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文献番号 2017WLJCC024
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 龍野 滋幹
1.はじめに
会社分割における労働契約承継法(以下「承継法」)に基づく労働契約承継の有効性に関しては、日本アイ・ビー・エム事件最高裁判決(最高裁平成22年7月12日第二小法廷判決・民集64巻5号1333頁〔WestlawJapan文献番号2010WLJPCA07129001〕参照)(以下「最高裁判決」)において、その基準、すなわち、「商法等改正法附則5条1項に基づく労働契約の承継に関する協議(以下「5条協議」)が全く行われなかった場合、又は、上記協議が行われたものの、その際の当該会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、当該労働者は当該承継の効力を争うことができる」とされていたが、当該事案においては、複数回における協議が実施され、また、労働者が適切に意向等を述べることができなかった事情もうかがわれないとして、労働契約の承継は有効と判断されていた。本件判決は上記判断基準に基づきその個別効力を否定した初の公表裁判例である。
2.事案の概要と主たる争点
X(原告)は、Y社(被告)の従業員であり、Y社が自社ブランドの化粧品等の製造を行っていたY社の厚木工場の製造ラインで勤務していたところ、Y社は、平成24年7月2日付けで厚木工場につき会社法上の新設分割(以下「本件会社分割」)をして、Y社の100パーセント子会社であるa株式会社(以下「a社」)を設立した。
XとY社との労働契約は、本件会社分割に伴い、Y社からa社へ承継されるものとされたが、平成24年5月当時、Y社厚木工場のB工場長(a社代表取締役となる)からは、Xを含む同工場の従業員らに対し、同工場がY社から分社化されるのに際して、同従業員らの労働契約関係は従前と同じ条件のまま新設会社に移行する旨の説明がされていた一方、他方でB工場長は、Xに対して、同月7日から22日頃にかけて本件会社分割による組織再編成の名目の下、退職勧奨を行った。退職勧奨を受け入れ難かったXは労働組合に加入し、その旨をY社に通告したところ、B工場長は、同月31日にXと面談し、労働組合に加入したことで想定される不利益等、具体的には、労働組合に加入したところで、団体交渉の期日設定等に時間を要するだけで、早期に問題が解決するものではない、X及びXと同様に当時Y社で勤務するXの配偶者が陰口を叩かれ他の従業員が距離を置くようになる、労働組合に入ったからY社に残って仕事を続けられると思ったかもしれないがそのようなことは絶対にない、Y社に残っても出社したところで仕事が割り当てられずに放置されるだけで辛い思いをする等の事情を様々に述べた上で、労働組合がXの雇用を守ってくれることはないが、他方で、X自らの考えで労働組合を脱退したことにすれば、Y社によるXへの退職勧奨をなかったものとしてリストラの対象から外すとともに、業績評価の良くないXの今後の努力にもよるが、本件会社分割によって新設される会社(a社)の最高責任者(代表取締役)としてXの雇用を守る旨を約束した。これを受けて、Xは、同日、労働組合を脱退した。
Y社は、6月4日、Xに承継法2条1項に基づき、Xの労働契約がa社に承継されるとされていること、Xが同項1号の主従事労働者に該当する等の通知を行うとともに、B工場長は、6月7日、朝礼で、Xを含むY社の同工場における従業員に対し、本件会社分割の概要(目的、新会社の名称や役員の構成等)について説明をした。さらに、同日夕方には、厚木工場内のカフェテリアで、人事労務手続担当者が、Xを含むY社の同工場における従業員に対し、再度、Y社の生産・物流本部に属している従業員が全員a社に労働契約を承継されること等、本件会社分割の概要について説明をした上、何か不明な点があれば職場の上司や人事労務手続担当者の方に質問をして構わない旨を伝えた。
a社は、その後本件会社分割の約1年半後に解散し、Xはこれに伴って解雇された。
そこで、Xは、Y社に対して、本件会社分割にかかる労働契約の承継は、手続に瑕疵があるので、Xはその効力を争うことができる旨等を主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求め、訴えを提起した。
本件での主たる争点は、本件会社分割に伴うXの労働契約の承継に関する手続が5条協議の趣旨に違反するかどうか、である。
3.争点に関する判断
本件判決は、最高裁判決を引用して、会社分割において、5条協議が全く行われなかった場合、又は、会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、会社分割における承継法に基づく労働契約承継の有効性について、上記判決が示した基準に基づきその効力を判断することを確認した。
そして、5条協議等において分割会社が説明等すべき内容等については、平成12年労働省告示第127号「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(以下「本件指針」)が、承継される営業に従事する労働者に対し、当該分割後に当該労働者が勤務する会社の概要や当該労働者が上記営業に主として従事する労働者に該当するか否かを説明し、その希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無や就業形態等につき協議すべき旨を定めているが、その定めるところは合理性を有するといえるから、本件において5条協議が法の求める趣旨に沿って行われたかどうかを判断するに当たっては、それが本件指針に沿って行われたものであるか否かも十分に考慮されるべきであるとした。
そして、これを本件についてみてみると、Xは、Y社から本件会社分割の目的や、それによる労働条件の変更が特段ない旨を他の従業員と一緒に大まかに説明されてはいたものの、結局のところ、XとB工場長との間の個別の話合いにおいては、リストラや、労働組合に加入してリストラに抗うことでもって不利益を被る蓋然性が高いことを示唆される中で、労働組合を脱退することと引替えに労働契約のa社への承継の選択を迫られたにすぎず、そのような話合いの内容は、Xが労働契約をa社に承継されることに関する希望の聴取とは程遠く、これをもって5条協議というに値するか甚だ疑問であるし、少なくとも、法が同協議を求めた趣旨に反することが明らかであると認められると判示した。
4.考察
5条協議は、労働契約の承継の有効要件として労働者の同意まで求めるものではなく、だからこそ、その協議の内容及びプロセスが重視されるものである。本件判決においては、承継対象とされた労働者との個別協議において、Xの希望を聴取していたといえるものではなく、かえって不当労働行為ともいうべき労働組合からの脱退推奨の言動がとられていたと認定されており、このようなY社の行為の不当性が重視されたものといえる。これは、最高裁判決における判断基準に照らしても、協議が行われたものの、会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合に該当するものということができるものであり、本件判決の結論は妥当であろう。
この点に関し、本件判決は協議が行われているさなかに不当行為がなされていたものであるから、判断基準の「会社からの説明や協議の内容が著しく不十分」との文言に該当するかとの問題もありうるところではあるが、最高裁判決にかかる調査官解説においても、5条協議における会社側からの説明が、「その態様や内容に照らして、」個別労働者が協議において自らの労働契約の承継に係る意向等を明らかにするためのものとして著しく不十分であったかが問題であるとして協議の態様も勘案する考えが示されており(最高裁判例解説民事編平成22年度(下)477頁)、本件判決もそのような考えに沿ったものと考えることができると思われる。
なお、Y社が主張するように、本件においてY社が行った手続、すなわち、会社分割の計画及び会社分割が社員の労働条件に与える影響の有無や内容等について社員全体への説明会を開催し、個別の質問等がある社員に対しては会社の人事担当者や上司に個別に相談をするよう呼びかけ、その上で質問や自己の希望に関する相談をしてきた社員については個別に面談を行うという手続は、会社分割時の5条協議義務履践の方法として実務上一般的かつ広く行われている方法であることから、この方法自体が5条協議違反であるとされるのであれば、会社分割実務に大きな影響を与えうるものであったが、本件判決では、当該手法自体の妥当性を論ずるものではないことが付言されており、この点において会社分割時の5条協議義務履践の実務に直ちに大きな変更を求めるものではないと考えられる。
(掲載日 2017年9月25日)