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文献番号 2017WLJCC017
牛島総合法律事務所
弁護士 宗宮 英恵
1.事案の概要
Xは、被告A社(以下「A社」という。)が提供する、携帯電話に電子マネー(以下「本件電子マネー」という。)を記録して使用することのできるサービスを利用し、本件電子マネーを、被告B社(以下「B社」という。)発行のクレジットカードを利用して購入していた。
平成24年11月13日深夜、携帯電話がなくなっていることに気付き、翌14日、携帯電話会社に連絡して上記携帯電話の通信サービスの利用を停止するなどしたが、同月15日から平成25年1月9日までの間、何者かにより上記携帯電話を利用して151回にわたり本件電子マネーを291万9000円分購入された。これに気付いたXは、同月10日、A社に依頼して本件電子マネーのサービスの利用停止措置をとったが、B社からは、本件電子マネーの購入に係るクレジットカード利用代金の請求を受けたため、同年2月18日までに、上記291万9000円をB社に支払った。
本件は、Xが、主位的に、被告らが上記291万9000円についてそれぞれ不当に利得している旨主張し、不当利得返還請求権に基づき、被告ら各自に対し、291万9000円及びこれに対する各被告への訴状送達の日の翌日である平成26年12月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、被告らには本件電子マネーの不正購入につきそれぞれ注意義務違反がある旨主張し、共同不法行為に基づき、被告らに対し、連帯して、上記291万9000円に弁護士費用相当額29万1000円を加えた321万円及びこれに対するXの上記291万9000円の損害が現実化した平成25年2月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたという事案である。
2.第一審(東京地裁平成28年8月30日判決)
3.控訴審(東京高裁平成29年1月18日判決)
(1)A社に対する不当利得返還請求
控訴審は、以下のように述べて、不当利得返還請求を認めないとした。
本件登録会員規約には、A社は、登録会員を名乗る者から本件サービスを利用した本件電子マネーの発行申込みがされた場合において、当該申込みに当たり入力されたパスワードが当該登録会員の登録したパスワードと一致することを確認したときは、当該登録会員からの申込みであると取り扱い、あらかじめ登録されたクレジットカードによる決済をする旨の規定があり、オートチャージの利用の設定について同旨の規定がある(同会員規約3条1項、2項)ことから、オートチャージの利用の設定については、本件携帯電話による本件サービスを利用するためにXが登録したパスワードと同一のパスワードが入力されることにより、その申込みが行われたものと認められ、A社は、これをX本人による申込みと取り扱うことができるといえる。そうすると、A社が、本件チャージについて、オートチャージによるものを含めて、Xの申込みに係るものとして本件クレジットカードによる決済をし、B社からその代金を受領したことについて、法律上の原因がないと認めることはできない。
(2)B社に対する不当利得返還請求
B社については、Xから支払を受けた本件チャージに係る本件クレジットカードの利用代金291万9000円につき、約定に基づきA社に支払済みであるから、Xからの支払に法律上の原因があるか否かにかかわらず、B社には利得が現存しないとし、その余の点について判断するまでもなく、B社に対する不当利得返還請求は理由がないとした。
(3)A社に対する不法行為に基づく損害賠償請求
控訴審は、この点で第一審と異なる判断をしている。
紛失時の手続案内(上記2.(2)ウ.②)に関し、(i)登録携帯電話による本件サービスの利用においては、登録携帯電話の画面ロック機能と本件サービスの利用のためのパスワードによっても、安全性の確保に全く問題がないとまではいえず、登録携帯電話の紛失等に伴い第三者が本件サービスを不正に利用するおそれが皆無とはいえないことは十分に想定し得ること、(ii)A社は、登録携帯電話について携帯電話事業者との通信サービス契約を停止又は解除しても利用することができないことはない旨を認識していたこと、(iii)携帯電話は、携帯電話事業者が提供する通信サービスを利用することを前提に、新たな機能の追加、データの更新等が可能となるとの認識が一般的であり、本件サービスにおけるチャージについても、同様の認識が一般的であると推認されるのであるから、登録会員の中に、登録携帯電話の紛失等が生じても、上記通信サービスの利用を停止すれば、少なくとも新たにチャージがされることはないと考える者が現れ得ることは、特に想定として困難であるとはいえないこと、(iv)本件サービスの技術的専門性があることから、本件サービスを提供するA社においては、登録携帯電話の紛失等が生じた場合に、本件サービスの不正利用を防止するため、登録会員がとるべき措置について適切に約款等で規定し、これを周知する注意義務があるとした。そして、そのような安全確保の措置が規定ないし周知されていたことをうかがわせる証拠がないとして、A社の同義務違反による不法行為の成立を認め、これにより、Xは本件チャージにより291万9000円の損害を被ったとした。
もっとも、Xは、本件クレジットカードの利用明細書より早く確認していれば、多少なりとも被害の拡大は防止することができたといえること、本件の元々の発端は、紛失等に十分注意すべき本件携帯電話をXがなくしたことによるものであるなどから、3割を過失相殺している。
(4)B社に対する不法行為に基づく損害賠償請求
控訴審も、B社に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないと判断し、その理由は第一審のとおりとする。
4.考察
第一審と控訴審で結論が分かれたのは、携帯電話を紛失した際に、登録携帯電話の回線を停止することによって、本件サービスの利用が停止されると考えることが合理的と言い得るかどうかの判断といえる。
第一審は、「携帯電話、電子マネー及びクレジットカードの運営会社がそれぞれ別個のものであったことは、利用者において当然に理解しているべき事柄であるから、一般論としても、登録携帯電話の回線を停止することによって、本件サービスの利用が停止されると考えることが合理的であるとはいえない」としてA社の注意義務違反を否定した。
これに対し、控訴審は、携帯電話は、携帯電話事業者の通信サービスを前提にデータの更新等が可能となるとの認識が一般的であり、本件サービスにおけるチャージについても、同様の認識が一般的であるとした上、「登録会員の中に、登録携帯電話の紛失等が生じても、上記通信サービスの利用を停止すれば、少なくとも新たにチャージがされることはないと考える者が現れ得る」とし、A社において、この点及び通信サービスを停止等しても利用可能である点、携帯電話の画面ロックや本サービスのパスワード機能があったとしても第三者による不正使用が皆無ではない点を認識している又は想定し得ることに加え、A社に本件サービスに係る技術的専門性が認められることを理由に、本件サービスの不正利用を防止するため、登録会員がとるべき措置について適切に約款に規定し、これを周知する義務があるとした。
これは、一方事業者に情報や技術が偏っていることを考慮して法的義務としての情報提供義務を認めたものといえるだろう。情報格差がある状況での法的義務としての情報提供義務は、今般成立した改正民法の検討過程で、民法に規定することの議論がされながら見送られた論点のひとつである※3。また、現在改正が検討されている消費者契約法でも現行法の努力義務から法的義務へといわば格上げすべきといった議論がされてきた論点である※4。情報提供義務は従来、信義則等の一般原則から導かれてきたものであるが、これを法定することの難しさは、本来当該契約の締結に必要な情報は本人が自己の責任で収集すべきものであるという当事者対等原則の考えに加えて、商品・役務の具体的内容等や契約当事者間の情報格差の程度など、個々の事案における個別事情を総合的に衡量して判断するものであるところ、一定の考慮要素を類型化して条文化することは、ともすれば義務の範囲を広すぎるものとし、逆に狭すぎるものとしかねない点にある。控訴審判決は、「技術的専門性」というひとつのメルクマールを示唆するものではあるが、本件サービスの内容や仕組み等の個別の事情を踏まえて義務の有無及び内容を判断している点は従来のものと同様である。
ところで、本事案において、A社は、訴訟提起後に、同社のHPを登録携帯電話の故障等とは独立の項目として登録携帯電話等の紛失案内を掲載する内容に改定している。A社は、この点について「A社が当時HPを現在HPに改定したのは、本件訴訟の提起後であるが、これは、顧客にとって更に分かりやすい情報発信に努める事業者の自主的な取組の観点から、顧客向けのウェブページの継続的な改善の一環としてベストプラクティスを目指して行ったものであり、法的義務を前提とする対応ではない。」としている。控訴審判決も、HP改定の事実から反射的にA社の当時の安全確保の措置の周知等に問題があるかのような認定はしていないと思われる。事業者にとって、顧客との間でトラブルが生じたとき、同様のことが生じないように、より良いサービスの提供という観点で、法的義務や帰責性の有無にかかわらず一定の対策を講じることはあるし、望ましい姿勢である。他方で、対策を講じることが非を認めたかのようにとられてしまうリスクは全くないとはいえない。企業法務実務に携わる者には悩ましい点と思われるが、改善策を講じる際に、あくまでも「継続的な改善の一環」であることがしっかりと伝わるものとするよう意識する必要がある。
(掲載日 2017年6月19日)
(掲載日 2017年6月19日)