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判例コラム
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第205号 マリカー事件知財高裁判決―実施料率による損害賠償算定―大合議判決の応用 

知財高裁令和 2 年 1 月 29 日判決※1

文献番号 2020WLJCC017
弁護士法人苗村法律事務所 ※2
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子

1.はじめに

 マリカー事件中間判決※3から半年、最終の判決が出された。最終判決の注目点はなんといっても、実施料相当額でもって損害賠償額を判断する不競法5条3項の判断基準が示されたこと、そしてその基準が、特許法102条3項の判断基準を示した知財高裁の大合議判決※4の判断基準とほぼ同じであったことである。その料率もドメインを使っている店の売上げについては15%、ドメインを使っていない店の売上げについては12%とこれまでの判例の基準からみてもその高さも注目されるところである。
 ここまで読むと、読者の皆さんは、ふむふむ、プロパテント、知財の賠償額の高額化に積極的な今の知財高裁、特許庁、日本政府の思惑が反映されている、同じ流れの判決だなとお感じになったと思う。私もそう思って、この判決を読み、またその結論には大いに賛同するところである。
 そこで、特許侵害事件大合議判決(令和元年6月7日知財高裁判決)(以下、「大合議判決」という)の実施料率の算定についての考慮部分について、再度読み返してみた。大合議判決は、特許ライセンスは、ライセンス対象製品が、実際に特許技術を用いているのか否か、また特許が有効なものか否かがライセンサー、ライセンシーともにわかっていない段階で、将来の特許使用について、ライセンシーが、「最低保証額を支払」うもので、ライセンス契約においては、後に「当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で」実施料率が決定されるのに対し、特許侵害事件では、特許の有効性や侵害事実が裁判によって明らかになった状況で実施料率を考えるのであり、侵害者は、侵害している間、「上記のような契約上の制約を負わない」、したがって、「通常」の文言が削除された「特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである」とし、このWLJ判例コラム177号(文献番号2019WLJCC022)で田村善之先生が述べておられる「侵害プレミアム」を足しこむべきとしている。
 次の項で詳細を述べるが、本判決はほぼこの大合議判決の論旨を踏襲している。不競法は、不正競争行為について、侵害実体に応じいくつかの侵害類型では、特許法102条3項と同じように実施に対して受けるべき損害の算定方法として不競法5条3項を規定している。したがって本判決が、特許法102条3項と不競法5条3項をパラレルにとらえたことには、特に異論はないと思われる。ただし、特許法や商標法など産業財産権四法といわれる権利の登録制度を持つ知的財産と、経済法と知財法との中間的な存在といわれる不競法において、多くの侵害類型は登録制度を持たない無体のものに対する侵害で、同じ論法が使えるのか?マリオカート事件のように不競法2条1項1号の周知表示について、ライセンス実施ということがあるのか?これが今回のコラムのテーマである。前置きが長くなったが、今回は不競法5条3項の意味についてマリカー事件とともに考えてみたい。


2.判決の趣旨

 本判決は、マリカー、MariCar、MARICAR、maricarの4つの文字標章の使用差止め、maricar.●●等4つのドメイン名の使用差止めを、日本語で記載されたか外国語で使用されるかに限らず認め、一審※5で認められていたマリオやルイージのコスチュームの営業上の使用差止めや、動画の使用差止めを維持するとともに、損害賠償の額を一審の1000万円から5000万円に増額した。
 損害賠償額については、本判決では、実損として9239万9253円、弁護士費用を1000万円として、1億円を超える賠償額の認定をしつつ、一審原告の請求額が一部請求の5000万円であったため、その満額を認定したというものであった。なお、一審は損害額を1026万円余り、(うち弁護士費用は93万円)としていた。
 本判決も原判決もともに、原告が賠償額算定の根拠としていた不競法5条3項に基づく算定を行っている。原判決は同法5条3項に基づく算定方法について特に述べていないが、本判決は、「不競法5条3項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該商品等表示についての許諾契約における料率に基づかなければならない必然性はない。不正競争行為をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきである。」とした。
 そして、「不競法5条3項に基づく損害の算定に用いる、実施に対し受けるべき料率は、①当該商品等表示の実際の許諾契約における料率や、それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ、②当該商品等表示の持つ顧客吸引力の高さ、③不正競争行為の態様並びに当該商品等表示又はそれに類似する表示の不正競争行為を行った者の売上げ及び利益への貢献の度合い、④当該商品等表示の主体と不正競争行為を行った者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである」として冒頭で述べた基準を打ち出したのである※6。そして、本件へのあてはめについては「これを本件についてみるに、①一審原告が、一審原告の著作物や商標等に関してこれまで締結したライセンス契約における料率、②原告商品等表示は、著名なもので・・・高い顧客吸引力を有していると認められること、③一審被告会社の不正競争行為の態様は、・・・一審被告会社は、原告商品等表示の持つ高い顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって不正競争行為を行ってきたのであり、原告商品等表示と類似する被告標章第1及び被告標章第2並びに本件各ドメイン名が一審被告会社の売上げに貢献した度合いは相当に大きいと認められることといった事情からすると、本件各ドメイン名を使用しているMariCAR店舗及び・・・店の売上げに係る料率は15%として、本件各ドメイン名を使用していないその他の店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である」とした。


3.本判決で損害賠償が認められた不正競争行為

 一審被告会社が行っていた行為で損害賠償が認められたのは、マリカーやMariCarといった文字標章の使用、マリオ、ルイージなどの一審原告のマリオカートというゲームに登場するキャラクターをかたどったコスチュームを客に貸与する行為、そのコスチュームを着用してのカートでの公道の走行を撮影した動画の営業への利用と宣伝広告のために用いられたmaricar.●●といったドメインネームの使用行為である。
 一審原告が第三者との間で商標や著作権のライセンス契約を行っており、本判決はその料率も考慮したようであるが、その詳細は判決文からはわからない。ちなみに一審原告は、料率を15%と主張していたから、本判決はほぼ一審原告の主張を認めたことになる。


4.不競法5条3項の意味

 不競法5条3項が定められたのは、平成5年の改正時である。救済面の充実が必要だとされ、改正以前、判例が、特許法等の規定を類推適用してきたことなどを参考にこの判例法理を明文化して救済手続面での充実を図ることとされた。周知表示、著名表示、営業秘密に関する不正行為については、それぞれ対価を得てその使用または実施の許諾をすることが観念できるため、従来の判例の扱いを明確化して、救済手続面での充実を図ることとしたとされる※7
 大合議判決が述べた、特許法102条3項から「通常」が消えたのは平成10年改正時で、同時にこの時点で同様の趣旨の規定である商標法38条3項からも「通常」の文言が削除されたが、不競法は、この時点では改正されず、平成15年時の改正で不競法5条3項から「通常」の文言が削除されることとなった。現在ではさらに不正競争行為の類型は増えているが、同法5条3項は使用や実施が観念できると考えられる不正競争行為の類型に限って定められており、本件マリカー事件でも、文字標章とキャラクターの使用に対して同法5条3項1号が、ドメインの使用に対しては同法5条3項4号(現5号)が適用されている。
 使用や許諾が観念できるかについて、不競法2条1項1号、2号は商標権の、同項3号の形態模倣は意匠権の、同項4~9号の営業秘密については、特許権、実用新案権、ノウハウライセンスにおける使用料の問題と共通するとの解説もなされているところである※8
 本判決も大合議判決の①の基準と同様、「当該商品等表示の」の実際の実施料やそれがない場合の業界の実施料率をまず参考にする基準として挙げ、本件では、その料率は明らかではないが一審原告が商標や著作権のライセンスをしていたことを認定している。
 不競法5条3項が規定されるに至るそれまでの判例が、何とか不正競争行為に対して救済をするため、特許法102条3項を類推適用し※9、また本判決が、大合議判決に足並みをそろえるように、4つの基準を打ち出したことについては、なされた不正競争行為について、それに見合った相当(高)額の賠償義務を認めるべきという一種のプロパテントの考え方には賛同することは冒頭で述べた通りである。
 ただ、さらに考えてみると、本判決のいう当該商品等表示の実際の許諾や業界での実施料率なるものが実際にあるのだろうかという疑問がわく。ノウハウ以外では、ライセンス契約の対象とされているものはいわゆる権利としてライセンサー、ライセンシーの両者にライセンスの必要性やその締結の持つ双方へのメリットが了解される類のものである。ライセンシーにしてみれば、著作権はともかく、登録制のあるものであれば、それを検索、探知するのは容易であり、自らのビジネスに必要と考えられれば、ライセンサーに申し込むことができ、またライセンサーもライセンシーの目的や自らのビジネスへの影響、相互作用の是となる部分、非となる部分を十分考察してから、契約締結、その実施に至ることができる。
 しかし、商標権の保護のない文字標章や製品パッケージ、または本件で問題となったキャラクターが著作権の対象とならないと思われる場合に対して商品等表示に該当すると考えるからライセンスを受けさせてほしいというようなことを提示するライセンシーがいるとは思えない。営業秘密に関しても、例えば技術ノウハウであればライセンスは考え得るものもあるが、顧客名簿をライセンスで使用させてほしいというようなことはおよそ考えられないように思う。


5.不正競争防止法の意味

 このような権利とは呼べないものについても不競法が、不正競争行為を定義し、侵害差止め(不競法3条)や損害賠償請求(同法4条、5条)を認めるのは、その相手方の行為がまさに「不正競争」行為であるからだと考える。不正競争行為の各類型をひとくくりにはできないが、侵害者側に一定のフリーライドの意図すなわち故意の場合が多いといえよう。そのような意図を持つ相手に、双方の利害の調整弁となり、経済秩序の中に納まるライセンスがなされることは、通常考えられない。
 不正競争行為の被害者は、商品等表示や営業秘密を築いてきた者であるが※10、そのような不正な行為の横行を許すことは、ひいては、国民経済の健全な発展(同法1項)を阻害することになる。被侵害者はしたがって、このような不正競争行為に対しては、通常はライセンスという形で権利関係の調整が事前になされる知的財産権よりも、より果敢に声を上げて訴える必要があることになる。
 ただし、その立証は、侵害行為の立証に先立ち、それが保護されるべきものに該当するのか、例えば本件のような周知表示に関しては、周知性の立証がまず必要であるし、営業秘密に関しては、それが営業秘密であること、すなわち秘密管理性、有用性及び非公知性を立証し、その営業秘密が訴訟において特定できていることを立証しなければならないなど、立証活動においては相当な労力が要請される。
 本判決が掲げた基準の①は、商品等表示の使用料ではなく、近接する権利の使用料を考慮要素の一つとすべきかと思われる。また観念的には考えられ、不競法5条3項が列挙するような類型には当てはまっても実際には使用許諾されることがないような侵害態様についても、本判決が②、③で述べる基準を中心に、相当に高い料率を認めるべき場合も多いのではないかと考える。原告の尽力によって、周知標品等表示の周知性や営業秘密の3要件の立証に成功し、周知商品等表示や、営業秘密が認定され、かつ被告によるその侵害が認定された際に認められるべき実施料は、それらの近縁の権利の将来の使用について支払われるライセンスの使用料に比して、相当に高い料率が設定されてしかるべきだと考える。田村先生のおっしゃる侵害プレミアムは、不競法ではさらに高率になってしかるべきと思う次第である。


6.最後に

 裁判所が損害賠償請求権に対して、積極的な姿勢で臨まなければ、被侵害者は訴訟提起をあきらめてしまう。それでは、被侵害者の損害が回復しないだけでなく、国民経済の健全な発展にも悪影響を与えることを考えてもらいたい。本判決では、12または15%という高率の料率が認められた。中間判決でも述べられていたが一審被告会社の代表者について、会社法429条の損害賠償請求が認められ、したがって同人にも5000万円の支払が命じられている。本判決は、基準②の各標章やキャラクターの顧客吸引力と、それを利用しようとする一審被告会社、その意思を体現する同社代表者の侵害態様の悪性を強く認め、10%を超える使用料率を認めたものと考える。この料率が、上述の実際には使用許諾ということがあり得ないような場合の基礎となるいわば相場の料率として定着してくれればと考える。


(掲載日 2020年6月15日)

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