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文献番号 2019WLJCC009
名古屋市立大学大学院 教授
小林 直三
1.はじめに
本件は、2017年10月22日施行の衆議院議員総選挙の選挙人である上告人ら(原審の原告ら)が、同選挙の小選挙区の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は違憲無効であり、同選挙の各選挙区選挙も無効であるなどとして訴えた選挙無効訴訟の最高裁大法廷判決である。
2.判例要旨
(1) 多数意見
多数意見は、「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている」とし、「定数配分及び選挙区割りを決定するに際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである」とする。そして、「このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである」として、従来の判断枠組みを踏襲することを明らかとした。
そのうえで、「本件区割規定に係る改正を含む平成28年改正法及び平成29年改正法による改正は、平成32年に行われる国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定に当たり、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ、その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じた上で、同方式による定数配分がされるまでの較差是正の措置として、各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより、上記のように選挙区間の人口等の最大較差を縮小させたものであって、投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができる」とする。
また、「もっとも、本件選挙においては、平成24年改正法及び平成28年改正法により選挙区数が減少した県以外の都道府県について、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更はなく、その中には、アダムズ方式による定数配分が行われた場合に異なる定数が配分されることとなる都道府県が含まれている」が、「平成24年改正法から平成29年改正法までの立法措置によって、旧区画審設置法3条2項が削除されたほか、1人別枠方式の下において配分された定数のうち議員1人当たりの人口の少ない合計11県の定数をそれぞれ1減ずる内容の定数配分の見直しや、選挙区間の投票価値の較差を縮小するための選挙区割りの改定が順次行われたことにより、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が上記のとおり縮小し」ており、さらに、「本件選挙が施行された時点において、平成32年以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うことによって1人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法措置が講じられていた」ことから、「本件選挙において、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって、本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできない」とした。
以上のことなどから、多数意見は、「本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない」とした。
(2) 林景一判事の意見
なお、本判決には、林景一判事と宮崎裕子判事の2つの意見と、鬼丸かおる判事と山本庸幸判事の2つの反対意見が付けられている。
林判事は、「本件選挙区割りを合憲状態にあると判断する点において多数意見に賛同しかねる」が、「漸次的とはいえ相当な前進がみられると評価できることから、結論として、本件区割規定は合憲であるとの多数意見に同調するものである」とする。林判事は、「『ほぼ2倍』もの大きな較差を生んでいる以上、その選挙制度は、どこかに不合理があるという評価とならざるを得」ず、「多数意見のように、本件選挙に係る選挙制度が違憲状態を脱して合憲状態にあるとみることはできない」とし、「地理的、歴史的、社会的といった、選挙制度の構築に当たって国会が考慮することのある他の諸要素は、それ自体が憲法上の要求でない以上、投票価値の平等原則の下位に立つものであり、よほど合理的な理由がない限り、そしてそのことが明確に説明されない限り、投票価値の平等が優先的に尊重されなければならない」とする。また、「多数意見に全面的に賛同することができないもう一つの理由として、本判決の中長期的な影響への懸念がある。すなわち、本判決において本件選挙につき合憲状態との判定を下すことが、平成28年改正法及び平成29年改正法に基づく選挙制度について、実質上、いわば包括的な『お墨付き』を与えるものであると受け止められる可能性が高」く、「アダムズ方式による定数配分の下においても、①議員定数が現状のまま維持され又は更に削減されること、及び、②現行の都道府県別の議席配分方式が維持されることの2点を前提とする限り、現状でも較差の縮小に限界があることは否定できない。加えて、農村部の過疎化と都市部、特に首都圏の過密化が更に進む見込みがあるため、2倍程度の最大較差が恒常化する構造が生まれる現実的な可能性が相当にあるように思われる」とした※2。
(3) 宮崎裕子判事の意見
宮崎判事は、平成27年「大法廷判決は、最大較差が2倍未満であれば国会の裁量権として合理性があるとは判示していない」とし、「合理性のない要素を考慮してされた定数配分が実質的にみて是正されたとは評価できないと判断される場合には、最大較差が2倍未満であっても、その定数配分が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態ではないと認めることはできない」とする。また、「これまでの大法廷判決ではどちらかといえば人口の少ない県への定数配分の不合理性に焦点が当てられてきたきらいがあるが、人口少数県への配慮という要素に合理性がない以上、人口の少ない県により多い配分をすべく人口の多い都道府県への配分を減らすことにも合理性はない」とし、「人口の多い都道府県の定数を増加させる方向の改正が平成23年大法廷判決以降の法改正によってされたことはない」ことを問題とする。そして、1人別枠方式の関連では、「本件区割規定が、平成23年大法廷判決によって合理性がないと判断された要素を考慮してされた定数配分を是正し、その影響を解消したものとはいえず、また残されている影響の程度は実質的に無視し難い大きさであると評価せざるを得ない」とする。以上の点などから、「本件選挙時における本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態、すなわち違憲状態であったと考える」とする。ただし、「本件選挙に至るまでの国会における是正の実現に向けた取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったとまでいうことはできない」ことから、「私も、本件においては、本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと考える」とした※3。
(4) 鬼丸かおる判事の反対意見
鬼丸判事は、「憲法の保障する1対1に近い投票価値の平等を超えて約2倍の較差を認めることになるような考慮要素等が国会に認められる裁量であると解することは困難」とし、その理由として、次の3つをあげる。第1に、本件選挙では、「1対1の平等とは相当程度の乖離のある選挙区が多数存在するのであって、このような乖離の大きさや乖離の大きい選挙区が多く存在することについて国会からその政策的目的ないし理由が説明されたことはな」く、また、「憲法の投票価値の平等の要求に照らしたとき」、新区画審設置法3条1項「がほぼ2倍の較差のある選挙区が多数生じることを当然に容認するものと解することはできない」こと、第2に、「国会議員は……いずれの地域において選出されたかに関わりなく、全国民の視野に立って行動することが憲法の要求であ」り、人口が少ない地域の影響や事情も、「近年の発達した通信技術により発信が容易になり、また少子高齢化社会に伴う問題の現れとして報道されることも多く、国会議員にも国民にもその実情は知られるようになって」おり、「議員定数を増加する方法を採用しなくとも、人口が少ない地域の実情は知ることができるのであるから、人口少数県により多くの議員定数を配分することには合理性があるとはいえ」ず、また、「若年齢層やマイノリティー等、選挙人数の少なさから意見が反映しにくいと考えられる要素は多々存在するのであるから……人口の多寡という要素のみを特に考慮して1人1票に近い投票価値の平等を損なうことを、憲法は許容していないというべきである」こと、第3に、「本件選挙実施時における議員定数の配分は、実質的に1人別枠方式が廃止された上で定数の再配分が行われた場合とは異なる定数の配分がされたものであり、憲法の投票価値の平等の要求に沿った選挙制度の下で本件選挙が行われたものとはいい難い」ことをあげる。さらに、平成23年大法廷判決の言渡し日から「本件選挙実施までに既に6年6か月が過ぎており……憲法上要求される合理的期間は経過した」とする。ただし、アダムズ「方式を適用することにより選挙区間の投票価値の較差が縮小することが見込まれており、投票価値がより1対1の平等に近づくことを期待することができ」るため、「司法が直ちに選挙無効の結論を出すのではなく、まず国会が新区画審設置法のもとで投票価値の較差是正を一層進め、その結果について司法が検証するということが憲法の予定する立法権と司法権の関係性に沿う」として、「本件区割規定は違憲であるが、いわゆる事情判決の法理により請求を棄却した上で、本件選挙は違法であることを宣言すべきである」とした※4。
(5) 山本庸幸判事の反対意見
山本判事は、「国政選挙の選挙区や定数の定め方については、法の下の平等(14条)に基づく投票価値の平等が貫かれているかどうかが唯一かつ絶対的な基準」とする。そして、「一票の価値に2倍の較差があるといっても……何回かの選挙を通じて巨視的に観察すれば地域間又は選挙区間でそうした較差の発生がおおむね平均化しているというのであれば、辛うじて法の下の平等の要請に合致しているといえなくもない」が、「これまでの選挙の区割りをみると、おおむね、人口が流出する地域については議員定数の削減が追いつかずに一票の価値の程度は常に高く、人口が流入する地域については議員定数の増加が追いつかずに一票の価値の程度は常に低くなってしまうということの繰り返しである。これでは後者の地域の国民の声がそれだけ国政に反映される度合いが一貫して低くなっていることを意味し、代表民主制の本来の姿に合致しない状態が継続していることを示している」とし、「現在の国政選挙の選挙制度において法の下の平等を貫くためには、一票の価値の較差など生じさせることなく、どの選挙区においても投票の価値を比較すれば1.0となるのが原則であ」り、「これは国政選挙における唯一かつ絶対的な基準」とする。そして、「人口の急激な移動や技術的理由などの区割りの都合によっては1~2割程度の一票の価値の較差が生ずるのはやむを得ないと考えるが、それでもその場合に許容されるのは、せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり、これ以上の一票の価値の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し、違憲かつ無効である」とする。また、無効となった選挙で選出された議員で構成される議院の当該判決前の議決等の効力については、「裁判所による選挙無効の判決の効力は将来に向かってのみ発生し、過去に遡及するものではないから……当該議決は当然に有効なものとして存続」し、「判決後においても……後述のとおり一定数の身分の継続する議員で構成される院により議決等を有効に行うことが可能」であり、「仮に、判決の直後に判決前と同じ構成の院が議決等を行ったとしても、国政の混乱を避けるために、当該議決等を有効なものとして扱うべきである」とする。次に、無効とされた選挙で選出された議員の身分の取扱いについて、「訴訟の対象とされた選挙区から選出された議員のうち、一票の価値(各選挙区の有権者数の合計を各選挙区の議員定数の合計で除して得られた全国平均の有権者数をもって各選挙区の議員一人当たりの有権者数を除して得られた数。以下同じ。)が0.8を下回る選挙区から選出された議員は、全てその身分を失う」が、しかし、「それ以外の選挙区から選出された議員は、選挙は無効になるものの、議員の身分は継続」するとし、「これらの議員によって構成される院で、一票の価値の平等を実現する新しい選挙区の区割り等を定める法律を定めるべき」とする。そして、「仮にこれらの議員によっては院の構成ができないときは、衆議院が解散されたとき(憲法54条)に準じて、内閣が求めて参議院の緊急集会を開催し、同緊急集会においてその新しい選挙区の区割り等を定める法律を定め、これに基づいて次の衆議院議員選挙を行うべき」とする。また、「参議院の場合、例えば全選挙区が訴訟の対象とされているときは、その無効とされた選挙において一票の価値が0.8を下回る選挙区から選出された議員は、全てその身分を失うが、それ以外の選挙区から選出された議員については……議員の身分は継続し」、「参議院議員は3年ごとにその半数が改選される(憲法46条)ので……参議院はその機能を停止せずに活動することができるだけでなく、必要な場合には緊急集会の開催も可能である」とする。したがって、事情判決の法理を用いることなく、本件選挙を違憲無効とした※5。
3.検討
本判決は、2011年(平成23年)の最高裁大法廷判決※6を踏まえて、アダムズ方式を採用する立法措置が行われたものの、同方式による定数配分が行われるまでの較差是正措置として0増6減で対応した選挙が争われたものである。そうした措置によって、最大較差は2倍をやや下回ったけれども、2倍近い較差の選挙区も多数存在していた。
多数意見は、これまでの最高裁判決の判断枠組みを踏襲したものである。
すなわち、「定数配分及び選挙区割りを決定するに際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている」として、「選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになる」としたのである。
したがって、多数意見の立場では、「議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれること」、すなわち、投票価値の平等は、「最も重要かつ基本的な基準とすることが求められている」けれども、「それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されて」おり、「地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている」ことになる。そのため、多数意見の立場は、山本判事の反対意見などのように「投票価値の平等が貫かれているかどうかが唯一かつ絶対的な基準」ではなく、したがって、そもそも原理的に投票価値が1対1になることを求めないことになる(むしろ、「地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ……調和を図ることが求められている」以上、投票価値が1対1になることは、求めるべくもないというべきだろう)。
このように考えるなら、最大較差が2倍をやや下回る程度であったとしても、また、2倍近い較差の選挙区も多数存在していたとしても、憲法上の大きな問題とはならないし、「裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない」状態と評価されることもない。
こうした多数意見に対して、2つの意見と2つの反対意見とに共通するのは、投票価値の平等の要請を他の考慮事項よりも優先的に考える、あるいは、他の考慮事項の合理性を厳しく判断していることである※7。そうした立場からは、投票価値は原理的には1対1を志向しなければならず、最大較差が2倍を下回る程度に甘んじることは、容易には許されない。
つまり、2つの意見および2つの反対意見と多数意見との違いは、投票価値の平等を優先的に考えるのか(そして、他の考慮事項の合理性を厳格に判断するのか)、それとも、投票価値の平等を重要なものとしながらも、それは絶対的なものではなく、あくまで「地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図る」べきなのか、という点にあるといえるだろう。そして、前者であれば投票価値は原理的には1対1を志向しなければならず、後者であれば、必ずしも原理的に投票価値が1対1になることは求められないことになる。
憲法学説では、投票価値の平等を重視し、投票価値が1対1になることを志向する立場が多いように思われる。また、事情判決の法理の適用を否定する山本判事の反対意見には、相当の説得力があり、したがって、仮に投票価値が1対1になることを志向するのであれば、山本判事の反対意見がもっとも妥当な考えだと思われる。
4.おわりに
しかし、評者は、2つの意見や2つの反対意見のように、投票価値の平等を「唯一かつ絶対的な基準」、あるいは「優先的に尊重されなければならない」ものだとは考えていない。つまり、多数意見の判断枠組みに与するものである。
評者は、現実の様々な社会問題を踏まえれば、人口少数県と人口の多い都市部との間には憲法学的にも無視できない違いがあるものと考えている。
確かに、鬼丸判事が述べるように、「若年齢層やマイノリティー等、選挙人数の少なさから意見が反映しにくいと考えられる要素は多々存在する」ことは事実であろうが、だからといって、「人口の多寡という要素のみを特に考慮して1人1票に近い投票価値の平等を損なうことを、憲法は許容していない」というのは、論理に飛躍があるものと思われる。また、「国会議員は……全国民の視野に立って行動することが憲法の要求」だからといって、直ちに人口少数県に議員定数を一定数多く配分することが否定されるわけではない。
そして、鬼丸判事が「近年の発達した通信技術により発信が容易になり、また少子高齢化社会に伴う問題の現れとして報道されることも多く、国会議員にも国民にもその実情は知られるようになって」おり、「議員定数を増加する方法を採用しなくとも、人口が少ない地域の実情は知ることができるのであるから、人口少数県により多くの議員定数を配分することには合理性があるとはいえない」とするのは、かえって人口少数県への無理解を示しているものと考えている※8。なぜなら、当然のことながら、人口少数県の実情を知り得ることと、その立場にたって判断し行動できることとの間には、大きな隔たりがあるからである。
最高裁判事でさえ、こうした考え方をしていることも踏まえれば、やはり人口少数県への配慮が求められるべきだと考えられ、また、そのことに合理性が認められるべきだと思われるのである。
(掲載日 2019年4月15日)