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判例コラム
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第199号 特許法102条1項の逸失利益の推定とその覆滅について判示した知財高裁大合議判決について

~美容器事件知財高裁大合議判決(令和2年2月28日言渡)の検討(その1)~

文献番号 2020WLJCC011
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
田村 善之

1 はじめに

 本コラムが扱うのは、美容器に係る特許侵害事件において、特許法102条1項の逸失利益の推定規定の適用のあり方が争われた大合議事件である、知財高大判令和2.2.28平成31(ネ)10003(WestlawJapan文献番号2020WLJPCA02289002)[美容器]である。
 本件では、原告の特許発明の特徴部分は、被告や原告が製造販売する製品の一部に関わるに過ぎないという事情があったところ、原判決(大阪地判平成30.11.29平成28(ワ)5345(WestlawJapan文献番号2018WLJPCA1129900)[美容器])は、特許法102条1項の推定額を決定するに当たり、本件発明の利用が被告製品に寄与した度合い(=「寄与率」)として10%を乗じたうえ、さらに同項但書きを適用して5割の推定覆滅を認めた。これに対し、控訴審である本大合議判決は、発明の特徴部分が原告製品の部分に止まることを同法102条1項の「単位数量当たりの利益の額」の算定の問題として把握し、そのような事情があっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されると判示したうえで、「単位数量当たりの利益の額」のところでその事実上の推定の覆滅を6割認め、さらに、同法102条1項但書きの下でその他の事情を斟酌して5割の覆滅を認めた。結果的に、差止等の請求に加えて、弁護士費用等を入れて4億4006万円と利息分の賠償請求が認容されている。
 もっとも、大合議らしく、本判決は、傍論も含めて、多岐にわたり一般論を展開している※1。大合議であるだけに、傍論といえども、その説示は将来の知財高裁を含む下級審に大きな影響を与えるものと予測される。そこで、本コラムでは、特許法102条1項に関するその他の論点も含めて本大合議判決の判示事項を分析する※2。なお、本判決が下された時点で2019年改正は未施行であり、本件では2019年改正前の特許法102条1項が適用されている。以下、平仄を合わせるため、判文の引用個所以外でも、特にことわらない限り、「特許法102条1項」とは2019年改正前のそれを指すものとする。

2 「侵害行為がなければ販売することができた物」の意義

 1) 序
 特許法102条1項は、文言上、同項の推定が適用の要件の一つとして、特許権者等に「侵害の行為がなければ販売することができた物」があることを要求しているが、その意義については、特許発明の実施品であることを要するのか否かという点について議論がある※3。また、ここで、実施品ではなく、市場における競合品であるか否かを問題とすべきであるという見解を採用した場合、その証明をどの程度、権利者側に求めるのかという問題もある。

 2) 裁判例
 裁判例に目を向けると、かつては、傍論ながら、特許の実施品であって、侵害製品と排他的な関係に立つ製品と解される旨を説くものもあった(いずれも三村量一裁判長担当事件において、東京地判平成13.7.17平成11(ワ)23013(WestlawJapan文献番号2001WLJPCA07170008)[記録紙]、東京地判平成14.3.19判時1803号78頁(WestlawJapan文献番号2002WLJPCA03190005)[スロットマシンⅠ]、東京地判平成14.3.19判時1803号99頁(WestlawJapan文献番号2002WLJPCA03190008)[スロットマシンⅡ]、東京地判平成14.4.25平成13(ワ)14954(WestlawJapan文献番号2002WLJPCA04250018)[生海苔の異物分離除去装置Ⅱ]、東京地判平成14.6.27平成12(ワ)14499(WestlawJapan文献番号2002WLJPCA06270012)[生海苔の異物分離除去装置Ⅲ]、東京地判平成15.2.27平成11(ワ)19329(WestlawJapan文献番号2003WLJPCA02270006)[溶接用エンドタブ]、三村裁判長担当事件ではないものとして、東京高判平成15.10.29平成15(ネ)1901(WestlawJapan文献番号2003WLJPCA10299001)[溶接用エンドタブ])。
 しかし、現在の裁判例の主流は、不要説である。主流派の裁判例の下では、特許権者の販売している製品が侵害製品と市場で競合する製品であれば、「侵害がなければ販売することができた物」に該当するのであって、それ以上に、特許発明の技術的範囲に属するものであるのかを確認する必要はなく、侵害製品と市場で競合する製品であれば足りる、とされる(東京地判平成22.2.26平成17(ワ)26473(WestlawJapan文献番号2010WLJPCA02269004)[ソリッドゴルフボール]、知財高判平成24.1.24平成22(ネ)10032等(WestlawJapan文献番号2012WLJPCA01249002)[同]、大阪地判平成27.5.28平成24(ワ)6435(WestlawJapan文献番号2015WLJPCA05289008)[破袋機とその駆動方法]、知財高判平成28.6.1判時2322号106頁(WestlawJapan文献番号2016WLJPCA06019001)[同])。侵害者が権利者の製品と侵害物件は基本構造を異にするなどと主張された事件で、権利者の製品は被告物件と同種の製品であって市場で競合することは明らかであると説いて、侵害の行為がなければ販売することができた物であることを否定しなかった判決もある(実用新案法29条1項に関し、大阪地判平成17.2.10判時1909号78頁(WestlawJapan文献番号2005WLJPCA02100010)[病理組織検査標本作成用トレイ])。この場合、特許権者が販売している競合製品が、侵害された特許に係るものではないが別の特許発明の実施品であったという場合も、同様である(東京高判平成11.6.15判時1697号96頁(WestlawJapan文献番号1999WLJPCA06150004)[蓄熱材の製造方法](スミターマル事件))。そして、他にも市場で競合する製品がありうるが、そうした事情は推定の(一部)覆滅の問題として扱えば足りる(前掲東京高判[蓄熱材の製造方法]、前掲大阪地判[病理組織検査標本作成用トレイ]、前掲東京地判[ソリッドボール]、前掲知財高判[同])。
 裁判例のなかにはやや折衷的に、実用新案権者の製品が実施品でない場合には、侵害製品と市場で競合し、侵害製品がなかったならば実用新案権者の製品の販売量が増加することが「相当の確度でもって」認められなければならない旨を説く判決があるが、単位当たりの利益額すら証拠がないとされた事件に過ぎない(名古屋地判平成15.2.10判時1880号95頁(WestlawJapanWestlawJapan文献番号2003WLJPCA02100004)[圧流体シリンダ])。
 この点は、「販売することができた物」を、実施品ではなく、市場における競合品のことを指すと解するとした場合、競合していることの証明をどの程度求めるのかということに関わる。前掲名古屋地判[圧流体シリンダ]の事件は、原告が、原告製品「ロッドレスシリンダORS」は実施品ではないが、イ号物件と同様に、バレルの片側にベースを設け、案内レールで案内される連結板を備えたもので、イ号物件と近似した構成となっており、市場においてイ号物件と競合している旨を主張していたにも関わらず、上記のように論じて原告の請求を退けている。
 しかし、少なくとも権利者の販売している製品が実施品である場合には、裁判例では、それほど厳格な証明は求められていない。侵害者が権利者の製品と侵害物件は基本構造を異にするなどと主張した事件で、権利者の製品は被告物件と同種の製品であって市場で競合することは明らかであると説いて、侵害の行為がなければ販売することができた物であることを否定しなかった判決がある(実用新案法29条1項に関し、前掲大阪地判[病理組織検査標本作成用トレイ])。権利者の製品は一酸化炭素検出機能を備えていないとしても、一酸化炭素検出機能付き火災警報器である侵害製品とおよそ市場において競合する関係に立たなくなるものではないとして、やはり特許法102条1項の適用を否定しなかった判決もある(東京地判平成26.3.26平成23(ワ)3292[電池式警報器])。その他、被告製品は原紙であるのに対し、原告製品は原紙をさらに裁断して箱詰めした製品であったとしても、被告製品もその購入業者によって裁断、箱詰めされて市場において原告と競合するものである場合に、特許法102条1項を肯定する判決(前掲東京地判[記録紙])、原告特許権者が採血キットを単体で販売しているのに対して、被告侵害者は分析装置をもセットで一括販売していると主張された事案で、採血器として違いがなく代替性があると認めて、特許法102条1項の適用を肯定した判決(被告の低濃度ヘパリン製品と原告のそうでない製品についても同旨。東京地判平成12.6.23平成8(ワ)17460(WestlawJapanWestlawJapan文献番号2003WLJPCA02100004)[血液採取器])がある※4。さらには、実施品であることを確認せずに適用を認めた判決として、特許権者が自己が販売する製品についてその原理を説明していたところ、それが特許発明と同様の作用効果と目されるものであったということを斟酌して、市場において競合関係に立つ製品に当たるものと認めて、特許法102条1項の推定を適用した判決がある(前掲知財高判[破袋機とその駆動方法])※5
 ただし、裁判例のなかには、いったん推定を認めつつ、特許法102条1項但書きのところで大幅に推定を覆滅するものがないわけではない。たとえば、原告主張の4つの特許権中3つについて無効の抗弁が認められたために、侵害が肯定された残る1つの特許権について損害賠償が算定されたという事件で、価格差(原告製品が2000円、子供用ゴーグルでも1050円ないし1365円であるのに対し、被告製品は100円)、販売ルートの差(原作製品はスポーツ専門店等、被告製品は100円ショップ)、原告のシェア(全ゴーグル市場で17.6%)、本件特許発明の本質的特徴の売上げに対する寄与度(本件特許発明は取付台部の後面側に属する部品に関する技術であって、ゴーグルの前面からは確認することはできず、シュリンク包装がなされている被告製品にあっては当該部分に着目して商品が購入されるとは想定しがたいところ、原告製品のカタログ等において特許発明にかかる技術に言及されることがほとんどなくなっていること)を参酌して、1項但書きにより99%の覆滅を認める判決がある(さらに覆滅部分について3項の賠償を否定した、大阪地判平成19.4.19平成17(ワ)12207(WestlawJapan文献番号2007WLJPCA04199002) [ゴーグル])。

 3) 学説
 学説上も、特許発明の実施品であることを要求する少数説はあるが※6、筆者※7を嚆矢とする多数説は、特許発明の実施品である必要はなく、市場における競合品であれば足りる、と理解している※8。競合品説に与する場合の証明の程度に関しても、侵害がなかったとした場合、侵害製品の需要が向く可能性があれば足りると解する筆者の見解※9など、厳格な証明は要しないとするものが多い※10

 4) 判旨
 本判決は、「侵害行為がなければ販売することができた物」の解釈につき、以下のように、一般論を説いている。

 「特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。」

 そのうえで、本件への当てはめとして、原告製品が本件特許発明の実施品であることを斟酌してこれに該当すると判示された。

 「前記(1)のとおり、「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は、本件発明2の実施品として、「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の美容器(以下「原告製品」という。)を、平成21年2月以降販売しており(甲23、24、弁論の全趣旨)、原告製品は、「侵害行為がなければ販売することができた物」に当たることは明らかである。」

 5) 本判決の意義
 本判決が展開する一般論は、「特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる」※11というものである。特許発明の実施品であることを要するか否かについて、裁判例や学説に対立が見られるなかで、あえて特許発明の実施品であるか否かに言及することなく、「侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる」と説いた以上、本判決が、実施品不要説に与したことは明らかといえよう。
 もちろん、本件の原告製品は特許発明の実施品であると認定されているから、この点に関する本判決の判示は、あくまでも傍論に過ぎない。しかし、大合議をもって、文言に紛れがほとんどない説示をもって一般論が展開されたことの事実上の影響力は大きい。本判決を待つことなく、近時の下級審の裁判例が不要説で一貫していたことに鑑みれば、今後、必要説が下級審の裁判例で登場する可能性はますます小さなものとなったといえるように思われる。
 また、傍論といえないところでは、本判決が、具体的な当てはめにおいて、原告製品が特許発明の実施品であるとの一事をもって「侵害行為がなければ販売することができた物」に該当すると認定したことが重要である。裁判例は、権利者の製品が特許発明の実施品である事例では、比較的緩やかにこれに該当すると判断するものが多いが、他方、実施品ではなかったという事例では、市場における競合の程度の具体的な主張立証を要求するものが存在すること(前掲名古屋地判[圧流体シリンダ])は、前述したとおりである。本判決は、特許発明の実施品である事例で特許法102条1項の推定を働かせたうえで、後述するように、「侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情」は推定の覆滅の問題とする旨を説いている。これらの相違点が損害賠償額に影響することを明らかにする責任を侵害者に課したのである。こちらのほうは、本件の事案に則した論点であるから、傍論とはいえず、今後の下級審にも強い影響を与えることになろう。ただし、権利者の製品が実施品ではない事例でどのように扱うのかということは、定かにはされていない。本判決の射程外の問題となるが、特許法102条1項の趣旨に鑑みて、同項の推定の適用を受けるために特許権者に過度の責任を課すことなく、むしろ推定の覆滅の問題として処理しようとする本判決の立場と整合的な取扱いとするためには、特許権者の製品が実施品でない場合にも過大な主張立証を特許権者に要求しないものとすることになろう(本判決と同文の要件論の下、ゆるやかに競合品と認めた例として、参照、前掲知財高判[破袋機とその駆動方法])。

 6) 検討
 特許発明の実施品であることを要求する少数説の実践的意義は、そのように推定の要件を絞ることにより、但書きの推定の覆滅をほとんど認めないようにするというところにある。つまり、特許発明の実施品であるからこそ、侵害製品と規範的に補完的な関係にあることを擬制することができ、ゆえに、事実の問題として、市場において他に競合品が存在するなどの主張をして、但書きの「販売することができないとする事情」に該当しないとする解釈論に結びつけようというのである※12
 特許法102条1項をして、侵害抑止機能を十全に果たす規定として活用しようとするその実践的意図は多分に傾聴に値するものを含んでいる。しかし、筆者は、この問題は、独り1項のなかだけで考えるのではなく、侵害者利益を推定する2項、相当実施料額賠償を定める3項を含めた特許法102条全体を視野に入れて、各項にいかなる役割分担を期待するのかという観点から論じることが望ましいと考える※13
 たとえば、少数説の下では、まさに本稿が問題としているように、特許権者が実施している製品が特許発明の実施品ではないが、侵害製品と市場で競合している場合に、推定の適用を否定する。しかし、侵害がなかったとしたならば権利者の財産状態がどのようなものとなったのかということを想定すると、この場合、仮に侵害がなかったとした場合、たとえば侵害者が製品を全く販売しなかったとしたならば、侵害者の製品の需要者のなかで市場における競品合を買おうとする者が相当程度存在するはずであり、その結果、特許権者の製品の売上げも(それがどの程度は状況次第であるが)なにがしかは伸びたはずである。もちろん、侵害がなかったとした場合でも、たとえば特許の実施部分や特徴部分が侵害製品の一部に止まっているような場合には、侵害者は当該部分を取り替えて非侵害となる製品を販売するかもしれない。しかし、そのような場合でも、実施部分や特徴部分がなくなっているために侵害製品の需要者が侵害者の製品から離れる可能性があり、そしてその離れた分のいくばくかは特許権者の製品に向かうであろう※14。いずれの場合にも、権利者の製品の売り上げが幾分かは伸びたと考えられるから、その分の賠償が認められないとすれば、権利者の財産状態を(少なくとも)侵害がなかった場合にまで引き上げるという損害賠償の填補機能に悖ることになる。あるいは、少数説は、そのような賠償は、特許法102条1項の推定を働かすことなく、民法709条だけを適用してその賠償を認めればよいというかもれない。しかし、特許権侵害による逸失利益は市場を介して発生するだけに、その正確な把握は困難である。そのような特許権侵害の特殊性に鑑みて設けられた特則である特許法102条1項にあえて背を向けてその活用を否定する理由はないように思われる(少数説の帯に短し問題)。仮に特許法102条1項の適用を認めないとすると、他に競合品もあるなどの市場の状況のなかで、侵害がなければどの程度、自身の競合品を販売することができたのかということを、特許権者のほうが証明していくことになるが、これは侵害行為と損害との因果関係の問題に他ならない。民法の特則として特許法102条1項が設けられた理由は、市場を介して損害が発生するという特許権侵害の性質上、まさにこの因果関係の証明が困難であり、それがゆえに特許権者の救済に悖ることがないようにしたところに求められる。そうだとすれば、権利者が競合品を販売しているのであれば「侵害行為がなければ販売することができた物」と認めたうえ、そこから賠償額を減じていく責任は侵害者に課すことが、同項の趣旨に適った取扱いであるといえよう。
 逆に、少数説は、市場で特許権者の製品や侵害者の製品以外にも、他に第三者の競合品が存在する場合に、これを1項但書きの販売することができないとする事情として推定額を減じる筆者ら多数説を批判する。しかし、特許法102条1項は権利者の製品の単位当たりの利益額を基礎として算定されるが、これはもっぱら権利者の事情であるから、時として侵害者にとって不意打ちとなったり、過大となったりすることがある。そのような賠償が正当化されるのは、まさにそれが侵害がなかったとした場合の財産状態に権利者を戻してあげる制度だからなのであろう。だとすれば、同項において、侵害なかりせば得べかりし利益を権利者に回復するという観点からは説明しえない金額の賠償を認めることは、同項の正当化理由を超える(少数説の襷に長し問題)。その反面、たとえば特許法102条2項は侵害者が侵害により得た利益を算定するものであるという意味で、1項におけるような不意打ちの要素はない。むしろそれがゆえに侵害による利益の吐き出しの機能を2項に期待することができよう※15
 結論として、特許法102条1項の「侵害がなければ販売することができた物」として、権利者が特許発明の実施品を販売していることを要求する少数説に与することはできず、権利者の製品と侵害製品が市場で競合するものであれば足りると考える。
 そして、「侵害がなければ販売することができた物」に関して、本判決が扱ったもう一つの問題、すなわち、この権利者の製品と侵害製品とが市場で競合することをどの程度具体的に主張、立証する必要があるのかという問題に関しては、侵害者の製品と代替可能性のある製品で、特許権者に販売する用意があるものを指すが、製品の種類として代替可能性があれば足り、少しでも、侵害者の製品の需要が、権利者の製品に向きさえすれば、この要件を満足すると解すべきである。ここで侵害がなければ侵害者の需要が権利者の製品に向けられたか否かということを厳しく吟味するということになると、それは因果関係を証明することと殆ど変わらなくなり、何のために推定規定を設けたのか分からなくなりかねないことを斟酌しなければならないからである。価格や品質を異にする等のために、侵害者の製品の全需要が特許権者の製品に向かうとは想定できないとしても、それは、但書きにより推定額からの控除の責任を負う侵害者の負担に帰せば足りる。ゆえに、特許権者が販売する予定のある製品が特許発明を実施した製品であれば、原則としてこの要件を満足し、その充足が否定されるのは、同じ照明の特許を実施した街灯と懐中電灯のように、実施品であっても商品の性質を異にするために、侵害者の需要のうち有意な数が権利者の製品に向くと想定することがおよそ不可能な場合に限られると解される※16。特許権者の実施している製品が侵害製品と同じく肌にかかる美容器である本件において、実施品であることをもってただちに1項の推定を認めた本判決の取扱いは、特許法102条1項の趣旨をよく具現するものとして評価すべきである。


(掲載日 2020年4月10日)

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