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文献番号 2014WLJCC008
弁護士法人心斎橋パートナーズ※4
弁護士 神田 孝
一般に、フランチャイズ契約における当事者の関係については、「フランチャイザーは専門家であるがフランチャイジーは素人である」「フランチャイザーは優越的地位にある」といった上下関係の構図で語られることが多い。しかし、エリア・フランチャイズ契約(サブ・フランチャイズ契約)においては異なる状況にある。エリア・フランチャイズ契約とは、「フランチャイザーが、特定の地域(エリア)で開発力を有すると見込まれる者に対し、そのエリア内でフランチャイジーを募集する権利を与えることを主たる内容とする契約」を言うが(『新版フランチャイズ・ハンドブック』〔編 日本フランチャイズチェーン協会 商業界 2012年〕390頁)、ここでは、(マスター)フランチャイザーとエリア・フランチャイザーは、通常のフランチャイズ契約のような典型的な上下関係にあるわけではなく、むしろエリア・フランチャイザーも相当な企業規模を持つことが多い。また、フランチャイザーも、当該地域におけるエリア・フランチャイザーの知名度や開発力を期待して同社とのアライアンスを組む。いうなれば、エリア・フランチャイズ契約は、フランチャイズ契約としての側面の他に、企業間における業務提携契約・共同事業契約としての側面を強く持つ。今日、この判例コラムで扱う事件も、そうしたエリア・フランチャイズ契約にかかわるものである。
まず、事件の概要から整理したい。本件は、持ち帰り弁当フランチャイズチェーンの(マスター)フランチャイザーである(株)ほっかほっか亭総本部と、そのエリア・フランチャイザーであった(株)プレナスとの間で、エリア・フランチャイザーの義務違反とエリア・フランチャイズ契約の更新拒絶の是非が争いになったものである。ほっかほっか亭総本部(第一審原告、控訴人、被上告人)は、プレナス(第一審被告、被控訴人、上告人兼申立人)とのエリア・フランチャイズ契約の更新を拒絶するとともに、プレナスによる、①ほっかほっか亭総本部に対する「ほっかほっか亭」の商標権侵害の主張等、②全国本部長会議への出席拒否、③店舗の外観の無断変更、④屋台形式での弁当販売、⑤新ユニフォームの採用拒絶、⑥消費期限偽装に関する調査への回答拒絶等の行為、⑦ほっかほっか亭総本部の更新拒絶により終了した地区における標章使用及び競業行為、⑧プレナスが一方的に脱退した地区における競業行為、⑨加盟店に対する勧誘行為などが契約違反に当たるとして、総額105億円余の損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。一審の東京地裁はほっかほっか亭総本部の請求を棄却したが(東京地判H22.5.11判タ1331.159)控訴審の東京高裁ではほっかほっか亭総本部の請求を一部認めた(東京高判H24.10.17判時2182.60)。プレナスは東京高裁判決を不服として最高裁に上告したが、最高裁は、プレナスの上告受理申立をしりぞけ、ほっかほっか亭総本部の勝訴が確定した(最三小決H26.3.31ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA03316001)。
この訴訟の背景にはほっかほっか亭チェーン内での覇権争いが存在する。プレナスは、ほっかほっか亭総本部の大手エリア・フランチャイザーであるとともにほっかほっか亭総本部の発行済株式の44%を有していたが、他方、別地域のエリア・フランチャイザーであった訴外(株)ハークスレイは、ほっかほっか亭総本部の発行済株式の56%を取得するとともに、同社の代表取締役はほっかほっか亭総本部の代表取締役に就任していた。一審の東京地裁は、上記背景事情に着目し、プレナスの契約違反が問題となったころには、マスター・フランチャイザーが有する商品開発権限や営業管理権限はエリア・フランチャイザーに委譲されていたとして、「マスター・フランチャイザーと、その下に位置づけられるサブ・フランチャイザーとの関係は、形式的にも実質的にも逆転していたものというべきである」と判断し、プレナスの契約違反を否定した。さらに、東京地裁は、フランチャイザーが契約の更新を拒絶するためには、フランチャイジーの義務違反により当事者の信頼関係が破壊され契約継続が著しく困難となるようなやむを得ない事由が必要であると述べ、プレナスの行為により当事者間の信頼関係が破壊されてフランチャイズ契約の継続が著しく困難なものとなったとは認められないとして、ほっかほっか亭総本部による更新拒絶の効力を否定した。こうして、東京地裁は、ほっかほっか亭総本部の訴えを棄却したのである(東京地判H22.5.11)。
他方、控訴審である東京高裁は、契約更新を拒絶するためには契約を継続しがたいやむを得ない事由が必要であるとする点では原審と同様であったが、更新拒絶に至るまでの当事者間での一連の経緯(プレナスがほっかほっか亭総本部のノウハウにかかる権利を大幅に減少させる行動に出たことなど)をとらえ、ほっかほっか亭総本部が契約更新を拒絶することもやむを得ないと判断した。そして、更新されなかった地域でのプレナスの行為は原状回復義務、加盟店承継義務に違反するとともに、契約期間中の競業避止義務にも反するとして、プレナスに対し10億9000万円余の損害賠償支払いを命じた(東京高判H24.10.17)。但し、契約終了後の競業避止義務については、その明文規定がなかったことから否定している。その後、最高裁がプレナスの上告受理申立を棄却したことは先にふれたとおりである(最三小決H26.3.31)。
このように、一審判決と控訴審判決では全く逆の結論に至っている。両判決は、マスター・フランチャイザーによる更新拒絶の是非を判断する上で信頼関係理論を採用するものの、結論に至る判断手法(個々の条項における義務違反の位置づけ、更新拒絶についてのやむを得ない事由の考慮等)において相当の相違点が見られる(判時2182号60頁解説)。また、マスター・フランチャイザーが果たすべき義務((a)商標権の使用許諾、(b)経営ノウハウの提供、(c)店舗運営についての指導及び援助を行う義務)について、マスター・フランチャイザーが自ら実際に果たすことをどれだけ重視するかに違いがあるとも評されている(内田清人・NBL 989号7頁)。
先述したように、エリア・フランチャイズ契約は、フランチャイズ契約としての側面とともに、企業間の共同事業契約としての側面を強く持つ。確かに、企業間で長期にわたる共同事業が営まれた場合、事業を進めるにつれて契約当事者の関係や経済環境が変化することも少なくない。しかし、ある程度の規模の企業同士の契約においては、そうした事情を想定して契約書を作成することが可能であるから、全く想定外の事態が生じない限り、契約外の事情で当初の契約の枠組みを変更するべきではない。東京高裁判決は、創始者としてのほっかほっか亭総本部の地位や当初の契約の枠組みを尊重したものであり、企業間の共同事業契約の安定性の観点からは妥当な結論と評価できる。ただし、本件のエリア・フランチャイズ契約が様々な事情の変化を想定して作られていたと言い難いことも事実である。結局、エリア・フランチャイズ契約を締結する際には、マスター・フランチャイザーもエリア・フランチャイザーも、ビジネスのポジティブ面だけに注目するのではなく、当事者の役割分担、利益の分配、不測の事態が生じた際の解消方法などを十分に吟味して契約条項を整備する必要があると言えよう。
(掲載日 2014年5月19日)