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判例コラム

 

第270号 プラットフォーマーの責任追及をめぐる諸問題 

~海外の販売業者から購入した物品で発生した火災事故の責任をめぐって(東京地裁令和4年4月15日判決)※1

文献番号 2022WLJCC022
青山学院大学 教授※2
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士※3
浜辺 陽一郎

1 はじめに
 今回取り上げるのは、著名なプラットフォーマーに挑んだ消費者訴訟の東京地裁判決(以下「本判決」という。)である。被告Yは、電子商取引事業等を目的とする有名な「合同会社」であり、「Amazon.co.jp」と表記されるウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)上で展開される電子商取引サイトを運営し、自ら本件ウェブサイトへの出品も行っていた。
 近時、大きな利益を上げるプラットフォーマーが登場し、その規制のあり方が世界的にも議論されている。日本でも、経済産業省が「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(最新版は令和4年4月版)をとりまとめたばかりだ※4
 加えて、本件は、販売者が外国系の企業であったという点に特徴があり、いつのまにか消費者が国際的な取引をしていることも日常茶飯事であるが、それがトラブルになった事件の一例でもある。

2 事案の概要と、その請求原因
 本件ウェブサイトで取引するには、会員登録をする必要がある。この会員登録をすると、登録者とYないし関連会社との間で、本件ウェブサイトに係る利用規約(以下「本件利用規約」という。)が適用される。原告Xは、この会員登録をして本件ウェブサイトを利用していた(以下、XY間に適用される本件利用規約その他の契約関係を、「本件利用契約」という。)が、Xは、本件ウェブサイトで充電式モバイルバッテリー(以下「本件バッテリー」という。)を購入した。ところが、本件バッテリーが発火して、Xは大きな損害を被った。
 本件ウェブサイト内の本件バッテリーの販売用ページには、販売者ないし出品者が「AUKEY JAPAN(メーカー直営店)」(以下「オーキージャパン」という。)と表記されていた。そこで、Xは、弁護士を通じて、オーキージャパンとの連絡を試みる等して、最終的に、令和元年10月、いずれも中華人民共和国の法人である傲基科技股份有限公司(以下「オーキー」という。)及び傲基国際有限公司(以下、オーキーと併せて「オーキーら」という。)との間で、本件バッテリーについての損害賠償請求につき、和解に係る合意(以下「本件和解」という。)を成立させ、和解金の支払を条件に本件バッテリーの販売者であるオーキーの免責を認め、同和解金を受領した。このほか、Xは、自ら契約していた損害保険会社から、火災に伴う保険金も受領していた。
 その後、Xは、Yに対して、30万円及びこれに対する令和2年11月7日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求めて提訴した。この訴訟におけるYに対する請求原因は、次の3つであった。
 第一次的に、本件利用契約に基づく信義則上の義務として、消費者が安心、安全に取引できる欠陥のないシステムを構築、提供する義務を負うとして、「出店・出品審査義務違反」や「保険・補償制度構築義務違反」を主張し、焼損した家財道具の価額等の積極損害である合計1001万5527円から、受領した火災保険金及び本件和解に基づく見舞金を控除した損害額の一部として、債務不履行に基づく損害賠償を請求し、
 第二次的に、不法行為に基づき、精神的苦痛等に関する慰謝料の支払を請求し、
 第三次的に、Yが商法14条又は会社法9条の類推適用により本件バッテリーの販売者と連帯して債務不履行責任を負うとして、同責任に基づく損害賠償を求めた。

3 裁判所はXの請求を棄却
 本判決は、第一次的請求に関して、「Xが指摘するリチウムイオンバッテリーに関する認証等の制度は、いずれも、平成28年の本件売買契約当時、同バッテリーを搭載する製品の製造・販売を行う業者について取得が法律上義務付けられていたものではない」から、その制度の存在をもって、「当時、Yにリチウムイオンバッテリー搭載製品の出品につきXが主張するような審査義務があったと認めることはできない」と判断した。また、「Xが主張する出店・出品審査義務の具体的内容が必ずしも明らかではなく、Yがそのような審査を可能な限り講ずることが望ましいという指摘を超えるものとは認め難いこと、本件バッテリーについては、結局、Xは、出品者であるオーキーとの間で本件和解を成立させることができていること」等を指摘して、Xの主張を退けた。
 第二次的請求関係に関しては、Xが出品者への連絡用フォームを利用してオーキーらと連絡を取り、本件和解を成立させていたことを指摘し、「特商法表示に関する義務違反があると認めることはできない」し、「オーキージャパン等の対応の遅れがあったとして、その責任をYに負わせるべき根拠は認め難い」等として、これも否定した。
 第三次的請求関係については、Xが、本件売買契約の時点で、本件バッテリーの販売者をYと誤認していたことを認めるに足りる証拠がなく、かえって、本件火災後の事情からすれば、Xは上記販売者がオーキーであることを当初から認識していたことがうかがえるとして、この請求も退けた。

4 若干の検討
(1)日本の消費者は日本の法令で保護されるが・・・

 今回の事件では、Xが購入した本件バッテリーの販売者は中国法人であった。本判決文を読むだけでは、オーキーらとオーキージャパン等の法律関係は必ずしも明確ではないが、Xは、中国の会社から本件バッテリーを買っていた。
 もっとも、日本の法適用通則法11条によれば、消費者契約は成立、効力及び方式について、消費者の常居所地法の特定の強行規定を適用する旨の主張をすることができる。外国企業は、消費者を保護するための日本の絶対的な強行法規の適用を免れることもできない※5
 また、消費者から事業者に対する消費者契約に関する訴えは、訴えの提起時又は消費者契約締結時における消費者の住所が日本にある場合には日本の裁判所に訴えを提起できる(民事訴訟法3条の4第1項)※6
 これらの法律のおかげで、日本の消費者は、日本の法令で保護され、日本で救済を求めることができそうだが、実際に、外国企業を相手にするのは、かなり面倒な作業である。
 本件では、本件ウェブサイト内の本件バッテリーの販売用ページに、販売者ないし出品者がオーキージャパンと表記されていたことを手がかりとして、火災事故後に、Xは、本件訴訟の訴訟代理人弁護士らとは異なる弁護士を通じて連絡を試みた。オーキージャパンは、最終的な責任を負う主体ではなかったようだが、Xは、何とかオーキーらとの間で、火災事故の損害賠償に関する和解にこぎつけ、約184万円を受領した。Xは、別途、火災に伴う保険金も受領していたので、今回の訴訟では、それらでカバーされない部分の一部をさらに追及しようとするものであった。
(2)電子商取引及び情報財取引等に関する準則
 Xとすれば、本件バッテリーの販売者から購入したというよりも、本件ウェブサイトで購入したという実感が強かったのだろう。Xは、本件ウェブサイトの運営者に対しても、何らかの責任が追及できると考えて本件提訴に至った。
 「場」の提供者・運営者の呼び方は様々で、近時は「プラットフォーマー」等とも呼ばれるが、前述の経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」には、「店舗との取引で損害を受けたインターネットショッピングモール(以下「モール」という。)の利用者に対してモール運営者が責任を負う場合があるか」との論点が検討されている※7
 その準則では、「場」の提供者にすぎないモール運営者は、個別の店舗との取引によって生じた損害について、原則として責任を負わないとの結論が示されている。例外的な場合として、「①店舗による営業をモール運営者自身による営業とモール利用者が誤って判断するのもやむを得ない外観が存在し(外観の存在)、②その外観が存在することについてモール運営者に責任があり(帰責事由)、③モール利用者が重大な過失無しに営業主を誤って判断して取引をした(相手方の善意無重過失)場合には、商法第14条又は会社法第9条(中略)の類推適用によりモール運営者が責任を負う場合もあり得る」とし、その他にも、「モール運営者に不法行為責任等を認め得る特段の事情がある場合等には、モール運営者が責任を負う場合があり得る」としている※8。本件訴訟では、商法14条又は会社法9条の類推適用の可否が第三次的請求関係で問題とされていた論点なので、これを次に少し検討してみたい。
(3)「外観の存在」と「誤認」
 Xは、「Yが、販売元に代行して代金の回収を行い、Yが購入者に対して領収書を発行し、商品が発送される際の包装にはYの商号が印字され、本件ウェブサイトにおいて商品を購入した場合、Yが販売元か否かにかかわらず、Yにより注文番号が付与され、Yから注文者に確認メールが送られる」といった「外観の存在」を裏付ける事情を指摘し、本件ウェブサイトには、その誤認を防止する表示がないことを理由に、Xの誤認に重過失はなく、誤認についてXに軽過失がないことはYの責任を認めるための要件ではないと主張した。本件和解については、本件火災後の調査後に判明したもので、本件売買契約時点で売主がオーキーであると認識していたわけではないと主張していた。
 しかし、裁判所は、「Xが、本件売買契約の時点で、本件バッテリーの販売者をYと誤認していたことを認めるに足りる証拠がない」と判断して、「誤認」自体を否定した。Xの誤認といった主観的な事実は、Xの供述証拠だけでは不十分であり、その状況を総合的に判断する必要があるからだ。
 一般に、「誤認」があったか否かと、誤認が「重大な過失」によるか否かは別の問題だが、注意深ければ誤認しにくい反面、過失が大きいほど誤認しやすいから、両者の事実認定、評価は密接に絡んでいる。
 本件ウェブサイトの運営者が、「場」の単なる提供者にすぎないか、それとも販売者のように見えるかは、人によっても異なるだろう。確かに、プラットフォーマーで世界的に超有名となった会社は、「場」の提供者として名を馳せたのであって、自ら商品を仕入れて販売する量販店等とは異なるようなイメージが強いようにも思われる。
 しかし、時にプライベートブランドを扱ったり、運営者自らも、その「場」への出品も行っていたりした場合、運営者と販売者の区別はつきにくくなる。Yが、自ら本件ウェブサイトへの出品も行っていた点は、もう少し厳しく咎めるような判断の余地があったのではなかろうか。とはいえ、世界的に事業展開をしている超有名な企業であったからこそ、原則的な形態は、あくまでも「場の提供者」であって、運営者が出品者・販売者であることは例外的であると広く認識されていたかもしれない。そうだとすれば、本件バッテリーは、運営者が仕入れて出品したようなものではなく、この取引についていえば、運営者を販売者との「誤認」はないはずだというのが、裁判所の認定の背景にあったのではないかと思われる。
(4)本件和解の影響
 本判決は、Xの誤認を退ける前置きとして、「債務不履行責任を第一次的に負うべきオーキーとの間で本件和解を成立させ、和解金の支払を条件にオーキーの免責を認め、同和解金を受領済みであるXにおいて、Yに上記債務不履行責任を追及することができるかという問題はおくとしても」と触れているが、この論点については何も判断していない。
 理論的には、Yとオーキーらの関係は、連帯債務か、不真正連帯債務なのかという問題があり、仮に連帯債務の定めが適用される※9と、改正前民法には免除の絶対効の定めがあった(本件は改正前民法が適用される事例である)が、不真正連帯債務だと解すると、YがXに賠償金を支払った場合、Yがオーキーらに求償する余地があろう。それに対して、改正債権法では免除の相対効が認められる※10ところ、YがⅩに賠償金を支払うと、民法442条により、Yは債務不履行責任を第一次的に負うべきオーキーらに対して求償できるのが原則となるだろう。ところが、民法443条1項、2項等により連帯債務者間には通知義務等があるかもしれず、オーキーらがYにその通知をしたか、どういう免責であったか等が、Yとオーキーらとの間で問題となってしまうことがあり得る。この関係では、Yとオーキーらとの間の契約内容で何らかの手が打たれているか否かにもよる。加えて、本件では、オーキーらが中国の会社であるため、連帯債務ないし不真正連帯債務を規律する準拠法が何法であるかという点も争われるかもしれない。
 もっとも、そんなことはXにとっては関知しないことだろうが、Xがオーキーらから十分な賠償金を求めない本件和解によって一部を免責した※11後に、YがXに賠償金を支払うことになってしまったら、上記のようなややこしい問題が生じる可能性がある。そのような迂遠な処理が必要となる形はあまり好ましくはなく、Ⅹがオーキーらとだけ先に本件和解を成立させて、それからYに請求するというのは、法律的に成立するから「問題なし」ということになるのかは、事件解決の方法として疑問が残るところだが、YのXに対する賠償金支払義務が否定されているので、本件とは関係のない空想上の話である。
(5)事故に備えた保険・補償制度は?
 本判決は、Yが、本件ウェブサイトにおいて出品者から購入した商品に不具合や損傷があった場合や、当該商品が出品者の説明と著しく異なるものであった場合に、購入者に代金の全部又は一部を返金する「マーケットプレイス保証制度」を既に導入していた点を踏まえて、保険・補償制度構築義務の履行を怠っているものではないと判断した。
 仮にプラットフォーマーが、個別の商品の保証ないし、Xが主張するような保険・補償制度を設けるとすれば、そのコストをどうするかが問題となろう。すべての消費者が、そこまでの保証ないし保険にかかるコストを負担したいと思うかどうかはわからない。とすれば、場合によっては、そうした保証・保険付きか、そうでないかを選択できるようにするといった「場」の設計もあり得るかもしれない。
 とはいえ、本件利用規約は定型約款なので、2020年4月以降であれば定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項以外は、合意したものとみなされよう※12
 いずれにせよ、消費者を保護する立法は、まだまだ発展途上であり、現段階では、消費者としても十分に注意して取引をすることが必要で、特に海外から物を買う場合のリスクについては、それなりに覚悟するほかない状況が当分は続きそうである。


(掲載日 2022年8月8日)

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