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判例コラム

 

第271号 再保険取引と外国子会社合算税制 

~東京地裁令和4年1月20日判決※1

文献番号 2022WLJCC023
関西大学会計専門職大学院 教授
中村 繁隆

1. はじめに
 本事件は、租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下、措置法という)68条の90第1項に定める、いわゆる外国子会社合算税制(以下、CFC税制と表記する場合もある)の適用の可否が争点となった事案である。本事件は、ある資料において「キャプティブへのCFC税制適用事案」の1つとして紹介されている事件である※2。キャプティブ(captive)とは、一般的に自社及び自社グループのリスクを専門的に引き受けるための保険子会社をいう※3
 本コラムは、外国子会社配当益金不算入制度(法人税法23条の2)が平成21年度税制改正によって導入されたことから、外国子会社合算税制を日本の課税ベース浸食への対抗措置として捉える考え方が有力となったとする見解※4を参考にして、本事件で示された東京地裁の判断に対し、若干の考察を試みるものである。

2. 事案の概要
 連結納税の承認を受けた内国法人である原告は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度(以下、本件連結事業年度という)及び課税事業年度の法人税及び地方法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁から、英領バミューダ諸島(以下、バミューダという)において設立された原告の子会社であるa社※5が非関連者であるメキシコの保険会社c社との間で締結した再保険契約(以下、本件再保険契約という)に係る収入保険料が、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの。以下、措置法施行令という)39条の117第8項5号括弧書き(以下、本件括弧書きという)にいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当せず、外国子会社合算税制の適用除外要件のうち、いわゆる非関連者基準を満たさない※6などとして、平成30年6月27日付けで法人税及び地方法人税に係る各更正処分並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ本件法人税当初賦課決定処分、本件地方法人税当初賦課決定処分という)を受けた。なお、処分行政庁は、令和2年7月31日付けで法人税額及び地方法人税額を増額する旨の各再更正処分(以下、それぞれ本件法人税再更正処分、本件地方法人税再更正処分という)並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分を行っている。
 本事件は、原告が、本件法人税再更正処分及び本件地方法人税再更正処分のうち原告主張額を超える部分並びに本件法人税当初賦課決定処分及び本件地方法人税当初賦課決定処分のうち原告主張額を超える部分の取消しを求める事案である。
 本事件の争点は、本件再保険契約に係る収入保険料が、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当するか否かである。なお、本件再保険契約は、c社が原告の関連者であるメキシコ法人b社※7との間で締結した保険契約(以下、本件元受保険契約という)において引き受けた全保険リスクの70%をa社に対して再保険に付し、a社が同リスクを引き受けることを内容とする契約である。また、b社とc社との間で、本件元受保険契約に付随する両当事者の義務等を定める役務提供契約も締結されている。

3. 双方の主張
 まず、争点である本件括弧書きにいう「保険の目的」の解釈について。原告は、本件括弧書きが定められた平成7年度税制改正当時の商法(以下、旧商法という場合には、この当時の商法をいう)における「保険ノ目的」の解釈を参照※8し、本件括弧書きにおける「保険の目的」とは「保険事故発生の客体」を意味するものである旨、主張する。一方、被告は、「旧商法における「保険ノ目的」は、保険法における「保険の目的物」と同義であり、・・・それにもかかわらず、本件括弧書きの「保険の目的」が「保険の目的物」と同義であると解することは困難である」と反論しつつ、「保険の目的」とは、経済需要を生じさせる保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいうものと解するのが相当であると主張する。
 次に、本件元受保険契約における「保険の目的」について。原告は、本件各顧客の生命又は身体を保険の目的とする保険である旨、主張する。その根拠として、本件元受保険契約における保険事故が本件各顧客の死亡等※9であり、本件クレジット債権が弁済不能になったこと又はそのおそれがあることなど、本件クレジット債権に着目した事由が保険事故とされていないことなどを挙げる。一方、被告は、b社が有する本件クレジット債権を保険の目的とする保険である旨、主張する。被告は原告の主張に対し、保険の目的は個別の保険契約の契約条項等の内容に応じて把握すべきものであり、保険契約の条項の一部にのみ着目するのは適切でない、などとして反論している。

4. 東京地裁の判断
 東京地裁は、まず本件括弧書きにいう「保険の目的」の解釈に関して以下のとおり判示した。「本件括弧書きが規定された趣旨に照らせば、本件括弧書きは、関連者取引に再保険取引の形で非関連者を介在させることにより非関連者基準が充足されることを制限するため、特定外国子会社等が、形式的には非関連者から再保険に係る保険料を収受している場合であっても、元受保険契約により保障や填補を得ようとする対象が関連者について生じる経済的不利益である場合には、当該再保険契約は、実質的には関連者の保険危険を負担するものにほかならないとして、これを非関連者に係る収入保険料には含めずに非関連者基準の判定を行うこととしたものと解される。そうすると、本件括弧書きにいう「保険の目的」とは、保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいうものと解するのが相当である」。
 次に、本件元受保険契約における「保険の目的」に関し、東京地裁は「本件括弧書きにいう「保険の目的」は、保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいい、保険契約における保険事故や免責事由の定めのみではなく、個々の保険契約の内容や取引の実態等を踏まえて実質的に判断するのが相当であるから、以下、これに従って本件元受保険契約における「保険の目的」について検討する」として、本件クレジット契約と本件元受保険契約との関係及び同契約の内容等を順次確認した後、「本件元受保険契約は、関連者であるb社が有する本件クレジット債権を保険の目的とする保険であって、本件再保険契約に係る収入保険料は「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しない」と判示し、原告の請求を棄却した。

    5. 検討
  1.  5.1.キャプティブ保険子会社に対する税制改正の沿革
  2.     5.2.で検討を行う前に、キャプティブ保険子会社に対する税制改正の沿革を整理する。
     まず、平成29年度税制改正では、非関連者基準の判定における第三者介在取引に関する見直しが行われた(租税特別措置法施行令39条の14の3第29項)。当該改正前のCFC税制の下でも、非関連者を介在させることについて「相当の理由」がなければ関連者間取引とみなすという規定(当該改正前の租税特別措置法施行令39条の17第11項)が存在し、一見、非関連者介在取引に対する規制として十分であるかのように思われるが、キャプティブの再保険契約の場合、わが国の保険業法上、免許を有しない会社との保険契約が禁止されているために(保険業法2条1項及び3条1項)、国内の保険会社を介在させて再保険契約を締結することについて「相当の理由」が認められることとなり、規制の対象外となっていた※10
     次に、平成31年度税制改正では、事実上のキャッシュボックスの範囲の改正が行われた(租税特別措置法66条の6第2項2号ハ)。これについては、「日本企業の海外のキャプティブ保険子会社を事実上のキャッシュボックスとして合算課税の適用対象にすることを意図した規定であると思われます※11」との意見がある。
     本事件は、これらの税制改正前の事件であるが、上記の沿革のとおり、キャプティブ保険子会社に対する税務当局の目は厳しくなっている※12。ただ、キャプティブ保険子会社に対するこれらの税制改正においては、1つの課税上の前提があると思われる※13。それは、元受保険契約が日本国内で締結される一方、再保険契約は日本の保険会社と海外のキャプティブ保険子会社との間で締結される、という点である※14

  1.  5.2.本事件は日本の課税ベースを不当に浸食したのか
  2.     本事件は、そもそも日本の所得が海外に流出しているのかという根本的な疑問が残る※15、と指摘されている。なぜなら、日本の保険業法の免許制の下で日本国内にキャプティブ保険子会社を設立することが実務上極めて困難だからである※16。そして、「日本国内にキャプティブ子会社を作ることが事実上できないとすると、バミューダのキャプティブ子会社の所得が「日本の課税対象」であったとは考えにくく、日本の所得が海外に流出している状況にない中でCFC税制を適用して課税するのは、CFC税制の趣旨にも反するのではないか」との専門家の意見が紹介されている※17
  3.     上記の意見に1点補足するならば、本件元受保険契約がb社とc社との間(メキシコ内)、本件再保険契約がa社とc社との間(バミューダとメキシコ間)となっており、本事件では、上記5.1.で述べた課税上の前提が成立していない点が指摘できるのではなかろうか。
  4.     以上をまとめると、上記の専門家の意見及び補足した内容は、冒頭に紹介した見解に相応すると考えられる。そして、その見解を参考にすれば、外国子会社合算税制の適用を認めた東京地裁の判断過程において、本事件が日本の課税ベースをどのように不当に浸食したのかについて、最初に述べておく必要があったのではなかろうか。ちなみに、東京地裁はまず、措置法68条の90第1項(外国子会社合算税制の基本規定)と第3項(適用除外要件)について、デンソー事件最高裁判決※18を引用した後、本事件の争点である非関連者基準へと論理展開していくが、冒頭に紹介した見解については、全く触れていない。

6. おわりに
 本コラムでは、再保険契約に対する外国子会社合算税制の適用問題について、同税制を日本の課税ベース浸食への対抗措置として捉える考え方が有力となったとする見解を参考に、若干の検討を行った。その検討結果から明らかになったことは、本件再保険契約に係る収入保険料が本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当するか否かという以前に、本件元受保険契約及び本件再保険契約等に基づく一連の取引が日本の課税ベースをどのように不当に浸食したのかについて、東京地裁の判断過程で明示されていない点に根本的な疑問がある、ということである。
 最後に、本事件は控訴されている※19。控訴審の判断が待たれるところである。

(掲載日 2022年8月29日)

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