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文献番号 2014WLJCC021
西村あさひ法律事務所※2
弁護士 細野敦
2013年6月13日に閣議決定された日本再興戦略の中で、安倍政権が女性の活躍推進を成長戦略の一つとして掲げるなどして以降、俄かに「マタハラ」(マタニティハラスメント)現象が社会の関心を集める中で※3、最高裁が示した断固たる姿勢は大きく新聞・メディアで取り上げられ※4、「マタハラ」が2014年新語・流行語大賞の候補50語に選出されたことは読者の記憶に新しいところだと思われる。
まず、本件事案の事実関係を振り返ってみよう。
原告(上告人)は、平成6年3月、医療介護事業等を行う消費生活協同組合で、病院など複数の医療施設を運営している被告(被上告人)との間で、理学療法士として理学療法の業務に従事することを内容とする期間の定めのない労働契約を締結した。原告は、平成16年4月、病院内でリハビリテーションを行う「病院リハビリ」チームの管理職である副主任に任ぜられ、その頃に第1子を妊娠した。原告は、平成18年2月、産前産後の休業と育児休業を終え、患者の自宅を訪問してリハビリテーションを行う「訪問リハビリ」チームの副主任として職場復帰した。原告は、平成20年2月、第2子を妊娠したことから、労働基準法65条3項に基づいて軽易な業務への転換を請求し、転換後の業務として、訪問リハビリ業務よりも身体的負担が少ない病院リハビリ業務を希望し、これを受けて、被告は、軽易な業務への転換として、同年3月1日、原告を「訪問リハビリ」施設から「病院リハビリ」チームに異動させたが、その後、手続上の過誤により異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していたと説明し、その時点では渋々ながらも原告の了解を得た上で、平成20年4月2日、原告に対し、同年3月1日付けで「病院リハビリ」科に異動させるとともに副主任を免ずる旨の本件措置を行った。
原告は、平成20年9月1日から同年12月7日まで産前産後の休業をし、同月8日から平成21年10月11日まで育児休業をし、平成21年10月12日、育児休業を終えて職場復帰したが、「病院リハビリ」チームから「訪問リハビリ」チームに異動となり、再び副主任に任ぜられることはなかった。そこで、原告は、被告に対し、副主任を免じた本件措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して、管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める本件訴えを提起した。
原審は、副主任を免じた本件措置は、原告の同意を得た上で、被告の人事配置上の必要性に基づいてその裁量権の範囲内で行われたものであり、原告の妊娠に伴う軽易な業務への転換請求のみをもって、その裁量権の範囲を逸脱して均等法9条3項の禁止する取扱いがされたものではないから、同項に違反する無効なものであるということはできないなどとして、原告の請求を棄却した。
しかし、最高裁は、「均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当」(注:傍線は筆者による)と一般理論を示した上で、「上記承諾に係る合理的な理由に関しては、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から、その存否を判断すべきものと解される。また、上記特段の事情に関しては、上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべき」との具体的判断基準を提示した。
そして、本件について、「被告において原告につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等は明らかではなく、本件措置により原告における業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で、原告が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、原告の意向に反するものであったというべきであるから、本件措置については、被告における業務上の必要性の内容や程度、原告における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできない」として、原判決を破棄し、審理を原審に差し戻した。
産休、育休後に復職した従業員が、担当職務の変更、減給などを受けたため、会社を相手に一連の人事措置は無効であるなどとして、差額賃金請求、慰謝料請求等をした事案につき、一部、人事権の濫用などと判断した事例があるが※5、本判決は、均等法9条3項が強行規定であることを前提に、従前のような人事権の濫用性判断という判断枠組みを用いることなく、妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置が原則として違法であるとし、実質的に主張立証責任を事業主に転換している点で、極めて注目すべき判例である。※6
本件では、妊娠中の軽易業務への転換を請求したことに伴う本件措置が均等法9条3項に違反する措置であるか否かが主位的請求原因であるため、法廷意見では判断されていないが、育児休業から復帰後の配置等が育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条に違反するか否かが予備的請求原因とされているとのことで、この点について、櫻井龍子判事が法廷意見と同趣旨の補足意見を述べていることにも、実務上は、留意する必要がある。本件判決を受けて、今後、企業の人事担当者としては、妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置が原則として違法と判断されることを念頭に、労働者の承諾に関しては、軽易業務への転換措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等、労働者が軽減措置による受ける有利・不利な影響につき会社側として適切な説明を行い、労働者の十分な理解を得た上で承諾してもらったことを証拠として残す運用・工夫を行うことが望まれる。また、業務上の必要性等に関する特段の事情に関しては、労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、労働者の知識や経験等、軽減措置に係る経緯や労働者の意向等を考慮した慎重な労務管理が求められる。
マタハラ発生の原因と背景については様々な要素が指摘されていることから※7、真に女性の活躍推進の効果を得るためには、上記のような訴訟対応という個別的・ミクロ的観点からの対策だけではなく、一般的・マクロ的観点からの人事制度の在り方の見直し・再構築等の対策が根本的に必要となることもあらためて留意すべきであろう。その意味で、本件最高裁判決が社会に投げかけた波紋は、法律論以上に大きいと評価すべきかもしれない。
(掲載日 2014年12月15日)