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文献番号 2023WLJCC004
京都女子大学 教授
岡田 愛
Ⅰ はじめに
本件は、適格消費者団体Xが、賃貸住宅の賃借人の委託を受けて賃料債務等を保証する事業を営むいわゆる家賃保証会社Yに対して、Yが用いる「住み替えかんたんシステム保証契約書」と題する契約書(以下、「本件契約書」という。)記載の条項の一部が消費者契約法(以下、「法」という。)10条に該当することを理由に、法12条3項本文※2に基づき、当該条項を含む契約の申込みまたは承諾の意思表示の差止めなどを求めた事案である。
最高裁は、①Yは、賃借人が支払を怠った賃料等(管理費・共益費、駐車場使用料など本件契約書固定費欄記載の定額の金員)及び変動費(光熱費など月々の変動が予定されている費用)の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができるものとする条項(本件契約書13条1項前段。以下、「①条項」という。)、及び②Yは、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、Yが合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき(以下、「本件4要件」という。)は、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができるとする条項(本件契約書18条2項2号。以下、「②条項」という。)について、いずれも法10条に該当するとした。
本事案は、いわゆる追い出し条項を無効とした事案として耳目を集めたが、それだけではなく、家賃保証会社による建物賃貸借契約の無催告の解除権行使を否定した点、またその根拠として法12条3項本文で認められている適格消費者団体による差止請求権の趣旨に言及した点にも注目すべきである。
以下、最高裁の論旨について、最高裁とは異なる判断を示していた原審と比較しながら検討する。
Ⅱ 事実の概要及び判旨
1 事実の概要
適格消費者団体Xが、いわゆる家賃保証会社Yに対し、Yが賃貸住宅の賃借人(以下、単に「賃借人」という。)の委託を受けて賃借人の賃料等の支払にかかる債務(以下「賃料債務等」という。)を連帯保証する際に使用している本件契約書記載の上記①②各条項が消費者の利益を一方的に害する消費者契約の条項に当たるなどと主張して、法12条3項本文に基づき、①②各条項を含む消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示の各差止め、①②各条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を求めた。
原審はXの請求を棄却したため、Xは、①条項について、信頼関係破壊の法理という契約条項に記載のない判例法理を用いて条項を制限解釈することは消費者契約法の趣旨に反すること、また家賃保証会社に原契約の解除権を付与することにより被る賃借人の不利益に鑑みれば①条項は法10条後段に反すること、②条項については、本件4要件の充足をもって賃借人の占有権の消滅を擬制することはできず、自力救済禁止の法理に反する、などと主張し上告した。
2 判決要旨
最高裁は、Yと賃借人との保証委託契約が法2条3項にいう消費者契約に当たるとしたうえで、まず①条項の内容について、その文言上、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したときと定めるにとどまり、他に何ら限定を加えていない点に鑑みると、①条項は、「所定の賃料等の支払の遅滞が生じさえすれば、賃料債務等につき連帯保証債務が履行されていない場合だけでなく、その履行がされたことにより、賃貸人との関係において賃借人の賃料債務等が消滅した場合であっても、連帯保証人であるYが原契約につき無催告で解除権を行使することができる旨を定めた条項であると解される」とした。
また、「法12条3項本文に基づく差止請求の制度は、消費者と事業者との間の取引における同種の紛争の発生又は拡散を未然に防止し、もって消費者の利益を擁護することを目的とするものであるところ、上記差止請求の訴訟において、信義則、条理等を考慮して規範的な観点から契約の条項の文言を補う限定解釈をした場合には、解釈について疑義の生ずる不明確な条項が有効なものとして引き続き使用され、かえって消費者の利益を損なうおそれがある」として、①条項は、「Yが賃料等の支払の遅滞を理由に原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた条項であると解することはできない」とした。
そのうえで、①条項が法10条前段に該当するかについて、一般に、原契約の解除権者は賃貸人であり賃料債務等の連帯保証人ではないこと、また、原契約を解除するには催告を要し(民法541条本文)無催告解除が認められる場合は限られていること、他方で、Yが連帯保証債務を履行すれば賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、賃料債務等の支払の遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人に賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまると解されることより、①条項は任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきと判断した。
また、法10条後段の該当性については、「原契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるところ、その解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから、契約関係の解消に先立ち、賃借人に賃料債務等の履行について最終的な考慮の機会を与えるため、その催告を行う必要性は大きいということができる。ところが、本件契約書13条1項前段(①条項 筆者注)は、所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合、原契約の当事者でもないYがその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがある」とし、「消費者である賃借人と事業者であるYの各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害する」との解釈を示し、前段該当性とあわせて、①条項は法10条に該当するとした。
次に、②条項の内容について、原契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はないことなどを理由に、「原契約が終了している場合だけでなく、原契約が終了していない場合においても、本件4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、Yが本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される」が、その文言上、Yに原契約を終了させる権限を付与する趣旨の条項と解することはできないとした。
そのうえで、②条項の法10条該当性につき、「Yが、原契約が終了していない場合において、本件契約書18条2項2号(②条項 筆者注)に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもないYの一存で、その使用収益権が制限されることとなる」ため、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するとした。そして、「このようなときには、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきである。また、本件4要件のうち、本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという要件は、その内容が一義的に明らかでないため、賃借人は、いかなる場合に本件契約書18条2項2号(②条項 筆者注)の適用があるのかを的確に判断することができず、不利益を被るおそれがある」こと、さらに、賃借人が異議を述べた場合について定めている点についても、「賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない」として、②条項は「賃借人と事業者であるYの各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するもの」であり、法10条に該当するとした。
Ⅲ 検討
本件は、家賃保証会社と賃借人間で締結される保証委託契約の条項のうち、①②各条項がいずれも法10条に該当するとし、Yに対し、保証委託契約を締結するに際し①②各条項を含む契約の申込みまたは承諾の意思表示を禁止し、またそれらが記載された契約書用紙の廃棄を命じた事案である。以下順に、最高裁の判旨について検討する。
1 ①条項について
ⅰ)内容の解釈について
最高裁は、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したときという文言通りの要件を満たせば、Yは原契約を無催告解除できる旨を定めた条項であると解し、限定解釈を否定した。その理由として、本件は、解除権行使をする者が賃貸人ではなく連帯保証人であり、また連帯保証債務の履行により賃借人の賃料債務等が消滅した場合であっても無催告で原契約を解除することができるとする点で、原審が引用した最高裁昭和43年11月21日(民集22巻12号2741頁WestlawJapan文献番号1968WLJPCA11210001※3)とは場面が異なること、また、信義則や条理等を考慮して規範的な観点から契約の条項を補う限定解釈をすると、解釈について疑義の生ずる不明確な条項が有効なものとして引き続き使用され、かえって消費者の利益を損なうおそれがあることを指摘している。
私見は、消費者契約法が情報の質及び量並びに交渉力の格差に着目し、消費者に取消権等を認めて保護を図るだけではなく、同種紛争の未然防止・拡大防止という観点から適格消費者団体に差止請求権を認めた法12条3項本文の趣旨に鑑み、最高裁の解釈は妥当であると考える。一般消費者は必ずしも判例法理に明るいわけではなく、条項の文言をそのまま理解するのが通常である以上、最高裁が当該①条項につき、規範的観点から契約の条項を補う限定解釈を否定したことは法12条3項本文の予定するところであり、法の趣旨に沿う判断である。
ⅱ)法10条前段該当性について
最高裁は、判旨の通り契約当事者ではない連帯保証人に解除権を付与する点などを理由に、法10条前段に該当すると判断した。
第一審、原審とも、賃借人に不利益が生じることは認めつつも、判例法理を適用して限定的に解釈し、Yにより無催告で原契約が解除される場面での賃借人の不利益の程度は必ずしも大きくないとして法10条該当性を否定していたのに対し、最高裁は、上記ⅰ)で示した通り限定解釈を否定して①条項を文言通り解した。その結果、連帯保証債務の履行により賃貸人が原契約の解除権を行使できない場合でも、賃借人が3か月分の賃料債務等の支払を怠れば、原契約の契約当事者ではないYが自身の損害拡大防止を目的として原契約の解除権を行使できるという場面が生じることになる。これは明らかに任意規定を適用した場合に比べて消費者の権利を制限するものといえ、①条項が法10条前段に該当するとした点に異論はない。なお、Yは、家賃等の滞納のリスクを踏まえ事業を行っている者であり、予めそれらを計算に入れることが可能であり、①条項を無効と解してもYに著しい不利益が生じるわけではないと考える。
ⅲ)法10条後段該当性について
最高裁は、①条項について、原契約の解除が賃借人の生活基盤を失わせるという重大な事態を招来し得ることから催告の必要性は大きく、賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるとして、後段該当性を認めた。
法10条後段の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と判断する際の基準については、「消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである」とした先例がある(最判平成23年7月15日民集65巻5号2269頁WestlawJapan文献番号2011WLJPCA07159001)※4。
もっとも、上記の先例で示された基準は相当程度抽象的であるのに加え、本事案は原審と最高裁とで判断基準に差異があったというよりは、そもそも無催告で解除権を行使する場面の解釈が異なった結果、結論に差異が生じたと考えられる。すなわち原審は、①条項を限定解釈し、原契約を解除するにあたり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合にのみ解除権の行使を認め、このような場面で賃借人が受ける不利益の程度は必ずしも大きくないと判断していた。これに対し最高裁は、まず限定解釈を否定し、文言通り賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したときに、Yが無催告で解除ができることによる賃借人の不利益について指摘している。その意味では、法10条後段の判断基準を当てはめる前提となる、条項の解釈の違いが結論に影響を及ぼしたといえるが、上述の通り今回は法12条3項本文に基づく差止請求権の行使であるため、条項の文言から一義的に導かれる内容で判断した最高裁の解釈が妥当と考える。
2 ②条項について
ⅰ)内容の解釈について
最高裁は、②条項は、原契約が終了していない場合にも、Yに建物明渡しがあったとみなすことができる旨を定めていると解されるが、その文言上、Yに原契約を終了させる権限を付与する趣旨の条項であると解することはできないと判断した。
これに対して原審は、「本件4要件を満たした上でなお賃借人の賃借物件についての占有権が消滅していない場合は現実にはほとんど考え難い」とし、本件4要件を満たした場合は占有を放棄したと合理的に解されること、仮に原契約が継続すると賃借人は賃料債務を負い続けることになるが、それは②条項の趣旨・目的に沿わないことから、Yにより賃借物件の明渡しがあったとみなされた場合は、その時点で原契約は当然に終了すると解するのが自然かつ合理的だと解し、②条項は、「賃借人が明示的に異議を述べない限り、Yに対し、賃借物件の明渡しがあったものとみなし、原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定である」としていた。
確かに、最高裁の判断に従えば、明らかに賃借人が家財を放置し行方をくらましているような場面ですらYは原契約を終了させることができず、Yの損失が膨らむ上に明渡しのための不要なコストをかけるだけであり、家賃保証会社に対して加重な負担を強いることになるとの指摘が考えられる。しかし、契約の終了を当該条項の解釈により認めると、契約終了時にはその旨通知があると考えていた賃借人にとっては不意打ちになる。特に建物賃貸借においては、原契約関係が終了すれば賃借人は生活の拠点を失うという非常に重大な影響を受けることがあり、原契約が終了する場合を明記すべき必要性が高い。また適格消費者団体による差止請求は、個々具体的な事案に対する妥当性を判断する場合と異なり、今後の同種紛争の未然防止・拡大防止を目的とするものである。よって、条項の文言から消費者が理解するであろう内容に従って当該条項の妥当性を判断することが求められるのであり、明渡しがあったとみなして原契約を終了させる権限を解釈によってYに付与することは、法12条3項本文の趣旨に反するといえる。文言から導かれる内容に従って解釈をする最高裁の条項内容の解釈は、事業者が不特定多数の消費者と締結する契約条項について、消費者団体に差止請求を認めた趣旨に鑑み妥当であると考える。
ⅱ)法10条該当性について
最高裁は、判旨で述べた通り、本件4要件のうち、本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看守できる事情が存するという要件が一義的でないことなどを理由に、法10条に該当するとした。
この点原審も上記の規定内容が抽象的であり、その運用の場面で賃借人が違法に賃借物件に対する占有を失う余地があることを指摘している。もっとも原審は、合理的な解釈により確定される当該条項の客観的規範内容それ自体が法10条の要件に該当するか否かを判断すべきであり、「当該条項の内容が事業者の誤った運用を招来するおそれがありそれによって消費者が不利益を受けるおそれがあることを理由に当該条項を無効とすることは、同法の予定しないところである」として、法10条に該当しないとしていた。
確かに、法10条該当性は、合理的な解釈により確定される当該条項の客観的規範内容それ自体が法10条の要件に該当するか否かによって判断されるべきであろう。しかし、事業者と消費者それぞれの立場から「合理的な解釈」ができてしまう文言では、消費者に不利益な運用がなされる危険性が当該条項の解釈上生じているのであり、その危険性について検討することは法10条該当性の判断において重要であると考える。
3 まとめ
本件は、第一審、原審と最高裁とで異なる判断がなされた事案であった。各論点の判断の相違は上述の通りであるが、その背景には、賃借人とYとの間の保証委託契約をどのように位置づけるかの違いがあると考えられる。すなわち、第一審は、Yは原契約当事者ではないが原契約から生じるリスクを負担する以上、解除権を付与しリスクコントロールできる権限を与えることは格別不合理ではなく、賃借人は原契約が一方的に終了させられるという不利益を受忍せざるを得ないとしていた。また原審も、賃借人が支払を怠った際にYが保証債務を履行する結果Yの損失が膨らんでいく関係をとらえて、Yの被る不利益と賃借人に生じる不利益を比較衡量し、支払を怠っている賃借人は原契約においても信頼関係が破壊されており解除されてもやむを得ないという価値判断に基づいて、Yに解除権を付与すると解するのが合理的であるとしていた。これに対して最高裁は、賃貸人と賃借人の賃貸借関係と、賃借人とYとの保証委託関係を区別し、原契約当事者ではないYに原契約の無催告解除権を付与することは法10条に該当するとした。この判断は、解除権者は契約の両当事者かまたはその地位の承継人に限るという一般原則に基づくものといえるが、密接な利害関係がある家賃保証人についてもその一般原則を貫いた点は注目される。
なお、家賃保証会社の原契約の解除権行使につき、賃貸人から家賃保証会社へ解除権行使の代理権を付与すれば足りるとの指摘がある※5。確かに、原契約の信頼関係が破壊された限定的な場合にのみYが解除権を行使するのであれば、賃貸人に生じた解除権をYが代理して行使すればよく、あえて別の条項でYに解除権を付与する趣旨は、Y自身の判断でYの損失拡大を防止するためより早期に原契約を解除する点にあると考えられる。そうすると仮に、家賃債務の保証人が、原契約について信頼関係が破壊された際に催告のうえで原契約の解除権を行使できる旨の条項を設けた場合、賃借人に生じる不利益の程度が問題となる。法10条後段の要件にかかわるが、この点については本件とは事案が異なるため本判決の射程は及ばない。今後に残された課題である。
(掲載日 2023年3月13日)