象の教室を直営化したあとであったことに照らして相当因果関係の切断を認めなかった。本判決が認定した本件の事実関係を見る限り、本部が真に本件契約の継続を意図していたとは考えられないことから、この点の本判決の認定は妥当であると考える。


(掲載日 2018年10月29日)

 

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