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判例コラム

 

第206号 国内にある事業所に属する資産の判断基準 

~塩野義製薬株式会社事件(東京地裁令和2年3月11日判決※1)~

文献番号 2020WLJCC018
関西大学会計専門職大学院 教授
中村 繁隆

1.はじめに

 塩野義製薬事件(以下、本事件という)は、法人税法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下、同じ)2条12号の14に定める適格現物出資への該当性が争点となった事案である。法人税法2条12号の14は、その括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」を適格現物出資から除いており、当該規定の委任を受けた法人税法施行令(平成28年政令第146号による改正前のもの。以下、施行令という)4条の3第9項は、国内にある資産又は負債を「国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、…その他国内にある事業所に属する資産…又は負債」と規定していた。
 東京地裁は、現物出資の対象資産を英国領ケイマン諸島(以下、ケイマンという)の特例有限責任パートナーシップCILP(Cayman Islands exempted limited partnership.以下、同じ)の持分(以下、本件CILP持分という)と認定した上で、本件CILP持分を「国内にある事業所に属する資産には該当しない」と判示した。ただ、内国法人である塩野義製薬株式会社(以下、原告という)は、ケイマン及び米国に事業所を有していなかった※2。従って、上記判示の「国内にある事業所に属する資産には該当しない」とは、本件CILP持分が「国内にある事業所に資産」に該当し、「にある事業所に資産」には該当しない、と解釈せざるを得ない。
 本コラムでは、なぜこのような解釈が生じたのか、その原因を探っていきたい※3

2.事実の概要と争点

 原告は、米国法人との間で、医薬品用化合物の共同開発等を行うジョイントベンチャー(以下、本件JVという)を形成する契約を締結し、同契約に基づき、ケイマンにおいてCILPを設立し、本件CILP持分を保有していたが、その後の本件JVの枠組みの変更に際し、平成24年10月31日、本件CILP持分全部を原告の英国完全子会社に対し、現物出資(以下、本件現物出資という)により移転した。
  原告は、本件現物出資が法人税法2条12号の14に規定する適格現物出資に該当し、同法62条の4第1項の規定によりその譲渡益の計上が繰り延べられるとして、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度及び課税事業年度(以下、平成25年3月期という)の法人税及び復興特別法人税(以下、法人税等という)につき確定申告をし、同確定申告に係る繰越欠損金の額を前提として、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度及び課税事業年度(以下、平成26年3月期という)の法人税等につき確定申告を行った。これに対し、所轄税務署長は、本件現物出資が適格現物出資に該当しないことなどを理由に平成25年3月期の法人税等につき各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったため、原告は平成26年3月期の法人税等について、上記各更正処分による繰越欠損金の額の減少等を前提に修正申告をした上で更正の請求をしたが、所轄税務署長から更正をすべき理由がない旨の各通知処分を受けた。
 本事件は、原告が本件現物出資を適格現物出資に該当すると主張して、上記各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、その後の更正処分及び変更決定処分による減額後のもの。以下、本件各更正処分等という)並びに上記各通知処分(以下、本件各通知処分といい、本件各更正処分等と併せて本件各処分という)の各取消し(各更正処分については、本件現物出資が適格現物出資に該当するとの原告の主張に反する部分の取消し)を求めた事案である。
 本事件の争点は、本件各処分の違法性であり、具体的には次の3点である。第一は、本件現物出資が適格現物出資に該当するか否か(本件CILP持分が施行令4条の3第9項に規定する「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否か)である。第二は、本件各処分が信義則に反するか否かである。第三は、国税通則法65条4項の「正当な理由」があるか否かである。なお、本判決では、第一の争点における適格現物出資該当性が認められたため、第二及び第三の争点については判断が行われていない。

3.第一の争点に関する双方の主張

 「国内にある事業所に属する」という文言の重要性は、かねてより法人税法に関して著名な書籍において指摘されていた※4
 この点に関して、原告は、「国内にある事業所に属する資産」の「属する」とは、含み益のある国内資産を外国法人に対する現物出資の方法によって国外へと移転することを通じた不当な課税繰延べや租税回避を防ぐという趣旨に照らすと、我が国が国際的な源泉地管轄に基づく第一次課税権を有することを意味すると主張する※5。そして、資産を経常的に管理している事業所(法人税基本通達1-4-12参照)は、その経常的な管理を通じて、その資産の価値を創造又は増大させていると考えられるから、本事件でも、資産が「属する」事業所は、CILPの事業用財産の経常的な管理を通じて、その資産の価値を創造又は増大させている事業所と解すべきであり、CILPの事業所である米国事業所においてCILPの事業執行が行われ、CILPの事業用財産の経常的な管理が行われていたと解すべきであると主張する。さらに、課税実務上、組合の事業活動が行われている事業所は、他の組合員にとっても、恒久的施設として取り扱われるものとされ(平成26年度税制改正前の所得税基本通達164-7参照)、法人税法上、恒久的施設とは事業所を含む概念であり、組合がある事業所をその事業活動の用に供している場合、その事業所は、当該組合の組合員全員にとっての事業所となる※6と述べ、本件JVの事業活動を行っていた前記米国事業所が、原告の国外にある事業所を構成すると主張する。以上をまとめれば、原告の主張は、本件CILP持分が「にある事業所に資産」に該当するというものである。
 一方、被告は、施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」とは、国内にある事業所において経常的な管理が行われている資産と解するのが相当であるとし、通常、資産は、当該資産を経常的に管理している事業所において帳簿に記帳されていると考えられるから、特にこれと異なる事情がない限り、当該資産が記帳されている事業所と当該資産の属する事業所とは一致すると解されると主張する※7。その上で、本件CILP持分が、国内にある原告の本社経理財務部が管理する有価証券台帳に投資有価証券として記帳されており、かつ、同台帳には原告が各出資を行ったことやCILPに係る費用等の配賦の結果等が適宜記帳されていたことからすれば、本件CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当すると推認されるとし、本件現物出資は原告本社の取締役会で意思決定が行われ、その他の本件CILP持分に係る追加出資の意思決定等が原告本社において継続的に行われていたのであるから、本件CILP持分は、本件現物出資に至るまで、原告本社において経常的に管理されていたと主張する。

4.第一の争点に対する判断

 東京地裁は、「国内にある事業所に属する資産」の判断基準について、以下のように判示した。「…この点の判断基準に関し、法人税基本通達1-4-12は、「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、原則として、当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については、国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。この法人税基本通達が示す判断基準は、まず、その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し、その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし、次いで、その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し、それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は、前記法令の趣旨に鑑みて、合理性を有するものということができ、本件においても、基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。」
 上記のように、東京地裁は法人税基本通達1-4-12の判断基準を理解した上で、「本件CILP持分は、…CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるから、これを経常的な管理の対象として捉える場合においても、これを個々の事業用財産の持分やパートナーシップ契約上の個々の権利等に分解してそれぞれを管理する事業所を個別に検討するのは相当ではなく、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当である」とし、「パートナーがCILPの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ることであり、パートナーとしての契約上の地位は、その運用のための手段と位置付けられるものであるから、CILPのパートナーシップ持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができ、また、CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能である。したがって、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である」と判示した。
 そして、東京地裁は、「本件現物出資の対象財産であった本件CILP持分は、その主たる構成要素であるCILPの事業用財産(の共有持分)のうち主要なものの経常的な管理が国内にある事業所ではない事業所において行われていたということができるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当しないというべきである。したがって、本件現物出資は、適格現物出資に該当するものと認められる」と判示した。

5.本判決の検討

5.1.国際的現物出資の適格現物出資該当性
 本事件は、国際的現物出資のうち、現物出資の対象資産が対外的に移転すること、つまり、Out-boundの取引の局面である※8。一方、現物出資の対象資産が対内的に移転すること、つまり、In-boundの取引の局面もある※9
 適格現物出資の定義規定である法人税法2条12号の14には、上記のOut-boundの取引の局面とIn-boundの取引の局面のそれぞれについて、適格現物出資に該当しない場合が当該条文の括弧書きに記載されている。また、同条の委任を受けた施行令4条の2第9項も併せ読むと、適格現物出資該当性は、原則として現物出資の対象資産が内から内への移転(In-In. 国内資産を現物出資して被現物出資法人である内国法人の株式を取得すること。以下、同じ)か、外から外への移転(Out-Out. 国外資産を現物出資して被現物出資法人である外国法人の株式を取得すること。以下、同じ)のいずれかでなければならない※10。つまり、適格現物出資該当性の税法上の枠組みとして大切な点は、原則としてOut-boundの取引の局面とIn-boundの取引の局面を平仄の合った取扱いとしている、という点である※11
 また、組織再編税制の主たる特徴は、組織再編成に伴って生じる資産の譲渡所得課税の繰延べであるが、この取扱いは組織再編成の前後に実質的な変化がないことに基づいている※12。従って、上記の内から内への移転と、外から外への移転に関していえば、いずれも現物出資の前後に資産の内外判定の結果が同一であることが要請されていると理解できる。
そして、資産の内外判定は、施行令4条の3第9項のとおり、国内資産の場合には「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否か、国外資産の場合には「国外にある事業所に属する資産」に該当するか否かによって決定される。従って、当該判定方法は、まず「事業所」という物的な存在の確認を行い、次に当該「事業所」と現物出資の対象資産との結びつき※13を確認し、最後にその結びつきの有無によって内外判定の決定がなされる※14

5.2.「国内にある事業所に資産」という判断が行われた原因その1
 本コラムの冒頭で述べた通り、本件CILP持分は「国内にある事業所に資産に該当」し、「にある事業所に資産に該当しない」と解釈せざるを得ない。仮に、このような解釈を成立させるためには、「国内にある事業所に属する資産」の「属する」という用語を上記5.1.で述べたものとは異なる、何か特別な意味をもたせて解釈せざるを得ないであろう。
 しかし、東京地裁は「属する」という用語の解釈ではなく、「国内にある事業所に属する資産」の判断基準を示す法人税基本通達1-4-12に基づいて判断を行っている。ただ、その判断には、法人税基本通達1-4-12の理解に誤りが見られる。なぜなら、法人税基本通達1-4-12は、前段部分と後段部分に分かれているからである※15。後段部分の書き出しは、「ただし、国外にある事業所の帳簿に記帳されている資産又は負債であっても…」となっている。逐条解説によれば、国内の事業所で管理されていた資産、負債であったにもかかわらず、現物出資直前にいったん一時的に国外の事業所に移管・記帳する例を挙げて、本ただし書きを解説している※16
 しかし、東京地裁における法人税基本通達1-4-12の理解は、上記4.の通り、後段のただし書き部分を前段部分と並列の関係※17で取り扱っている点で、逐条解説と異なる。この相違によって、東京地裁は、原告がケイマン及び米国に事業所を有していないにもかかわらず、同通達の後段部分を検討した結果、本件CILP持分が「国内にある事業所に資産に該当する」という判断を行ったと考えられる。

5.3.「国内にある事業所に資産」という判断が行われた原因その2
 上記5.2.の他、東京地裁の「事業所」という用語の解釈の問題が挙げられる。具体的には、本件CILP持分の経常的な管理が行われている事業所が国内にある事業所に当たるか否かを検討している次の判決文の箇所に、第二の原因を見出すことができる。
 「CILPの事業用財産の経常的な管理は、CILPの事業活動の一部であり、それを行う事業所がCILPの事業所に当たることは明らかであるから、CILPのパートナーであった原告にとっても、当該事業所はCILPの事業活動を行う原告の事業所であったということができる」。
 上記のとおり、東京地裁は、原告が事務所を有しない国にCILPの事業所があったと述べている。しかし、この点が問題である。なぜなら、施行令4条の3第9項に使用されている文言は「事業所」であって、「恒久的施設」ではないからである。東京地裁の判示をあえて表記するとしたならば、本件CILP持分は「にあるに属する資産に該当する」ことになると思われる。

6. おわりに

 上記考察の結果、「国内にある事業所に属する資産には該当しない」という東京地裁の判示は、法人税基本通達1-4-12の理解の誤りと施行令4条の3第9項における「事業所」という用語の解釈の誤り、という2つの原因に拠るものと考えられる。特に、後者は「事業所」という用語の解釈において、施行令4条の3第9項の文理解釈上、明らかに問題であると考えられる。
 最後に、本事件は控訴されており、控訴審の判断が待たれるところである。

 なお、本コラム校正中に、岡村忠生「塩野義製薬事件判決の分析と意義(東京地判令和2年3月11日裁判所HP)」国際税務40巻6号38頁~49頁(2020)に接した。


(掲載日 2020年7月6日)

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