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文献番号 2022WLJCC009
青山学院大学 教授※2
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士※3
浜辺 陽一郎
1 はじめに~事件の背景と概要
今回取り上げるのは、「H2OとOK、関西スーパー争奪戦」等と注目された決戦の舞台となった株主総会である。(株)関西スーパーマーケット(東証一部上場会社、以下「Y」という)をめぐり、OK(株)(非上場会社、以下「X」という)が株式公開買付(TOB)による買収に挑んだのに対して、Y経営陣は、H2O子会社等との株式交換による経営統合で対抗しようとした。その株式交換を実現するには、株主総会の特別決議による承認が必要で、それが成立すれば、YはH2O子会社の傘下に入るが、一方、一部の議決権行使会社がY経営陣の提案に反対の議決権行使を推奨し、Xへの売却を支持する株主もいて、承認決議が成立するかは微妙な状況だった。
そんな中で、Yの発行済み株式総数3002万3954株のうち、26万2000株を保有し、2021年10月29日開催の臨時株主総会(以下「本件総会」という)の議決権を2620個も有する法人株主の代表取締役(以下「A」という)が、本件総会の場に出向き、投票を求められた際に「白票」を投じたものを賛成票として決議を成立させたことが問題となった。その問題を発見したX(当時Yの議決権割合7.69%の第3位大株主)が、総会決議取消事由があるとして、株式交換差止請求権を被保全権利として、本件各株式交換の仮の差止めを求める仮処分を申し立てた。
神戸地裁は株式交換の差止めを認める仮処分決定(原決定)を下した※4が、大阪高裁は、原決定を取り消した上、仮処分申立てを却下した。それが今回取り上げる決定(本決定)である。その後、最高裁も大阪高裁の判断を支持※5して、Yとイズミヤ及び阪急オアシスとの間で2021年12月1日を効力発生日とする株式交換(本件各株式交換)による統合手続が進められることになった。
2 事案の概要~「Aの投票」をめぐって仮処分申立て
実は、Aは、当該議案について事前に賛成の議決権を行使していた。ところが、本件総会当日に、Aは、受付担当者から、事前の連絡どおり傍聴する意向かを聞かれたのに対して、「傍聴ではなく出席したい」と述べた※6ので、出席株主として株主出席票を受け取り、本件総会の会場(議場)に入場した。
本件総会は午前10時に始まり、質疑応答等が長く続いた結果、午後1時40分頃に、議長は「事前の議決権行使では賛否は決着しておらず、本日出席した株主の投票で賛否が決着する」旨を述べ、出席株主の議決権数を確定させるため、投票手続が終了するまで議場閉鎖を行い、株主の入退場を制限した。議長らは、スクリーンも使用しながら、投票用紙(マークシート)の記入方法として、マークの記入がない投票用紙を提出すると棄権として扱われるとか、投票用紙の不提出は不行使として扱われるとか、棄権は事実上反対と同じ効果を持つから、議決権行使を希望しない場合は棄権ではなく、投票用紙を提出せず不行使とするようお願いする旨等を説明した。Aは議案に賛成するつもりだったが、結局、マーク未記入で提出した(以下「本件投票」という)※7 。
もとより、株式交換の承認決議では、定足数を満たした出席株主の3分の2以上の特別決議が必要とされるところ、Aの白票を賛成として取り扱えば、賛成票の議決権割合が66.68%となり、特別決議の可決要件を満たすが、Aの議決権を「棄権」とすると、賛成は65.71%となり、特別決議は否決となる状況となった。
本件総会には、あらかじめ総会検査役が選任されていたが※8、午後3時45分頃から総会検査役がAの話を聴取したことを踏まえて、議長は、Aの議決権行使を賛成として取り扱い、午後4時10分頃、本件総会を再開し、全ての議案が可決されたと報告し、かろうじて当該議案にかかる決議が成立した(これを「本件決議」という)。
ただ、総会検査役の報告書が総会後1週間という異例の早さで提出されたことを受けて、Xは、Aの投票を賛成票と扱った点に疑義があるとして、本件決議には「決議の方法の法令違反」や「著しい不公正」という決議の取消事由(会社法831条1項1号)があり、これによりYの株主が不利益を受けるおそれ(同法796条の2柱書本文)があると主張して、Yに対する同条第1号に基づく株式交換差止請求権を被保全権利として本件各株式交換の仮の差止めを求める仮処分を申し立てた。
3 白票の取扱いに関する原決定の論理
神戸地裁の原決定は、Xの主張を認めて差止めを命じた。
白票の取扱いについては、別件のアドバネクス事件でも争われていた。その地裁判決では、「書面による議決権行使の制度は、株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるための便宜を会社が図る制度」であることを理由として、総会に出席した以上は、事前の書面による議決権行使は撤回されたものと解され、会社提案及び修正動議に対する投票に際し、白紙の投票用紙を交付した議決権については、棄権として扱うのが相当であって、会社提案に賛成したものとはいえないと判断していた※9。
これと同様に考えれば、今回の事件でも、原決定が「Aがマークを記入しないまま本件投票用紙を回収箱に入れた行為は、本件株主が、本件議案を含む全議案について「棄権」、すなわち議決権は行使するが賛成ではない、という意を伝えるものであったとしか解することができない」と判断したことも首肯できる。
原決定は、本件総会でも、議長が投票の正確性を期するためにマークシート方式の投票用紙※10による投票を行う旨を告げていることを踏まえて、「議長は、その採用した議決方法の趣旨に沿って各株主の投票内容を判定する責務があるから、各株主の投票内容については、投票用紙の記載・不記載や提出・不提出により客観的に判定することが第一義的に求められる」として、Aが議場で行う議決権の行使だけで議案について賛否の意思を表示する権利を有する以上、事前の意思表示が復活することはなく、本件投票用紙による表示行為の解釈に当たっても斟酌してはならないと指摘して、Aがマーク未記入で投票用紙を提出することによって「棄権」していたのに、Yが、議場閉鎖の解除後に本来考慮してはいけない投票用紙外の事情を考慮に入れて「賛成」の議決権行使として取り扱った結果、本件議案が可決された点に、「決議の方法に法令に違反し、又は著しく不公正なときという瑕疵がある」と判断して、決議取消事由があることを認めた。
4 本件の特殊事情か?
しかし、大阪高裁は、Aの事前の議決権行使が撤回されていないとAが誤認したことはやむを得ず、投票用紙以外の事情をも考慮することにより、誤認のために投票に込められた投票時のAの意思(賛成)が投票用紙(棄権)と異なっていたことが明確に認められるから、議長がAの投票を賛成票として取り扱ったことは、なお許容されるとして、原決定と異なる結論を出した。
大阪高裁は、「株主において、投票のあるルールについての認識が不足し、又は誤解しているために、自らの意思を表明するに当たりいかなる投票行動をとるべきか的確に判断できない状況が生じた場合には、その意思が正確に投票用紙に反映されない事態が生じる(中略)投票用紙のみによって株主の投票内容を判定することは、かえって株主の意思を議決に正確に反映させるという投票制度を採用した趣旨に悖る」とした上で、「議決権が個々の株主に認められた株主全体の意思決定に関わる最も基本的な権利で、株主による議決権の行使が株主総会に上程された議案に対する株主全体の意思決定に関わる株主の意見表明であることに照らすと(中略)恣意的な取扱いとなるおそれがない場合には、株主総会の審議を適法かつ公正に行う職責を有するといえる議長において、これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより株主の投票内容を把握することも許容されると解するのが相当であり、議決権行使によって表明される株主の賛否の意思を適切かつ正確に把握してこれを株主総会の議決に反映させるためには、むしろそうすることが求められている」と述べ、議長がAの投票を賛成と扱ったのは正当で、これを前提とした本件総会の決議は有効であり、決議取消事由の疎明があるとはいえず、保全の必要性を判断するまでもないとして、仮処分申立てを却下した。
5 若干のコメント
(1)総会決議が覆されるリスク
僅差で競っている場合に、全体から見れば少数の投票の取扱いが、結果を左右することは意外とあるのかもしれない。米国大統領選挙をめぐるトラブルなど、投票や議決権をめぐる事件は、決して奇異で、珍しい他人事として片付けるべきではなく、この機会にしっかりと見ておく必要があるだろう。
もっとも、現実には、ほとんどの上場会社の株主総会では、事前の投票結果によって議案の成否がわかっており、当日の議決権行使で結果が左右されることはない。そのため、採決は拍手等の簡易な方法で行われ、投票用紙による投票を行うことはまれだ。したがって、ほとんどの会社における無風の総会では、あまり心配する必要はない。ただ、賛否が拮抗しそうな局面に遭遇した場合には、きちんと投票してもらい、厳正に賛否を数える必要がある。これを正しく取り扱わないと、決議取消事由があるとして、総会決議が覆されてしまう恐れがある(会社法831条1項1号)。
(2)出席したら事前の議決権行使は撤回扱い
周知のとおり、議決権行使の方法には、本人出席と代理人出席という現実の総会の場で投票するものと、書面投票や電子投票で事前行使するものがある※11。このうち、白紙投票をどう扱うかとか、いずれか複数を行使した場合、どれが優先されるか等の点については、会社が定めることができ(会社法施行規則66条1項2号、3号)、Yも一応のルールを定めていた※12。
一般に、事前に書面で議決権を行使しても、当日の総会に出席することもでき、その場合は事前の行使は撤回したものと扱われ、あらためて議場で議決権を行使することになる。ただ、当日その場に行っても、出席するのではなく、ただ傍聴するだけにすることもでき、最近ではオンラインで視聴できることもある。その場合は事前の議決権行使だけが有効で、傍聴するだけの者が議決権をあらためて行使する必要はない。
そういうルールがあるから、本件総会の当日、Aが総会の受付で、受付担当者から、どちらにするか問われたのに対して、Aが「出席する」と明確に言ってしまった以上、議決権行使書による事前の議決権行使や委任状による代理権授与が無効ないし撤回されたものとして取り扱われるのは、当たり前のことのようにも思えるが、そういうことは必ずしも一般的に広く理解されてはいないと本決定は認定したようだ※13。
(3)議決権行使は意思表示?
原決定も、出発点としては、「議決権の行使は、議案に対する株主の意見の表明であるから、厳密な意味で意思表示に当たるかどうかはともかくとして、意思表示に準じて考えるべきであって、議決権行使の有効性の判断について意思表示や代理等の民法の原則の適用を一般的に排除する理由はない」※14としており、この考え方からすると、株主の議決権行使についても、株主の意思をできるだけ尊重すべきだということになる。ただ、原決定は、投票における意思の表明は、客観的に投票用紙だけで判断すべきだとする会議での投票ルールを重視して判断をした。
これに対して、本決定は、株主の意思尊重の原則に立ち戻り、その原則に依拠して対応した議長の対応を許容し、最高裁もこれを是認したものと見ることができよう。本決定では、たとえAが意思表示の方法を誤っても、Aが後から申し出た話を聞いた上での賛成の意思を認め、投票用紙よりもAの実質的な意思を尊重することを優先させて、今回の結論を導いた。
(4)微妙な判断
ただ、投票の締切後に、議決権行使の変更訂正は認められない。本決定も、投票用紙の事後的な訂正を認めたものとは解されないと、指摘や説明がされているとおりである ※15。そして、本来は、投票用紙だけで株主の投票内容を判定するのが基本であるはずである。原決定はその基本どおり、投票用紙外の事情を考慮に入れることを否定した。
それに対して、本決定は、採決の際に、「事前に議決権行使書又はインターネット等による議決権行使をしていた株主や委任状を提出した株主であっても、本件総会に出席した場合は、議決権行使書による事前の議決権行使や委任状による代理権授与が無効ないし撤回されたものとして取り扱われ、改めて投票用紙に記入して議決権行使を行わなければならない旨の案内」とか、「株主から投票用紙外の意思表明があった場合や、投票した株主から投票終了後に意思表明がされた場合などの取扱いについても特に説明をしなかった」という点に光を当てて、原決定とは逆の結論を導いた。
この事件では、たまたまAの意思を尊重することがYにとって有利になる状況だったからそうなったが、もしも白票をそのまま棄権と扱うことが会社に有利な状況だったら、議長はこれを「棄権」と扱っていたかもしれない。本決定は、恣意的な取扱いとなるおそれが見受けられない旨を縷々述べる※16が、本当にそう言えるのだろうか。
投票用紙には、「賛成・反対・棄権のいずれにもご記入のない場合は、棄権として集計いたします」と印字されていた※17上に、Aは投票用紙を提出する前に、「何も記入せずに提出すると棄権扱いになる」とのアナウンスを聞いていたが、それは自分には適用されないと思っていたというのも、妙な話である。議長が事前の議決権行使では賛否が決着していないと述べた午後1時40分頃から、総会検査役がAの話を聴取し始める午後3時45分頃の間に、何があったかを証拠ですべて裏付けることは事実上無理であろう。
本決定は、それまでのAの経験では、事前の議決権行使でほとんど賛否がある程度決まっており、議場で議決権を行使する経験はなく、マークシート方式による投票も初めてだったこと等から、「出席株主の議場での議決権行使の意味を十分認識しておらず、(中略)事前の議決権行使が生きていて、さらに議場において自ら賛成の意思を示す投票をする必要はないと思い込んでいた」と認定するが、それを救ってやるために、投票用紙の記載や会場でアナウンスしていたことと異なる取扱いで処理することを許容してよいのだろうか。
(5)どこまで説明をするのか?
本決定は、議長が、「事前に委任状を提出した株主が総会に出席した場合」にも、「委任状による事前の議決権行使が撤回され」ることになるので、「改めて議場において投票用紙に記載して投票する必要がある」ことを明確に株主に周知していなかったから、株主が誤解したのだという。そうであれば、会社側の説明不十分ではないかと思うが、その説明不十分は不問として、逆に、その結果として生じた「白票」を、会社に有利な取扱いとなる賛成票と扱うことを是認した。つまり、Aの誤認が「やむを得ない」から、投票用紙以外の事情をも考慮して、投票時のAの意思(賛成)が投票用紙(棄権)と異なっていたことが明確に認められるから、なお許容されるということで、「怪我の功名」のような形になった。
「やむを得ない」わけだから、誤認したAには落ち度がなく、Aは何ら悪くないが、議長の説明義務違反というわけでもなく、それも別に悪いというわけではなく、誰も悪くはないというのが今回の裁判所の判定である。
ただ、今回のようなトラブルを回避するため、今後は株主総会における説明をしっかりと行う必要があると指摘され※18、本件の代理人らも、そうした趣旨のコメントをしている※19。しかし、株主総会における議決権行使についてのルールや解釈はとても多いので、それらを全部、総会の場で詳しく説明することはできない。ある程度、重要な点に絞って説明するしかないだろう。また、本件では、議長が多くの説明をしすぎたために、かえってAがそれを理解しきれず、誤解につながったようにも見えるから、沢山説明するのがわかりやすいわけでもない。結局、十分に説明すべきだといっても、どの程度まで、どうやるべきかはケースバイケースで、説明を念入りにすべき場面に遭遇したら、相当に注意しなければならない。想定外の動きをする株主が、いつまた現れるかわからない。
(6)結語
確かに、決議取消事由は、取消しを求める当事者が主張・立証(本件では仮処分なので疎明ではあるが)の責任を負い、差止めは強い効果をもたらすから、そのハードルは元々高い。そのため、総会決議取消しはなるべく避けたいという力が働きやすい。だからといって、こうした結論となるかどうかは、その時の風向きにもよる。本決定は、投票用紙以外の事情を考慮して株主の投票内容を把握する議長の裁量権が、たまたま広く許容された例外的な事例にすぎないと見た方が無難なのではなかろうか。
(掲載日 2022年3月28日)