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文献番号 2013WLJCC004
金沢大学 法学系 教授
大友信秀
1. はじめに
「堂島ロール」というロールケーキの販売で有名な大阪の株式会社モンシュシュ(現モンシェール)に対して大阪地裁が「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の使用差止め及び損害賠償を命じた※1 ことにより一躍注目された事件の控訴審判決が平成25年3月7日に大阪高裁によって下された※2。
大阪高裁は原審同様商標侵害を認めたが、モンシュシュという会社がなぜ自社の名称を自らが販売するケーキのパッケージに使用できないのか、モンシュシュは自社名称を店舗で使用することまで禁じられたがそれはなぜなのか、商標法を専門にしていない方には理解しがたい点もあるのではないだろうか。
本稿では、事案を概観して、上記のような疑問に答えながら商標法独特の考え方に触れていきたい。
2. 事案の概要
本件原告(被控訴人)であるゴンチャロフ(以下、原告という。)は神戸にある洋菓子メーカーであり、「菓子、パン」を指定商品とする登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」(以下、本件商標という。)※3 を有しており、子会社に本件商標を付したバレンタイン用チョコレートを販売させていた。被告(控訴人)である株式会社モンシェール(Mon cher。以下、被告という。)※4は、第一審係属時の商号が「モンシュシュ」であり、「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供、及びこれらに関する情報の提供」を指定役務とする「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」商標※5の権利者でもあった。
原告は、被告が「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」及びこれを含む標章(以下、被告標章という。)を店舗表示、商品の包装、広告等に使用(以下、被告行為という。)していたため、本件商標に基づき、被告行為の差止め及び損害賠償を求めて訴えを提起した。
原審である大阪地判は商標権侵害を認め、被告が経営する店舗における被告標章の使用差止め及び抹消、並びに損害賠償を被告に命じた。これに対して、被告が控訴したが、控訴審である大阪高判は原審とほぼ同様の理由により商標権侵害を認め被告に損害賠償を命じた(差止めに関しては、被告が訴訟係属中に商号を変更し、店舗や包装における名称にも反映させたため、被告標章の使用のおそれがなくなったとして認めなかった。)。
本件で被告の商標権侵害が認められるためには、被告による原告商標と同一もしくは類似する標章の使用に加え、原告商標の指定商品と同一又は類似するものへの使用が認められなければならないが(商標法25条、36条、37条参照。)、控訴審及び原審はともに、被告行為が上記両条件を満たすことを認めた。
本件では、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」が被告の商号である点も判断されたが、その点も含め、以下、本件で特に問題となる商標法の考え方を見ることにする。
3. 商標法の世界
(1) 商品とサービス、そしてそれら相互の類似性
商標法は、商標の登録において、登録を受けようとする商標に加え、その商標を使用する対象となる商品もしくは役務(サービス)を指定することを求めている(商標法5条1項3号)。したがって、商標は原則として、指定した商品もしくは役務への使用に限って独占的な使用を認めるものであり、それとは異なるものに使用している第三者の行為を禁止する効力を持つものではないことになる。
しかしながら、異なる商品間であっても、それに触れる需要者が両商品の間に何らかの関係性を認め商標の出所を混同する場合がある。このような場合を放置したのでは商標を独占権とした意味がなくなる。したがって、商品が厳密には同じものと言えない場合でも、両者に類似性があるとして、登録商標と同一もしくはこれに類似する第三者の標章の使用を禁止することが必要となる(商標法37条)。なお、商品の類否の判断においては、同一の出所によるものであるかのごとき出所の混同のおそれがあるかどうかを基準とする混同説が採用されている※6。
本件において、被告は、被告標章の使用が「洋菓子の小売」という役務に対するものであり、「洋菓子」という商品への使用ではないと主張したが、「商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え、出所の混同を招くおそれがある」以上、非類似とはいえないとした。商品とサービスは商標法上の商品・役務分類という考え方の中では別に扱われているものの、現実にはある商品とその商品に係るサービスは出所の混同を引き起こす危険性が高く、裁判所の判断は妥当である(商標法2条6項参照。)。
なお、本件では、被告行為のうち喫茶営業行為における被告標章の使用は商標権侵害とはならないとされている。これは、店内飲食に提供されるものは、市場流通性がないため商標法上「商品」とは捉えられておらず、商品を指定する原告商標との関係で混同のおそれが低いとの理由による。
そもそも被告は、「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供」に対して商標を有しており、このような商標取得が認められたことも上記のような商標法における「商品」の捉え方が影響している。商標法では、店内飲食に提供されるものは、市場流通性がないため「商品」とは捉えられておらず、この点で、被告がケーキの提供というサービスに商標を取得できたことと原告の商標の存在との間に矛盾はない。
(2) 商標とは何か? 商号とはどう違うのか?
本件では、被告は自らの商号を使用していた。商標法では、自らの商号を普通に用いられる方法で表示する場合には、その使用に対して商標権の効力が及ばないことが規定されている(商標法26条1項1号)※7。
また、被告は、同じ「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」商標を「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供、及びこれらに関する情報の提供」を指定役務として取得しており、喫茶店におけるサービスに使用することは法により認められていたことにもなる。
商標法は、商標権者にその商標に対する強力な独占権を付与することを認めると同時に、その範囲を指定した商品もしくは役務に限定したり、商号等の他の表示の使用との調整を図っている。
そのため、本件でも被告による被告標章の使用が自らの商号を普通に用いていると評価されれば非侵害とされた。また、被告商標を指定された役務の範囲で使用している限りは本判決が判断したように原告商標の侵害とはならない。
本件における被告行為は、たとえば、喫茶店の店舗表示や喫茶店のためのパンフレット・ウェブ等における宣伝として使用されるに止まっていたのであれば原告商標の侵害とはされなかっただろう。それを超えて、ケーキの包装等に使用したために権利侵害とされるに至ったものである。喫茶店を経営する場合、店内での飲食に加え、持ち帰り商品を充実させることも当然あり得るため、本件行為もそのような喫茶店経営に付随する行為であり、権利侵害とすべきではないのではないか、との疑問も持たれるかもしれない。しかしながら、そのような持ち帰り商品の販売は、客観的には商品の小売と異なるところがないため、商標との関係でいえば、飲食物の提供ではなく、小売に対する商標を別途取得することが必要となる。また、当然、小売りしようとする商品そのものに対する商標との関係で類似とされる危険性を甘受しなければならなくなる。
また、商号の使用※8に関しても、商品の内容表示の部分に製造者として記載したり、会社自体の表示として使用する必要最低限の範囲を超える場合には、もはや適法な行為とは評価されないことになる。したがって、商品名と同時に自らの商号をも宣伝・広告に使用したいと考える者は、あらかじめ、使用態様に合わせて商標出願をなす必要があると言わなければならない。
4. 本件から学ぶべきこと -事業とリスク管理-
本件において被告は、2007年にそれまでの商号から「モンシュシュ」へと商号変更を行っており、本判決の事実認定によれば、被告は2009年1月ごろに、コンサルタントから、「モンシュシュ」という商号の使用が原告商標との関係で問題があることを知ったとされている ※9。これに対して、原告はすでに1981年には原告商標を取得しており、被告は2007年の商号変更時にその名称に類似する商標の調査を行えば、容易に本件争訟を回避できたものといえる。
また、被告は「堂島ロール※10」に対する商標※11 の権利者でもあるが、同商標の出願は2009年12月21日になって行われたものであり、上記のように商標に関する問題が顕在化したにも関わらず1年近い期間を経過している。本判決において認定されているように、被告の商号である「モンシュシュ」の知名度はそれほど高いとは言えず、他者の登録商標と抵触する商号を選択したにも拘わらず、そのリスクに見合ったリターンを得るには至らなかったと言えるだろう※12 。ビジネスの世界では一定のリスクを抱えることは避けがたいことであり、一般にリスクが高ければ高いほど、得られるリターンも大きくなる。しかしながら、商標を含め知的財産と呼ばれるものを含む法的な問題に関しては、予め専門家の意見を聞くことで避けられるリスクもある。
本件が示したように、法律問題に関しては、その分野独特の考え方が存在し、素人的判断は危険な場合がある。本件は紹介した以外にも商標法に関する論点が満載で、専門外の方の参考になる好例であるため、判決文を直接読んで頂きたい。
(掲載日 2013年5月20日)