第18号 衆議院議員定数訴訟をめぐる最高裁大法廷の混迷
                 〜平成25年11月20日最高裁大法廷判決※1を機縁として〜

文献番号 2013WLJCC018

西村あさひ法律事務所※2
弁護士 細野敦

衆議院議員定数訴訟をめぐる平成25年11月20日最高裁大法廷判決(本件判決)は、社会的耳目を浴びる裁判であるから当然のことなのではあるが、各界から様々な声をもって迎えられた※3

すなわち、平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(平成21年選挙)に係る選挙無効の訴えにつき判断を示した平成23年3月23日大法廷判決(平成23年大法廷判決)※4が、各都道府県の区域内の選挙区の数を各都道府県にあらかじめ1を配当する1人別枠方式、及び、1人別枠方式を含む区割基準に基づいて定められた選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っていたとしながら、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものということはできないとして、合憲との結論を出していたところ、平成24年12月16日に施行された衆議院議員総選挙(本件選挙)は、平成21年選挙と同様の区割規定及びこれに基づく選挙区割りの下で実施されたため、本件選挙が、憲法上要求される合理的期間を経過しているのではないかと早くから疑問が呈され、実際、全国14か所の高等裁判所(支部を含む)に提起された選挙無効訴訟のうち、12もの高等裁判所において違憲判断が示されたことから、上告審である最高裁大法廷の結論が注目される中※5、本件判決は、平成25年11月20日、本件選挙時において、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割規定が合憲であると判示したのである。

もともと、平成23年大法廷判決で説示された、将来のある時点における「憲法上要求される合理的期間」の経過の有無について、その時点における立法の内容及び過程に係る諸事情を総合的に勘案して個別具体的に判断されることになるものと解されていたことからすると※6、本件判決が、「憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものと解される」と、解釈をより具体化したことは驚くに値しない。
しかし、@本件選挙が平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた選挙区割りの下で再び施行されたこと、A本件選挙時の選挙区間の較差は、平成21年選挙時の投票価値の較差最大2.304倍よりも更に拡大して、最大較差が2.425倍に達していたこと、B1人別枠方式を廃止し、本件選挙後に成立したいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずること)を内容とする公職選挙法の改正規定によっても、0増5減措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県については、旧区割基準に基づいて配分された定数がそのまま維持されており、平成22年国政調査の結果を基に1人別枠方式の廃止後の新区割基準に基づく定数の再配分が行われているわけではなく、1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえないことなど、実際の政治的現実たる事実関係を前提に、本件判決が、「裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることになるものであり、その是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有して」(おり)、・・・「裁判所が選挙制度の憲法適合性について・・・一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法の趣旨に沿うものというべきである」との極めて立法府重視の一般論を展開してまで、所与の現実を全て是認し、本件選挙につき憲法上要求される合理的期間を経過していないと判断した点については、1人別枠方式の存在を厳しく指弾し、投票価値の平等の要請にかなうすみやかな立法措置を講じるよう説示していた平成23年大法廷判決との整合性が果たしてとれているのかとの疑問を拭い切れない。
一般的には、平成23年大法廷判決を評して、「是正のための合理的期間として許容される範囲は、それほど広くはないものと思われ」※7ていたところであり、本件判決における、大谷剛彦判事が反対意見で、国会の「裁量権を考慮するにしても、時期的、時間的な裁量の範囲にはおのずと制約があると考えられる」とし、「様々な政治的要請や優先課題が存在したことなど、国会情勢や政治情勢上速やかに合意を形成することが容易ではない事情があったことも認められるが、これらの諸事情は、事柄の性質に照らして通常必要とされる合理的期間を超えて区割規定の是正を行わなかったことを許容する正当な理由となり得るとはいい難いと思われる」と説示するのが、平成23年大法廷判決の趣旨にもっとも沿っているのではないかとも思われる。衆議院議員選挙区画定審議会による選挙区割りの改定案の勧告をうけた平成25年6月24日の公職選挙法改正が正式に成立する前ではあったが、それらの動きがあることを前提として、14か所の高等裁判所のうち、12の高等裁判所が、平成23年大法廷判決に従い、本件選挙を違憲と判断したのはその証左であろう。

しかし、翻れば、そもそも平成23年大法廷判決自体が理論的に複雑な要因を内包していたというべきであろうか。つまり、平成23年大法廷判決自体が、平成17年衆議院議員総選挙(平成17年選挙)にかかる選挙無効の訴えにつき合憲と判断した平成19年6月13日大法廷判決(平成19年大法廷判決)※8と整合的でなく、むしろ、平成19年大法廷判決における裁判官藤田宙靖、同今井功、同中川了滋、同田原睦夫の「4裁判官の見解」の議論の延長線上にあるとの見解が有力に唱えられたり※9、平成17年選挙に関する平成19年大法廷判決では1人別枠方式を含めて合憲としつつ、なにゆえ平成23年大法廷判決の時点であえて違憲状態という結論にまで踏み込む必然性があったのか※10、(平成23年大法廷判決が)1人別枠方式を独立の目的として摘示したことは「やや唐突な感」がある※11、1人別枠方式について激変緩和措置等としての意義を認め、かつ現在において激変緩和措置等としての合理性が失われたという平成23年大法廷判決の認定・論理には疑問が残るところである※12、などと論じられたりしているところであり、平成23年大法廷判決の理論的突出が混迷の出発点であるとの見方もできる。

そうすると、選挙制度に関し立法府に広範な裁量を認めた本件判決は、平成23年大法廷判決の存在も踏まえて、平成23年大法廷判決によりいったん逸れてしまった軌道を修正しようとしただけの判決であるという捉え方をすることも可能なようにも思われる。もっとも、本件判決が、国会の広範な裁量権を導き出すために、司法権と立法権に関する憲法上の関係にまで言及した点は、憲法上の司法権の役割、違憲審査制度の根幹に関わる問題として、今後、学者及び実務家の間において、激しい議論を呼ぶことが予想される。

 

(掲載日 2013年12月16日)

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