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文献番号 2013WLJCC007
弁護士法人法律事務所オーセンス※1
弁護士 元榮太一郎
1.はじめに
最近では、スマートフォンが普及したおかげで、道に迷うことも少なくなった。広く見やすい画面に現在地から目的地までの経路が分かりやすく表示される。通信速度の向上がこの利便性をさらに後押しする。便利な時代になったものだ。
しかし、飲食店を探す場合、スマートフォンを片手に目的地に着いたとしても、最終的には、飲食店の看板が頼りであることに変わりはない。また、そのことからすれば、看板は、飲食店側(店舗営業者側)にとって集客等に必要なものであろう。
今回紹介する最判平成25年4月9日(以下「本判決」という。)※2は、このような実情からは当然の判断ということになるのだろう。
2.事案の概要
本件の事案の概要としては、以下のとおりである。
本件建物は、地上4階、地下1階の建物であり、Aは、昭和34年から本件建物を所有していた。
上告人は、昭和39年ころから本件建物の地下1階部分(以下「本件建物部分」という。)でそば屋(以下「本件店舗」という。)を営業しており、遅くとも、平成8年9月までに本件建物部分についての賃借権を得た。
上告人は、本件店舗の営業開始以降、Aの承諾を得て、本件店舗の営業のために、本件建物の地下1階に続く階段の入口及びその周辺に位置する、本件建物の1階部分の外壁、床面、壁面に、看板、装飾及びショーケース(以下「本件看板等」という。)を設置した。
その後、本件建物が、平成22年1月にAからBに、平成22年4月にBから被上告人に売却され、被上告人が、本件建物の所有権に基づき、上告人の本件看板等の撤去を求めたのが本件である。
3.判決の概要
原審は、本件建物部分の賃借権には本件看板等の設置権限は含まれていないとしたうえで、被上告人による本件看板等の撤去請求が権利の濫用に当たるような事情は見受けられないとして、被上告人による看板等の撤去請求を認容した。
これに対し、本判決は、被上告人が、上告人に対して本件看板等の撤去を求めることは、権利の濫用に当たるとして、原判決を破棄した。
4.賃貸借契約の目的物の範囲
本件では、当時の所有者であったAの承諾の下、本件看板等が設置されており、Aと上告人との間において、本件看板等の設置権限が認められていることは問題がない。
もっとも、その後、所有権がAからBへ、Bから被上告人へと移転していることから、上告人が、現在の所有者である被上告人に本件看板等の設置権限を対抗するためには、借地借家法(以下略)31条1項に基づき、当該設置権限を対抗できる必要がある。
この点について、原審は、31条1項にいう「建物」とは、「区分された建物部分及びこれと構造上一体として利用される範囲の全体として独立性を有する部分に限られる」としたうえで、本件看板等が設置されたのは、いずれも本件建物の躯体部分であり、31条1項にいう「建物」には含まれないことを理由に、上告人は、被上告人に対し、看板等の設置権限を対抗することができないと判示した。
一方、本判決は、被上告人の撤去請求が権利の濫用に当たり許されないと判示しており、上告人の看板等の設置権限が、被上告人に対し、対抗できるか否かについては、判断をしていない。
これは、原審同様、31条1項にいう「建物」に本件建物の躯体部分を含めることができないとの理解が前提となっていると思われる※3。
31条1項は、賃借権を登記なく新所有者に対抗できるとする規定であるところ、本判決は、外見上、他の部分と区別可能な部分にまで対抗力を認めるのは、法文の解釈として行き過ぎであり、権利濫用の有無という諸事情を取り込んだ具体的判断での解決が適切であるという判断に基づくものであろう。
5.権利濫用
賃借権の範囲に争いがある事案において、当該権限が賃借権の範囲に含まれないとしても、所有者による撤去等の請求が権利の濫用に当たり、許されないのではないかが争われるケースは比較的多い。
このような場合、①従来の経緯、②賃借人が当該利用を継続する必要性、③所有者が当該利用を排除する必要性、等を総合考慮して、判断されてきている※4。
本件でも、①被上告人は、売買契約時に本件看板等の設置が本件建物所有者の承諾を得たものであることを十分知り得たこと、②上告人にとって、本件看板等の設置が、地上の通行人らに対し、本件店舗が営業していることを知らせる重要な手段であること、③本件看板等が設置されていたとしても、所有者にとって、特段の支障が生じるとも思われないことなどを考慮し、被上告人の本件看板等の収去請求が権利の濫用に当たると判断しており、この点については、従来の判断方法を踏襲するものであると評価できる。
6.おわりに
本判決は、31条1項の解釈による画一的な解決ではなく、権利濫用の有無という枠組みでの個別解決を図っている。
賃貸借契約においては、解除の場面における信頼関係破壊理論による修正をはじめ※5、賃貸人、賃借人双方の事情を考慮し、個別解決を図るという手法が用いられるが、このような意味では、本判決は、賃貸借契約における、これまでの裁判例の延長に属するものとして位置付けることができよう。
(掲載日 2013年7月1日)