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法令ガイド
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第1号 フリーランス新法(2024年秋頃までに施行予定)

文献番号 2024WLJLG001
Westlaw Japan コンテンツ編集部

Ⅰ フリーランス新法の概要

1.フリーランス新法とは?

 フリーランス新法(正式名称、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(※))とは、働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備すること等を目的とする法律です(1条)。
 この法律では、「フリーランス」という用語は用いられていませんが、法令名でも用いられている「特定受託事業者」は「フリーランス」に近いものであるとされているため、以下では、「特定受託事業者」を「フリーランス」と言い換えて、説明する場合があります。
 この法律は、働き方の多様化に伴い、従来の法令ではカバーできない個人等の保護が必要となったことを立法の背景として、①取引の適正化、②就業環境の整備を図っており、企業には、①契約内容の原則書面化、②フリーランスの給付を受領した日から60日以内の報酬支払、③報酬減額禁止等の各種禁止事項の遵守及び④就業環境の整備等が求められ、一部、罰則も定められています。以下、詳しく説明していきます。

2.施行日は?

 施行日は、2024年3月時点では未定ですが、公布の日(2023年5月12日)から起算して1年6か月を超えない範囲内で、つまり、2024年11月11日までのいずれかの日に施行される予定です。(なお、施行日が決定されるなど、重要な法令情報の変化に対応するには、法令アラートセンターがおすすめです。)

3.対象となる当事者と取引の定義

 フリーランス新法では、以下の表の用語がよく用いられるので、おおまかな定義を把握しておくとよいでしょう。

当事者・取引 定義
特定受託事業者 業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの
特定受託業務従事者 特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者
業務委託 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成または役務の提供を委託すること
特定業務委託事業者 特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの

*定義は簡略化した部分があります。より正確にはフリーランス新法2条(※)をご確認ください。

4.企業として求められること

 フリーランスに業務委託をする企業には、大まかに(1)フリーランスに係る取引の適正化と(2)特定受託業務従事者の就業環境の整備が求められます。それぞれ詳しく見てみましょう。

(1)フリーランスに係る取引の適正化

 フリーランスに係る取引をする場合には、以下のa~cの3点が求められています。

a 給付の内容等の明示

 給付の内容、報酬の額、支払期日等は、原則、書面または電磁的方法で明示しなければなりません(3条)。従業員を使用していない事業者がフリーランスに対し業務委託する場合も同様です。

b 報酬支払期日

 フリーランスの給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません(再委託の場合には、発注元から支払を受ける期日から30日以内です。)(4条)。

c 遵守事項(禁止行為)

 フリーランスとの業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①~⑤の行為をしてはならず、⑥・⑦の行為によってフリーランスの利益を不当に害してはいけません(5条)。

  • ① フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
  • ② フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  • ③ フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
  • ④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • ⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
  • ⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  • ⑦ フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

(2)特定受託業務従事者の就業環境の整備

 就業環境の整備として、以下のa~dの4点が求められます。

a 募集情報の的確な表示

 広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(12条)。

b 妊娠・出産・育児・介護に対する配慮

 一定期間以上の業務委託(継続的業務委託)については、フリーランスが育児介護等と両立して業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。また、継続的業務委託以外の業務委託についても、配慮すべき努力義務があります(13条)。

c ハラスメント行為に係る必要な体制の整備等

 特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等、必要な体制整備等の措置を講じなければなりません(14条)。

d 継続的業務委託を解除する際の予告

 継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までにフリーランスに対し予告しなければなりません(16条)。

(3)違反した場合等の対応

 一部の規定を除き、フリーランス新法に定められる義務に違反した場合には、国(公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣)は、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます(8条、9条、11条、18条~20条、22条)。命令に違反した場合や検査を拒否した場合等には、50万円以下の罰金が科せられる場合があり、委託事業者が法人の場合には、行為者と法人の両方が罰せられます(24条、25条)。

5. フリーランス・トラブル110番

 フリーランス・トラブル110番は、フリーランスと発注事業者等との取引上のトラブルについて、弁護士にワンストップで相談できる窓口として設置されています。フリーランスは、無料で、法に関する相談を行い、アドバイスを受けたり、必要に応じて、所管省庁への法違反の申告についての案内を受けたりすることもできます。(*フリーランス110番は、厚生労働省より第二東京弁護士会が受託して運営しています。)

6.まとめ

 以上、フリーランス新法の概要について説明しました。この法律の施行日は、現状、遅くとも2024年の秋頃までにとされており、企業は、それまでの間に(1)フリーランスに係る取引の適正化及び(2)特定受託業務従事者の就業環境の整備につき、求められる対応に向けた準備を行っておく必要があります。(特に中小企業等の軽減措置はなく、フリーランスに関わる企業全てに対応が求められます。)現段階において、フリーランス新法上の義務違反を直接罰する規定はないものの、その義務違反を起点として国により命令等がされる場合があり、この命令等に違反した場合には罰金刑に科される場合があります。さらに、フリーランス110番のように、義務違反が発覚しやすい仕組みもあり、これを契機として国による命令や立入検査等が行われ、ひいては罰金が科されるなどの不利益を受ける可能性も高いといえるでしょう。そのようなリスクを回避するためにも、しっかりとした対応ができるよう、今から、しっかり準備をしておきましょう。

Ⅱ 下請法との比較

 フリーランス新法には、下請法(正式名称、「下請代金支払遅延等防止法」(※))と類似する規定が多くあります。そのため、フリーランス新法を理解するためには、下請法との比較が役立つでしょう。一番のポイントは、従前、下請法が適用されなかった取引にも、フリーランス新法が適用されること、また、従来、下請法では要求されてこなかった就業環境の整備(募集情報の的確な表示や、妊娠・出産・育児・介護への配慮等)が求められることです。従来の下請法対応が応用できる面もありますが、それ以外にも対応すべき点がある点は注意が必要です。なお、フリーランス新法では、義務違反につき、直接の罰則はないものの、これを起点として罰金に科される場合等もありますので、十分注意しましょう。

  規定の内容 フリーランス新法 下請法
対象 発注者 全ての事業者 資本金要件有
→資本金1000万円以下の事業者も対象か? ×
受注者 フリーランス
(業務委託の相手方で従業員を使用しない)
下請業者
(資本金要件有)
取引 業務委託取引
(業種の限定なし)
4類型取引
→建設工事及び事業者が自ら用いる役務の提供に係る取引も含まれるか? ×
義務規定 発注書面等による取引条件の明示 3条
※発注側のフリーランスも義務を負う。
3条
取引記録の作成・保存 × 5条
支払期日の設定・遵守 4条 2条の2
遅延利息の支払 × 4条の2
禁止規定 受領拒否 5条1項1号 4条1項1号
支払遅延 4条5項
(期日までの支払義務)
4条1項2号
代金減額 5条1項2号 4条1項3号
返品 5条1項3号 4条1項4号
買いたたき 5条1項4号 4条1項5号
購入・利用強制 5条1項5号 4条1項6号
報復措置
(違反申告)
6条3項 4条1項7号
有償支給原材料等の早期決済 × 4条2項1号
割引困難手形の交付 × 4条2項2号
利益提供要請 5条2項1号 4条2項3号
不当な給付内容の変更・やり直し 5条2項2号 4条2項4号
就業環境の整備 募集情報の的確な表示 12条 ×
妊娠・出産・育児・介護への配慮 13条 ×
ハラスメント行為に係る体制整備 14条 ×
中途解約の予告 16条 ×
義務違反の制裁等 上記の義務違反につき、直接の罰則があるか? ×
命令違反、検査拒否等の場合のみ
(24条~26条)

10条~12条
一部、罰金等

Ⅲ フリーランス新法対応チェックリスト(企業向け)

1.フリーランス*1に業務を委託している、またはその予定ですか?

    • *1 フリーランス(特定受託事業者)とは、「業務委託の相手方であって、従業員*2を使用しないもの」です。
      →法人で従業員がいない場合も含まれます。業界・業種の限定もありません。
      →例えば、建築現場の一人親方もフリーランスに当たると考えられます。
    • *2 「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」でない場合、この法律の「従業員」には当たらないと想定されています。 (厚生労働省説明資料(PDF)

2.2つの義務

(1)取引条件の明示義務(3条)

  • →支払期日は、原則、給付を受けた日から60日以内のできる限り早い日を定める必要があります。

    • *3 2024年4月現在で、明示すべきものとして具体的に確定しているのは、①給付の内容②報酬の額③支払期日ですが、フリーランス新法3条は、「その他の事項」も明示しなければならないとしています。この具体的な内容等はまだ確定していないため、今後のフリーランス新法関係(公正取引委員会規則等)の動向に注意が必要です。

(2)期日における報酬支払義務(4条)

3.禁止事項(5条)

4.就業環境の整備(12~14条、16条)

(1)募集情報の的確な表示

(2)妊娠・出産・育児・介護への配慮

(3)ハラスメント行為に係る必要な体制の整備等

(4)中途解約の場合の予告

5.動向に着目

フリーランス新法の施行日は、パブリックコメントの意見募集要領 (「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に関する意見募集について(※))等によると、 2024年11月1日施行予定とされていますが、まだ確定していません。
また、「2.2つの義務」でも指摘した通り、明示すべき取引条件等についても、一部は具体的な内容等が確定していません。
このような重要な法令の最新情報を把握するためには、Westlaw Japanが有用です。

(掲載日:2024年4月2日 更新日:2024年5月22日)
*この記事は作成・更新時点での情報を基に作成されています。

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