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文献番号 2017WLJCC012
弁護士法人苗村法律事務所※3
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
1.はじめに
平成28年11月11日(A事件)、同年12月7日(B事件)と相次いで東京地裁で、会社法21条3項に基づく差止請求を認める判決が出された。事業譲渡を行った会社が、譲渡後に不正の競争の目的で譲受人の事業と同一の事業を行ったとして、差止めを命じられたのである。
事業再編や、事業承継など様々な理由で事業譲渡がなされることが増えている。譲渡のきっかけも様々で、取引銀行から紹介を受ける場合、M&Aのマッチングサイトで承継者を見つける場合、取引先に承継を依頼する場合などがあろう。A事件は、M&Aのマッチングサイトで引き合わされた相手に、B事件は、支援を得ていた取引先に事業を譲渡した事案であるが、その譲渡の態様によって、裁判所は、事業譲渡とは何か、不正競争の目的をどう解するかについて、工夫して判断をしている様に思われる。この会社法21条3項は、強行法規であるので、契約で競業避止義務を負わないと定めて、同条1項の適用を廃したとしても同項の適用は免れないと言われており、事業譲渡において注意が必要な会社法条文である※4。この不正競争の目的による競業というには、①「事業」が譲渡されたのか、その「事業」とは何か、②不正競争の目的とは何を意味するのかといった点が論点となるが、実務家からは本条はインターネット等が事業に広く使われている現代には合っていないとの指摘があり※5、傾聴すべき意見と考える。2つの判決が、まさにインターネットを販売等に利用している事業について、このような指摘にも耳を傾けながら、認定判断をしていることが読み取れる。順に紹介していこう。
2.A事件の事実関係
まず、先に判決されたA事件の事実関係を見ていこう。この事件では、もともと被告は「FairyAngel」名でゴシック・ロリータファッションやガーリーファッション(判決はこれらのファッションを別のものとして定義している)の中古衣類の買取りや販売を行うインターネットのサイトを運営していたが、判決の認定によれば、被告は、「興味が薄い」との理由でインターネット事業の売却・取得の仲介をするM&Aサイトにこの事業を手放したいとして応募し、原告に、「FairyAngel」の通販サイトを構成する電子ファイル、ドメイン名、在庫商品、買取マニュアル、査定マニュアル、契約上の地位の承継、古物商営業に関する業務・管理方法、査定の手順、買取商品の管理及び保存方法、顧客管理に関する方法その他のノウハウを承継の対象として譲渡することとし、原告は、被告に700万円あまりの譲渡代金を支払った。ところが、被告が引継期間として、原告が譲り受けたサイトでの事業を行えないとした期間に、被告は、メールマガジンに登録していた顧客に対して、新たに「Girly cute」というサイトで、「可愛いお洋服」を提供する旨、及び当該サイトのURLをメールで伝え、その後同サイトで婦人用中古衣類の買取り及び販売サイトの運営を始めたというものである。原告は、ゴシック・ロリータファッション及びガーリーファッションに属する婦人用衣類であって、別紙にしたブランド一覧記載のブランド名の中古衣類の売買を目的とする事業の差止めを求めて提訴した。
3.B事件の事実関係
B事件では、被告は従前ドライクリーニング溶剤配合の洗剤を「ハイ・ベック」等の名称で、代理店を通じて、また楽天やヤフーショッピングといったインターネットのショップページで販売してきたが、債務超過になり、また代表者が病気で事業の継続が困難となったことから、加盟店の一つであった原告代表者と協議して、原告代表者が新会社として原告を設立し、被告の販売事業を全部原告に譲渡することにした。なお、一定の金融負債だけは、被告が譲渡された事業とは別の理由で負ったものとして譲渡の対象とはしなかった。原告はこれとは別に被告との間でコンサルタント契約を結び被告の助言、指導に対し、コンサルタント料を払って、被告が上記金融負債を支払えるようにしていた。ところが、譲渡後に被告が、ハイ・ベックの製造を委託していた先に原告との契約の破棄を求め、原告の代理店に被告が洗剤等の販売事業を始めるなどと吹聴するようになったため、原告はコンサルタント契約を解除した。その後被告は、被告のHPでハイ・ベックS等という名称の商品を扱うことを紹介し、販売するようになった。被告は、(テレビのショップチャンネルを用いた)原告の販売方法について違和感を持っていたなどの小冊子を加盟店に配ったり、原告の顧客となっていた会社との取引を再開する等の行為を行ったというものである。原告は、ハイ・ベックという表示を用いた洗剤の販売事業の差止め・損害賠償を求めて提訴した。
4.事業の譲渡の要件
会社法21条3項の適用については、まず、「事業」が譲渡されたのか否かを認定する必要があるが、この点については、最高裁昭和40年9月22日の大法廷判決※6 が、「営業の全部または重要なる一部の譲渡」の意味について判示していて、これが商法から会社法に変わり、営業から事業と呼び方が変わっても先例として効力を有している。この大法廷判決は、(i)一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部の譲渡であって、(ii)譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、(iii)譲渡会社が、その譲渡の限度に応じ法律上当然に、当時の商法25条(会社法21条と同義)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものが営業譲渡であると判じている。学説においては、(ii)の営業活動の承継を要件ととらえるか否かで解釈が分かれており、これを要件ととらえない有力説(営業財産譲渡説)※7と経営者の地位の承継も要件とする通説(経営者地位引継説)がある※8。
A事件では、事業が譲渡されたかどうかについて被告から争われたのに対し、B事件では、被告が営業譲渡であることを認めたため、判決はこの論点については、実質的な検討をしていない。A事件判決は、大法廷判決のいう(ii)の点の、営業活動の承継については触れておらず、事業を承継させようとする意図は要件ではないとの営業財産譲渡説に立ったと思われる。A事件では、被告は、個々の資産の譲渡に過ぎないと主張したが、判決は、上記の資産に加え、営業譲渡後に在庫や顧客のメールアドレスまで譲渡されていて、これらの譲渡は、譲渡されたサイトを用いた婦人用中古衣類の売買という一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の譲渡であったとして、「事業」の譲渡がなされたと判断した。A事件では、被告は、事業譲渡を進めながら、一方で自らも新しいサイトを準備していたもので、もし大法廷判決の(ii)の点、すなわち営業活動の承継を要件とすると、被告にその意思はなかったとも言えることから、本件は事業譲渡ではないと判断せざるを得ない可能性があるが、一方被告は、原告には、営業活動の承継があると見せかけていたという、いわば原告を欺罔していたという事案であることから、これでは、原告の救済ができないとして、判決は、この点を要件としなかったように思われる。
B事件判決は、「事業譲渡は、譲受会社に譲渡会社の暖簾等を利用して事業を承継させることを目的とするもの」と述べている。暖簾等という表現を用いており、営業財産譲渡説に立っているようにも思えるが、事業を承継させることを目的とするということも述べているところからすると、A事件とは異なり、経営者地位引継説に立っているようにも思われる。B事件では、被告は、事業譲渡性を争っていないので、特に事実関係については具体的な検討はされておらず、大法廷判決の(ii)の譲渡側の主観的な意図を要件としても、認定がしやすい事案であったことも影響しているのかもしれない。
5.不正競争の目的
不正競争の目的については、事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指すとの大審院大正7年11月6日判決※9が今も先例としての意味を持っているとされている。AB両事件判決もこの大審院判決を引用して不正の競争の目的を判断している。しかし、そもそも得意先を奪うというのはこの大審院判決が例示としてあげているだけであり、学説の中には、当事者間で競業避止義務を負わないと合意すれば、得意先を奪う目的での競業は会社法21条3項の禁止に当たらず、欺罔的な要素を伴う場合だけとする考え方もある※10。上述の実務家からは、不正競争の目的は、不正競争防止法や独禁法や消費者保護関連法令などの問題にはなり得るが、会社法の下で、強い制約を課す理由はない、3項の適用は、行為がそれ自体不法行為を構成するような場合に限定すべきとする考えが示されている※11。
A事件判決は、被告が、あたかも本件サイトの譲渡後は同様のサイトを開設・運営しないかのように装いながら、本件サイトと同一の事業を営む目的で被告サイトのドメインを取得し、かつこれを原告に伝えず、また被告サイトの開設を知らせるメールを従来の多数の顧客に送り、これに加えて姉妹ショップであるとの誤認を生じさせた等として、被告は、原告の事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をしたものと判断した。A事件判決が、顧客を奪おうとしたと認定しながら、「同様のサイトを開設・運営しないかのように装い」、「姉妹ショップであると誤認を生じさせた」と判示している点は、欺罔的な要素を考慮すべきとの判断の現れであるように思われる。
B事件では、被告が当初は現実に譲渡した事業を辞め、コンサルタント契約の中で原告の業務に支障をきたす行為を一切してはならないとの覚書を交わしていたとの事情があり、またハイ・ベックという商標も譲渡していた。判決は、大審院判決の基準を引用し、譲渡後に被告が、洗剤等の事業を行うことは想定されていなかったと、その事業譲渡の目的を認定し、被告の、原告の販売方法について違和感を持っていたなどの小冊子を加盟店に配ったり、原告の顧客となっていた会社との取引を再開する等の行為は、原告から顧客を奪う行為だとしている。したがって、この基準に合致したとの判断だけをしてもよかったと思われるが、判決は、更にこの検討の締めくくりとして、被告の行為は、「ハイ・ベック」といういわば暖簾として原告に譲渡された商標の使用による洗剤の販売であり、原告に移転された暖簾等の利用を妨害するものと認定している。B事件では、原告から、会社法21条3項とともにハイ・ベックについて、不正競争防止法2条1項1号の周知表示の混同惹起行為という原因も合わせて主張されており、端的に、これにより不正競争の目的を認めることができたように思われる。
両事件を通じて、ともに大審院判例に従って顧客や取引先を奪おうとしたとの認定をしながら、それ以上の被告の行為の悪性、A事件では、原告を欺こうとしたとの点、B事件では移転した商標の使用といった点を加味して認定しており、先に実務家からの指摘として引用した、会社法21条3項の目的を限定的に解釈すべきとの考えに依拠してもなお、両事件では不正競争の目的を認定できることを明示したようにも思われる。
6.最後に
引用した実務家からの指摘では、インターネット等が事業に広く用いられる現代では、会社法21条は1~3項、いずれの条項も時代に合っておらず、見直しが必要とされており、私も首是するところである。裁判所としては、いきなり異なる基準を打ち立てることは難しいところ、先例を引用しつつ、少しずつ、そのような見解にも耳を傾けて判断していることを示す工夫をしているように見える。会社法21条3項が限定的に解されるべきとしてもなお、限度を超えた不正競争の意図を持ってなされる行為には、この条項の適用があることが改めて明らかとなったともいえ、事業譲渡、その契約書にどのような条項を盛り込むべきか、注意が必要である。
(掲載日 2017年4月10日)
(掲載日 2017年4月10日)