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弁護士・高岡法科大学教授
中島 史雄
旧ライブドアをめぐる粉飾決算事件で、証券取引法(現金融商品取引法)違反(有価証券報告書虚偽記載・偽計・風説の流布)に問われていたホリエモンこと元社長の堀江貴文被告に対し、最高裁は4月25日付で上告を棄却し、懲役2年6月の実刑を科していた第1審・第2審判決が確定し、6月20日に刑務所に収監された。なお、堀江は2006年1月23日の逮捕から94日ぶりに保釈金3億円で拘置所から保釈されていた。
一方、村上ファンド元代表の村上世彰被告は、ライブドアからニッポン放送株の大量取得情報を取得したとして、証券取引法のインサイダー取引容疑で起訴され捜査段階では容疑を認めていたが、第1審の公判では全面無罪を主張していた。第1審判決(2007年7月19日)は、堀江らから株の大量取得情報を伝えられその公表前に約193万株を約99億5000万円で買い集めたと認定し、不正利益は30億円にのぼるとして、懲役2年、罰金300万円、追徴金11億4900万円を言い渡したが、村上被告は直ちに控訴した。実刑判決を受けた同氏は、同日午後保釈金7億円を納付して同日夕方に再保釈された。第2審判決は、「高値での売り抜けは市場操作的な行為であり背信的であるが、その面は量刑上あまり強調すべきではない」として、執行猶予3年を付けたほか、懲役、罰金および追徴金は同様とした。重要情報の範囲について、第1審が「実現可能性があれば足りる」としていたのに対し、第2審(2009年2月3日)は「それ相応の根拠を持つ実現可能性が必要」とし執行猶予付の判決を出したのである。村上は、社会的名誉は一部回復されたが、事実認定に納得できない点があるとして即日上告した。最高裁判決は重要情報の判断については「実現可能性があることが具体的に認められることは要しない」として1審の判断に沿いながら、量刑については2審の判断に沿って執行猶予を付け、罰金および追徴金は1,2審と同様であった。
この最高裁判決に対して、インサイダー情報の解釈範囲を広く捉え過ぎており企業再編や投資活動を委縮させるおそれがあるとする批判がある一方、企業の実務では重要案件では注意深くインサイダー取引の可能性を排除しているのが実態で、影響はさほど大きくないし、企業が実現を意図して内部で決定したことが重要情報に当たると認定していて実現可能性を無視した判断とはいえないと評価する見解もある。
いずれにせよ、司法の判断は、これまで株主を軽視してきた日本企業の経営者に『ものをいう株主』としてもてはやされてきた投資ファンドに対し、公平性、公正性、透明性が求められる資本市場における徹底した利益至上主義を断罪しているのである。
これは、ホリエモンについても同様であり、彼は一貫して無罪を主張したのに対し、第1審判決(2007年3月16日)は、「一般投資家を欺き、企業利益のみを追求した犯罪で、まったく反省していない」と非難しており、第2審判決(2008年7月25日)も、「成長を装った粉飾は、高額でなくても犯行結果が大きいと評価した1審判決は是認できる」として控訴棄却し、最高裁も事実誤認があり実刑は重過ぎるとした上告を棄却したのであった。
村上が逮捕された後は、沈黙を貫いたのに対して、堀江が逮捕された後もマスコミを通じて挑戦的で収監の折もモヒカン刈りに黒いTシャツ姿で現れ、「株主に迷惑をかけて申し訳ない」と語り、社会への謝罪が一貫してなかったことが、罪質の差異もさることながら、執行猶予が付かなかった理由であろう。リーマンショックや東日本大震災後の復興を目指すわが国の行方と村上・堀江の今後の生き方が注目される。
(掲載日 2011年7月25日)