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文献番号 2018WLJCC017
日本大学大学院法務研究科 教授
前田 雅英
Ⅰ 判決のポイント
強制わいせつ罪、強姦罪(行為時)などの性犯罪の実行者が、犯行を隠し撮りしたデータを蔵置したデジタルビデオカセットの没収の可否が争われ、最高裁は、刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に関し、「このような隠し撮りをしたのは、被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる」として、本件デジタルビデオカセットは、刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当すると判示した。没収の「供用物件」について、重要な判断を示したものといえよう。
Ⅱ 事実の概要
マッサージ店を経営する被告人が、アロママッサージを受けに来た女性3名に対して強いてわいせつな行為をし、また、女性1名を強いて姦淫したほか、被告人からアロマに関する指導を受けていた女性に対して、強いて姦淫しようとしたがその目的を遂げなかったという、強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件について、第1審※2が、各罪の成立をいずれも認めて、被告人を懲役11年に処した。これに対し被告人が控訴したが、原審※3はその結論を維持した。
最高裁もその結論を維持したが、第一小法廷が取り上げた論点は、一連の犯罪行為を密かに撮影しておいた画像を蔵置したデジタルビデオカセットが、没収の対象となる「犯罪行為(強姦、強制わいせつ被告事件)の用に供した物」に該当するかである。
第1審は、本件各デジタルビデオカセットが被告人の犯行を心理的に容易にし、その実行に積極的に作用するものであることを理由に、犯行を促進したものとして刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した。弁護側は、控訴に際し、この点についても同条項の解釈適用を誤っていると争った。
この点原審は、「隠し撮りをして、各実行行為終了後に各被害者にそのことを知らせて捜査機関による身柄拘束を含む捜査や刑事訴追を免れようとする行為は、各犯行による性的満足という犯罪の成果を確保し享受するためになされた行為であるとともに、捜査や刑事訴追を免れる手段を確保することによって犯罪の実行行為を心理的に容易にするためのものといえるから、本件各実行行為と密接に関連する行為といえる」とし、本件各デジタルビデオカセットは「このような実行行為と密接に関連する行為の用に供し、あるいは供しようとした物と認められるから、刑法19条1項2号所定の犯行供用物件に該当する。」とした。
Ⅲ 判旨
被告人の上告に対し、上告趣意は、刑訴法405条の上告理由に当たらないとした上で、以下のように、職権で判断した。
「原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば、被告人は、本件強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影しデジタルビデオカセット4本(以下「本件デジタルビデオカセット」という。)に録画したところ、被告人がこのような隠し撮りをしたのは、被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば、本件デジタルビデオカセットは、刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し、これを没収することができると解するのが相当である。
したがって、刑法19条1項2号、2項本文により、本件デジタルビデオカセットを没収する旨の言渡しをした第1審判決を是認した原判断は、正当である。」
Ⅳ コメント
(掲載日 2018年7月9日)