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文献番号 2018WLJCC013
同志社大学 教授
高杉 直
1.はじめに
グローバル経済の下、各企業は、国境を越えて経済活動を展開しているが、他方で、各国の法規制は、国単位で行われており、その規制内容も国ごとに異なっている。そのため、例えば、A国法が要求する行為をすると、B国法上、違法行為として責任が問われることになるなど、企業にとっては悩ましい事態に直面することがある。特に刑事罰・行政罰が科される場合には、A国法が要求する一定の行為をするとB国法による科罰がなされ、当該行為をしないとA国法による科罰がなされるという、深刻な状況に陥ることになる。そこで、各国は、原則として、自国の公法的な規制の対象範囲を自国内で行われた行為に限定している。これが国際法上の属地主義の原則である。しかし、自国の重大な利害関係に関わる事項については、国外で行われた行為をも規制対象にできるとの考え方(保護主義)が国際法上も認められている。実際に、我が国の刑法2条も、内乱罪、外患誘致罪、通貨偽造・行使罪などに関して、国外で行われた行為であっても犯罪として処罰する旨を定めている。
ビジネスに関連する法領域においても、外国での行為に対して自国法の適用を求める例が増加しつつある。例えば、競争法、証券法、輸出入管理法、贈収賄規制法などである。このように、国外での行為に自国法を適用するなど、自国領域を超えて自国法を他国に及ぼすことを「域外適用」と呼ぶ。前述の通り、複数の国が矛盾する命令を行う事態を避けるためにも、どのような場合に、どのような根拠で、自国法の域外適用が認められるかが問われることになる。
本件は、我が国の最高裁において、国外で行われた価格カルテルに対して我が国の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法、独禁法)が適用されるか否かが問題となった初めての事案である。
2.事実の概要
X(原告・上告人)は、マレーシアに本店を置くテレビ用ブラウン管の製造販売業者であり、韓国に本店を置く事業者である訴外A社(サムスンSDI)の子会社である。Y(被告・被上告人)は、我が国の公正取引委員会(公取委)である。
訴外B社(MT映像ディスプレイ)は、我が国に本店を置く事業者である。インドネシアに本店を置くb1、マレーシアに本店を置くb2、タイに本店を置くb3は、いずれもBの子会社であり、テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。訴外C社(中華映管)は、台湾に本店を置く事業者である。マレーシアに本店を置くc1は、Cの子会社であり、テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。訴外D社(LGフィリップス・ディスプレイズ)は、韓国に本店を置く事業者である。インドネシアに本店を置くd1は、Dの関連会社であり、テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。訴外E社(タイCRT)は、タイに本店を置く事業者であり、テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた(A・B・C・D・Eをあわせて以下「親会社5社」という。)。
オリオン電機、三洋電機、シャープ、日本ビクター、および、船井電機(以下「我が国テレビ製造販売業者」という。)は、いずれも我が国に本店を置くテレビ製造販売業者であり、東南アジア地域にブラウン管テレビの製造を行う子会社もしくは関連会社又はその製造を委託する会社(これらを以下「現地製造子会社等」という。)を有していた。我が国テレビ製造販売業者は、親会社5社の中から1社又は複数の事業者を選定し、当該事業者との間で、現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか、おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠や、四半期ごと等の購入価格及び購入数量について交渉していた(以下、上記の選定及び交渉を「本件交渉等」という。)。なお、本件交渉等は、Aが選定された場合にはX、Bが選定された場合にはb1・b2・b3、Cが選定された場合にはc1、Dが選定された場合にはD・d1、Eが選定された場合にはEが、それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた(X、b1・b2・b3、c1、D・d1、Eを合わせて以下「販売8社」といい、販売8社にA・B・Cを合わせて「Xら」という。)。
我が国テレビ製造販売業者は、本件交渉等を経て、現地製造子会社等が購入するブラウン管の購入先、購入価格、購入数量等の取引条件を決定し、現地製造子会社等は、それぞれ我が国テレビ製造販売業者から指示を受けて、主に販売8社からブラウン管(以下、本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する上記ブラウン管を「本件ブラウン管」という。)を購入していた。
親会社5社、ならびに、X、b1、c1、および、d1は、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため、遅くとも平成15年5月頃までに、日本国外において、本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し、おおむね四半期ごとに、次の四半期における我が国テレビ製造販売業者との交渉の際に親会社5社が提示する、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について、各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した(以下、「本件合意」という。)。その後、b2・b3も本件合意に加わった(これにより、Xらすべてが本件合意に加わった)。しかし、その後、本件合意は、C・c1が平成19年3月30日に競争法の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明したことなどから、同日、事実上消滅した。
平成15年から同19年までにおける現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち、販売8社からの購入額の合計の割合は約83.5%であった。
平成22年2月、Y(公取委)は、Xらが本件合意をすることにより、独禁法2条6項所定の「不当な取引制限」(価格カルテル)をしたとして、Xに対し、同法7条の2第1項に基づき、Xの現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の売上額を基礎として算定された課徴金13億7362万円を納付することを命じる本件課徴金納付命令(本件命令)を発した。これに対して、Xは、国外で行われた本件合意について独禁法を適用することができないなどとして本件命令の取消しを求める審判請求をしたが、Y(公取委)は、これを棄却する旨の審決(本件審決)をした。
そこで、XがY(公取委)を相手に本件審決の取消しを求めて訴えを提起したのが本件である。原審である東京高裁(東京高裁平成28年1月29日判決※2)は、「本件合意は、正に本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で行われる本件交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われたのであるから、これに対して我が国の独占禁止法を適用することができることは明らかである」と判示した上で、請求を棄却した。この判決を不服としてXが上告した。
上告理由において、Xは、①本件合意が国外で合意されたものであるところ、本件ブラウン管を直接購入したのは国外に所在する現地製造子会社等であること等から、本件は我が国の独禁法の適用対象とならない、②事業者が不当な取引制限を行い、それが商品の対価に係るものであるときの課徴金額の算定基礎となる当該商品の売上額(独禁法7条の2第1項)は、具体的な競争制限効果が日本で発生した商品の売上額に限定されるものと解すべきであるから、国外で引渡しがされた本件ブラウン管の売上額を課徴金額の算定基礎とすることはできない、などと主張した。
3.判旨
上告棄却。
4.本判決の意義
本判決の意義として、①国外で合意されたカルテルに対し、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、独禁法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めたこと(判旨1)、②国外で引渡しがされた当該商品の売上額を課徴金額の算定基礎とすることができる旨を示したこと(判旨2)、を挙げることができよう。
(掲載日 2018年6月11日)