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判例コラム

 

第292号 過少申告加算税における「正当な理由」  

~「ムゲンエステート事件」最高裁令和5年3月6日判決※1

文献番号 2023WLJCC014
明治学院大学 教授
西山 由美

1. はじめに
 事業者が居住用賃貸建物を購入し、これにリフォーム等を行ったのちに売却するビジネスモデルは、中古マンションの有効活用や富裕者向けの投資として有用である。しかしながら消費課税の視点からみると、事業者には常に多額の還付税額が発生することとなる。
 事業者が居住用賃貸建物を購入してから売却するまでの間に家賃(消費税法-以下「法」という-6条1項により非課税となる資産の譲渡等の対価)が入る。当該事業者が当該建物購入に係る仕入税額控除について個別対応方式(法30条2項1号)を選択した場合、その仕入税額は、事業者側の主張によれば、全額が課税対応仕入れとして控除でき、課税庁側の主張によれば、非課税対応仕入れに対応する部分の控除はできず、共通課税仕入れとして課税売上割合によって控除されることとなる。
 この問題は、本件「ムゲンエステート事件」※2および「エー・ディー・ワークス事件」※3で注目されたが、両事件とも課税庁側の考え方に拠る最高裁第一小法廷判決が同日に出たことにより、共通課税仕入れとする取扱いが定着すると思われる。
 ただし本件「ムゲンエステート事件」では、控訴審判決が課税庁の課税処分は認めたが、過少申告加算税賦課決定処分を取り消したため、これについて国側が上告した。最高裁における争点は、本件において過少申告加算税における「正当な理由」(国税通則法65条4項)が認められるかどうかである。
 本件のようなビジネスモデルにおける仕入税額控除に対する税務当局の見解は、平成9年ごろには全額を課税対応仕入れとできる旨の回答が東京国税局から出されているものの、平成17年ごろに国税庁職員執筆のQ&Aにおいて、共通課税仕入れに区分されるとの見解が示されている。また現在に至るまで、課税仕入れが課税売上げのためのものか、それとも非課税売上げのためかという用途区分の判定時期等に関する法令の規定はない。令和2年税制改正で創設された法30条10項により、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物・・・に係る課税仕入れ等の税額については、[仕入税額控除を]認めない」とされ、本件のようなビジネスモデルを想定した規定をおいているものの、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らか」かどうかの判定時期は、なおも明確に定められていない。
 以上のような状況で、過少申告加算税が賦課されない「正当な理由」が事業者側にあるかどうか、本最高裁判決を通して考えていく。

2. 事実の概要と争点
 X社(原告・控訴人・被上告人)は、12月を決算月とする平成25年課税期間から同27年課税期間において、全部または一部が賃貸住宅である建物344物件を税込価額約1372億円で購入し、これら建物を棚卸資産として会計処理をしていた。そして、その購入時に負担した仕入税額全額を「課税売上のみに要する課税仕入れ」(法30条2項1号イ)として申告をしたところ、所轄税務署長より、この課税仕入れは課税資産の譲渡と非課税資産の譲渡との双方に係る「共通課税仕入れ」(法30条2項1号ロ)にあたるとして、更正処分および過少申告加算税賦課決定処分がなされた。
 第一審判決および控訴審判決は、この課税仕入れは「共通課税仕入れ」に該当するとして、本件の主要な争点についてはX社の主張は退けられた。しかし、控訴審判決は過少申告加算税賦課決定処分を取り消したため、主要な争点について主張が認められた国側より上告がなされた。
 第一審におけるX社の主張の骨子は、①国税庁作成の「消費税一問一答(平成6年版)」で「販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置き場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる」と記載されていること、②国税庁の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」についての従前の解釈によれば「直接、間接を問わず、また、現実に譲渡を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等をいう」としていることから、X社の過少申告が、税務当局の突如の取扱い変更により生じたものであり、これに対して過少申告加算税を賦課することは不当ないし酷であるというものである。以上のようなX社の主張に対して第一審判決は、「[X社に]過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるとまではいえない」とした。
 これに対して控訴審判決は、以下のとおりであった。すなわち、「税務当局が、個別対応方式における用途区分において、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定したとも理解し得るような事実が認められる・・・。その後、税務当局は、本件と争点を同一にする平成17年裁決、平成22年裁決、平成24年裁決において、用途区分を『課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの』であると主張して、これが是認されており、遅くとも平成17年頃には上記回答の見解を変更したことが窺われるが、税務当局として、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講じるのが相当であったと解されるにもかかわらず、そのような措置を講じているとは認められない。・・・税務当局の従前の対応例、これを根拠とする紛争が継続している事情の下では、本件各確定申告において、X社が、本件各課税仕入れを『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことについては、真にX社の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、X社に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるというのが相当である。」
 国は、この控訴審判決の「正当な理由」の解釈を不服として、最高裁に上告した。

3. 争点に対する判断(破棄自判)
 最高裁は、国税通則法65条4項の「正当な理由があると認められる」の解釈について、最高裁の先例※4に拠って判断している。すなわち、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告による納税義務違反の発生を防止して適正な申告納税の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である」とした。
 そして、①税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件同様の課税仕入れを共通課税仕入れに区分すべきであるとの見解をとっていること、②このような見解は、税務当局職員執筆の公刊物や、公表されている裁決例や裁判例により知りうるものであるとして、次のように結論づけた。
 「[共通課税仕入れに区分するという取扱いは]法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、本件各申告当時、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分すべきものとした裁判例等があったともうかがわれないこと等をも考慮すれば、X社が本件各申告において本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して控除対象仕入税額の計算をしたことにつき、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるということはできない。」

4. 本判決の検討
 4-1 共通課税仕入れとする取扱いについて

 日本の消費税法には、仕入税額控除行使時期に関する法令の明文規定がないため※5、仕入れにおいて負担した仕入税額が課税対応課税仕入れか、非課税対応課税仕入れかの用途区分の判断時期が定まらない。唯一、消費税法基本通達-以下「通達」という-は、「[課税対応課税仕入れか非課税対応課税仕入れかの用途区分は]課税仕入れを行った日・・・の状況により行うこととなる」としている(通達11-2-20)。
 消費税法の諸規定からは仕入税額控除の性質が明確でなく、かつ、仕入税額控除の行使時期に関する明文規定がない中で、本件最高裁判決が共通課税仕入れに区分することが「法30条2項1項の文理等に照らして自然である」とは言い切れないであろう。
 他方、賃貸住宅建物の購入から売却までに生じる家賃が一時的または付随的ともいえず、むしろ一定期間は家賃が生じることを想定したビジネスモデルといえる。また、常に多額の還付税額が生じることも、このビジネスモデルの特徴である※6
 仕入税額控除の用途区分の判定時期に関する明文規定がないという問題は残しつつ、事後に用途変更があった場合に調整ができるとしたうえで、課税仕入れを行った時点を基準時とする考え(課税仕入れ時説)は合理的であろう。

4-2 国税通則法65条4項の「正当な理由」
 用途区分の判断時期については、本件「ムゲンエステート事件」の控訴審判決および「エー・ディー・ワークス事件」最高裁判決で、課税仕入れ時説が確認された。しかし、この判断時期に関しては法令上の根拠がなく、従前は全額課税対応仕入れを認める税務当局の見解もあった中で、X社の平成25年12月期以降の確定申告について過少申告加算税を免れうる「正当な理由」があったといえるであろうか※7
 ある法令に対する税務当局の見解が変更したことによって、課税処分とともに過少申告加算税賦課決定処分がなされた場合に、納税者側に「正当な理由」が認められるかどうかについて想起されるのが、一連のストックオプション事件の諸判決である。
 最判平成18年10月24日(WestlawJapan文献番号2006WLJPCA10240001)は、「課税庁が従来の取扱いを変更しようとする場合には、法令の改正によることが望ましく、仮に法令の改正によらないとしても、通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ、これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである。ところが、・・・[税務当局は]その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく、平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したというのである。そうであるとすれば、少なくともそれまでの間は、納税者において、外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使益が一時所得に当たるものと解し、その見解に従って上記権利行使益を一時所得として申告したとしても、それには無理からぬ面があり、それをもって納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない」とした。最判平成18年11月16日(WestlawJapan文献番号2006WLJPCA11160001)もまた、同様の理由で「正当な理由」があると判断した。
 他方、東京高判平成17年4月27日(WestlawJapan文献番号2005WLJPCA04270015)は、「正当な理由」を認めなかった。これは、納税者が課税庁からストックオプションの行使益が給与所得に該当する旨の説明を受けていたことを理由として、「給与所得として申告していないことについて、『真にやむを得ない理由』があったものとはいえない」としたものである。しかし、納税者の確定申告時(平成10年3月)は、課税庁が給与所得扱いをする統一的方針をかためた時期(平成10年10月頃)より以前であり、また、説明を受けた時期(平成11年6月)を考慮すれば、納税者の確定申告時点では、給与所得として取り扱うことが一般的に確立していたとはいえない。

4-3 本件における「正当な理由」の考え方
 本件X社の最も早い確定申告は、平成25年12月期であるから、その前後の用途区分に関する課税庁の取扱い状況を見ていく必要がある。
 税務当局の見解※8については、本件第一審および控訴審における認定事実によれば、税務当局は平成9年頃、賃貸中マンション購入費用事例において「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分するとしたことがあったものの、平成10年発行一問一答には、土地購入仲介手数料事例について、共通課税仕入れに区分する旨記載されている。そして平成17年ころには、共通課税仕入れと区分する見解が課税庁の統一解釈とされている※9
 本件に類似した裁判例としては、さいたま地判平成25年6月26日(WestlawJapan文献番号2013WLJPCA06266012)がある※10。これは、信託受益権の売却を目的として購入したマンションに係る課税仕入れの用途区分が争われたものである。判決は、「用途区分は、課税仕入れを行った日の状況等に基づき、当該課税仕入れをした事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案し、事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である」としたうえで、原告事業者がこのマンションの会計処理上の科目を「固定資産」から「棚卸資産」に修正したこと、賃料収入の売却代金に対する割合が0.00017に過ぎないことが認められるとしても、「本件課税仕入れ時に本件マンションの取得について販売する目的とともに住宅として貸し付ける目的があったとする・・・認定を覆すには足りない」とした。
 本件のような居住用賃貸建物の課税仕入れを仕入税額控除の対象から除外する立法措置がとられたのは、令和2年税制改正による法30条10項である※11。すなわち、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物・・・以外の建物」には仕入税額控除を認めないという立法措置がとられた。ただし、この規定をもってしても、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らか」であるかどうかの判定時期については明確にはなっていない。
 以上のように、X社の各課税期間に係る申告時に、本件のような課税仕入れが共通課税仕入れとなるかどうかは、通達と課税庁の内部見解はあるものの、法令あるいは確立した判例で明確になっていたとはいえない。
 「正当な理由」があることについては、その立証責任は納税者側にあると考えられることから、最高裁の先例※12を踏まえれば、X社は「真に自らの責めに帰することのできない客観的な事情があること」、および「過少申告加算税の趣旨に照らしてもなおこれを賦課することが不当又は酷になること」を立証する必要がある。
 これについてはまず、法令ではないが、通達では一応「[用途区分は]課税仕入れを行った日・・・の状況により行う」とされていることにより、共通課税仕入れとされることがX社にとってまったくの想定外の不意打ちとはいえないことは重要となろう。
 次に、「正当な理由」を認めた相続税関係の裁決例※13は、結果的に誤った申告となったものの、申告にあたって納税者が十分な確認を行っていたこと、また他の相続人との関係で詳細情報を得る術がなかったことを重視した。本件においても、X社が共通課税仕入れに該当する可能性について十分な確認や検討を行っていたかどうか、また、課税仕入れの用途区分に関する情報を得ることが不可能だったかどうかも重要になろう。
 X社は不動産売買のプロフェッショナルであり、課税仕入れの用途区分に対する知識と情報が皆無だったとは思われない。それゆえ、本件におけるX社の申告時期を考えると、「正当な理由」の立証は困難であると考える。


(掲載日 2023年6月26日)



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