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文献番号 2017WLJCC002
名古屋市立大学大学院
教授 小林 直三
1.はじめに
選挙区間の人口較差が4.77倍で行われた2013年7月21日の参議院選挙に関して、2014年11月26日の最高裁判決※2は違憲状態であるとした。また、「都道府県の意義や実体等をもって……選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなって」おり、「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」とした。
そして、その後、4つの県を2つの合区にしたうえで、選挙区間の人口の最大較差を3.08倍に減少させて2016年7月10日に参議院選挙が行われたが、その参議院選挙に関して、無効を求める訴訟が各地で提起された。同年11月8日の名古屋高裁判決(以下、本判決)は、それら各地で行われた訴訟の高裁判決の最後に下されたものとして、注目された判決である。本稿では、本判決を中心に、一連の参議院議員定数不均衡訴訟高裁判決に関する若干の考察を行いたいと思う。
2.判例要旨
まず、「憲法は……投票価値の平等を要求している」が、しかし、「投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである」ため、「国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない」とした。そして、「投票価値の不均衡が、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由を見いだせない場合には、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断されるが、当該定数配分規定が憲法に違反するに至っていたと判断されるのは、当該選挙までの間に当該定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の超えるものといえる場合に限られる」とした。
次に、参議院と衆議院の選挙制度に関して、「両議院とも……類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきている」とし、また、「衆議院については……選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている」とし、「これらのことに照らすと、参議院についても……投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められ、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由を見いだし難い」とした。そして、「人口比例原則を貫徹しようとすれば、地方に居住する国民の意見はますます反映されにくくなるという指摘」に対しては、2015年の最高裁判決での千葉勝美裁判官の補足意見を参照して、「国会議員は全国民の代表であり(憲法43条)、国政全般に対して責任を負うべき立場にある上、地方における過疎化の進行への対策は、当該地域固有の利益ではなく、我が国全体の利益に直接つながる問題でもあり、地方の利益と大都市の利益とを区別してこれを対立的、二律背反的に評価すべき状況ではなくなってきていること……等を考慮すれば、上記指摘に投票価値の不平等を放置することを正当化する十分な根拠があるとは考え難い」とした。
したがって、本件選挙の「選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の要請の重要性に照らせば、なお看過し得ない程度に達していると認められる」とした。
ただし、「平成24年大法廷判決を踏まえた選挙制度の在り方について協議が重ねられたが……都道府県を選挙区の単位とする選挙制度の仕組み自体の見直しの方向性についての各会派の意見は一致を見なかった」こと等や、「昭和22年の参議院議員選挙法制定以来、一貫して、都道府県を選挙区選挙の単位とする選挙制度が続いてきた我が国において、これと異なる新たな制度を導入するに当たっては、周知期間を十分に確保するとともに、新制度の下で選挙を執行するための準備態勢を整える必要があり、平成27年7月ころまでには改正法を成立させる必要があった」ため、「国会においては、都道府県を選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを基本的には維持しながら一部の選挙区について合区を行うとともに、その余の一部の選挙区においてその定数を増減することにより、一定程度選挙区間の投票価値の較差の是正を図る内容の平成27年改正法を同月28日に成立させ、改正法の附則に『平成31年に行われる参議院の通常選挙に向けて、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る』旨を定めた」ことを評価して、こうした「国会の対応は、本件選挙の施行に向けた参議院の選挙制度の改革のためのやむを得ない措置であったと認められ、本件選挙に向けて平成27年改正法を成立させたことが、国会の裁量権の行使として不合理なものであったとは認め難い」とした。
そして、「以上のような平成27年改正法の立法の経緯に鑑みれば、本件定数配分規定の憲法適合性についても、本件選挙当時においてなお存在していた看過し難い程度に達している投票価値の不均衡を正当化すべき特別の理由があるというべきである」として、「本件選挙当時における定数配分規定が、憲法に違反するということはできない」とした。
以上のことから、本判決は、原告の請求を棄却するとした。
3.検討
今回、各地で提起された訴訟の16件の高裁判決のうち、違憲状態にあるとした判決は10件※3であり、合憲だとした判決は6件※4であった。本判決は、合憲とした判決のうちの1つである。
ただし、合憲判決も、その内容を仔細にみた場合、かなりの温度差がある。たとえば、本判決は、最終的には、「投票価値の不均衡を正当化すべき特別の理由があるというべきである」として合憲判決を下しているものの、その前提として、「選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の要請の重要性に照らせば、なお看過し得ない程度に達していると認められる」旨の言及をしている。福岡高裁宮崎支部判決も同旨の内容である。
それらに対して、10月18日の東京高裁判決と福岡高裁那覇支部判決は、かなり緩やかな判決だといえる。すなわち、(10月18日の)東京高裁判決では、前記の諸判決と異なり、「選挙区間の不均衡は、投票価値の平等の要請の重要性に照らせば、なお看過し得ない程度に達している」旨の言及をすることなく、比較的簡単に「平成27年改正法による本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあると評価することはできない」としており、また、福岡高裁那覇支部の判決でも、同様に「本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったとまでいうことはできない」としている。高松高裁判決と札幌高裁判決の位置づけは、やや曖昧となるが、(10月18日の)東京高裁等に準じたものだといえるだろう。
このようにしてみると、同じ合憲判決であっても、2つ(~3つ)のグループに分けることができるものと思われる。すなわち、「選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の要請の重要性に照らせば、なお看過し得ない程度に達している」としながらも、「投票価値の不均衡を正当化すべき特別の理由がある」として合憲判決を下した福岡高裁宮崎支部判決と本判決のグループと、そうした旨の言及をすることなく、比較的簡単に「投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると評価することはできない」等とした(10月18日の)東京高裁判決、高松高裁判決、福岡高裁那覇支部判決、札幌高裁判決のグループである(もし、3つに分けるのであれば、高松高裁と札幌高裁を2つの中間的なグループとすることも可能かもしれない)。
そして、福岡高裁宮崎支部判決と本判決のグループは、結論的には合憲判決ではあるが、しかし、「選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の要請の重要性に照らせば、なお看過し得ない程度に達している」旨の言及をしていることを踏まえれば、実質的には、広島高裁岡山支部判決など違憲状態と判断した10件の判決に準じた内容だと評価できるものと思われる。そのように考えるならば、今回の一連の高裁判決は、形式的には、合憲とした6件と違憲状態とした10件とに分けられるが、実質的には、比較的簡単に合憲とした4件と、本選挙での選挙区間の投票価値の不均衡を看過し得ないものとして捉えている12件とに分けることができるのではないだろうか。
ただ、(10月18日の)東京高裁判決、福岡高裁那覇支部判決、高松高裁判決、札幌高裁判決も、平成27年改正法の附則で選挙制度の抜本的見直しが明記されたことを考慮して、合憲判決を下している。したがって、今回の一連の高裁判決は、程度の差こそあれ、いずれも国会に対して選挙制度の抜本的改革を促すべく強い警鐘を鳴らしたものだと評価できるだろう。
ところで、このように高裁判決で意見が分かれたのは、各判決における平成27年改正の評価の違いに直接的な原因があることは間違いない。しかし、やはり、そもそもは平成26年大法廷判決に、その遠因があるものと思われる。すなわち、平成26年大法廷判決は、「法的な判断枠組みそのものは従来のもの※5を維持しながら……社会の変化などの事実認識に基づいて、4.77倍の較差を違憲状態に導いたものと考えられる」※6。しかし、法的枠組みを変えずに結論のみを変更する形では、どの程度、投票価値の平等の要請が重視されるようになったのか、必ずしも明確にはならない。そのことが、今回の一連の高裁判決で意見が分かれた遠因だと思われるのである。つまり、たしかに平成26年大法廷判決では、「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」としており、その点を重視するならば、合区を取り入れながらも基本的には都道府県を選挙区の単位とする仕組みを維持している本件選挙の定数配分規定は許容し難いものとなる。しかし、あくまで平成26年大法廷判決が従来の法的枠組みを変えていないことを踏まえれば、10月18日の東京高裁判決の立場も、十分に妥当なものといえるからである。
したがって、このように法的枠組みを変えずに結論のみを変更する形では、法的安定性が欠けることになる。そのため、本来、平成26年大法廷判決が、「もし4.77倍を違憲状態だと判断するのであれば、やはり法的な判断枠組みそのものを変更し、もっと厳しい審査基準を採用して判断すべきであった」※7のである。
本判決をはじめとする今回の一連の高裁判決を受けた最高裁判決では、平成26年大法廷判決の不明瞭さを解消することが期待されるところである。
4.おわりに
以上のように、今回の一連の高裁判決では、本判決を含めて合憲判決も下されたものの、それらは、程度の差こそあれ、いずれも国会に対して強い警鐘を鳴らしたものだと評価できる。そして、本判決をはじめとするこれら一連の高裁判決を受けた最高裁判決では、法的枠組みを変更しなかった平成26年大法廷判決の不明瞭さを解消することが期待される。
また、本判決は、形式的には合憲判決ではあるものの、(福岡高裁宮崎支部判決とともに)実質的には、違憲状態と判断した10件の判決に準じた内容のものと評価できる。つまり、(合憲判決を下した6件の判決の1つではあるけれども)本判決は、投票価値の平等を非常に重視した判決の1つだといえるものなのである。
しかし、本判決などのように投票価値の平等の要請を重視することが、地方の声を国政に反映し難くなる可能性を高めることには、(そうした可能性を高めることが、直ちに投票価値の不均衡を正当化できるかどうかは別にしても)やはり留意しなければならないだろう。広島高裁松江支部判決が言及するように、「党議拘束が禁止されていない状況等も踏まえれば、単に選挙区を都道府県単位とすることを持って、直ちに当該都道府県の民意が国政に反映されているともいい難いのが現状である」かもしれないが、そうであるからといって、地方の声が国政に反映され難くなったとしても構わないわけではない。少なくとも、(本判決でも言及するところであるが、平成27年大法廷判決の千葉勝美裁判官の補足意見のように)「地方と大都市との間で利害が反するというよりも、相互の調整、協力により対処すべき問題がほとんどであり、地方の利益と大都市の利益とを区別してこれを対立的、二律背反的に評価すべき状況ではなくなってきている」※8という実感は、私にはない。むしろ、今日においても、「都市部に住む人たちでは容易に理解できないほど、少人口地域の現状は厳しく、少人口地域に住む人たちは、その情勢や声が国会に伝わらないと感じているのではないだろうか。しかも、近年は、経済における地域間格差やTPP問題など、人口の多い都市部と人口の少ない地方との利害対立が、ますます顕在化してきている」※9と考えている。
近時、原発違憲論を展開している憲法学者の澤野義一は、「原発は都市と地方という地域差別の構造のうえに成り立っており、原発事故が起きた場合は、原発立地周辺住民は他の地域住民よりも……様々な人権侵害を被る。これは、平等権ないし平等原則(憲法14条)の侵害といえる」※10と主張している。もちろん、この澤野の主張は、原発違憲論の文脈でのものであり、投票価値の平等の文脈のものではない。そのため、投票価値の平等の文脈においても同様の主張が妥当するかどうかは、別途、慎重な検討を要するだろう。また、そもそも、厳密な法的評価の意味で「都市と地方という地域差別の構造」がいえるかどうかに関しても、慎重な検討を要するものと思われる。
しかし、少なくとも、日常的な用法における意味で「都市と地方という差別の構造」は、十分に感じ得るものではないだろうか。そして、もし、投票価値の平等を重視していけば、「原発は都市と地方という地域差別の構造のうえに成り立つ」という状況は、さらに進んでいくのではないだろうか。
通常、政治家は選挙区民に不利益を課すことを避けるものだと考えられる。そのため、人口の多い都市部の有権者が積極的に原発などの負担を地方に押し付けようとせずとも、そうした原発などの問題に無関心でいれば、結果として、地方へ過度な負担を強いることになりかねない。そうであるならば、本判決などのように投票価値の平等を重視し、それを求めていくということは、それだけ都市部に住む有権者が(積極的に地方へ負担を強いようとすることは論外であるが)少なくとも無関心のうちに地方へ負担を強いる※11ことなく、地方にも十分に関心を払う(道義的な)責務を負わなければならない※12ということを意味しているといえるだろう。都市部に住む有権者は、そのことを十分に自覚していかなければならないものと思われる※13。
(掲載日 2017年1月17日)