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今週の判例コラム

 

第317号 同性パートナーに関する犯罪被害者遺族給付金不支給裁定の
取消請求を認めた最高裁判決  

~最高裁第三小法廷令和6年3月26日判決※1

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文献番号 2024WLJCC011
大阪経済大学 教授
小林 直三

1.はじめに
 本稿で取り上げる判決は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下、犯給法)5条1項1号に犯罪被害者と同性の者も含まれ得ることを示した最高裁判決である。
 犯給法は、犯罪行為によって死亡、重傷病又は障害を負った本人又は遺族に一時金を支給するものであるが、犯罪行為によって死亡した場合の一時金(以下、遺族給付金)の支給対象は「犯罪行為により死亡した者の第一順位遺族」(同法4条1号)とし、その「遺族」とは、犯罪被害者の死亡時点での(1)「犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)」(同法5条1項1号)、(2)「犯罪被害者の収入によつて生計を維持していた犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹」(同項2号)、(3)それらに該当しない「犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹」(同項3号)としており、また、支給を受けるべき順位は(1)、(2)、(3)の順としている(同条3項)。
 本件事案は、犯罪行為により死亡した犯罪被害者と同性の上告人が、当該犯罪被害者と交際し、同居していたこと等から、同法5条1項1号括弧書の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当するとして遺族給付金の支給の裁定を申請したところ、不支給の裁定を受けたため、その取消しを求めたものである。
 原審である名古屋高裁判決※2は、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」は婚姻届ができる関係を前提としたものであるとして、そうではない上告人の請求を棄却した。そのため、上告人が上告したものである。
 近時、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity:性的指向と性自認)に関する司法判断は、大きな変化の潮流がみられる。本判決も、そうした大きな流れに位置づけ得るものであり、それを紹介し検討することには重要な意味があると考えられる。

    2.判例要旨
  1.  ①多数意見
     まず、「犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、同制度を充実させることが犯罪被害者等基本法による基本的施策の一つとされていること等にも照らせば、犯給法5条1項1号の解釈に当たっては、同制度の上記目的を十分に踏まえる必要があるものというべきである」としたうえで、「犯給法5条1項は・・・・・・遺族給付金の支給を受けることができる遺族として、犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられる者を掲げたものと解される」とし、「同項1号が、括弧書きにおいて、『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』を掲げているのも、婚姻の届出をしていないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、犯罪被害者との関係や共同生活の実態等に鑑み、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからであると解される」とした。そして、「そうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない」とした。
     したがって、「犯罪被害者と同性の者であることのみをもって『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当しないものとすることは、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的を踏まえて遺族給付金の支給を受けることができる遺族を規定した犯給法5条1項1号括弧書きの趣旨に照らして相当でないというべきであ」るとし、さらに、「上記の者に犯罪被害者と同性の者が該当し得ると解したとしても、その文理に反するものとはいえない」ことから、「犯罪被害者と同性の者は、犯給法5条1項1号括弧書きにいう『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当し得ると解するのが相当である」として、原判決を破棄した。
     ただし、「上告人が本件被害者との間において『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当するか否かについて、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする」とした。
     なお、本判決には、多数意見のほか、以下の通り、林道晴裁判官の補足意見と今崎幸彦裁判官の反対意見が付されている。
  2.  ②林道晴裁判官の補足意見
     まず、「犯給法5条1項1号括弧書きが遺族給付金の支給を受けることができる遺族の範囲を規定するものであることからすれば、同号括弧書きにいう『事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』の解釈は、その文理に加え、遺族給付金等の犯罪被害者等給付金の支給制度の目的を踏まえて行うことが相当である」とし、「多数意見が説示するとおり、同制度の目的は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することにある」とした。「そして、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的に照らせば、犯罪被害者と同性の者であっても、犯罪被害者との関係、犯罪被害者と互いに協力して共同生活を営んでいたという実態やその継続性等に鑑み、犯罪被害者との間で異性間の内縁関係に準ずる関係にあったといえる場合には、異性間の内縁関係にあった者と同様に犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受けるものと考えられるから、上記文言に該当するものとして、遺族給付金の支給を受けることができる遺族に含まれると解するのが相当である」とした。
     また、後述の今崎幸彦裁判官の反対意見に関して、「反対意見が指摘するように、犯罪被害者等給付金は損害を塡補する性格を有するものであるものの、それにとどまるものではなく、同制度が早期に軽減を図ろうとしている精神的、経済的打撃は、加害者に対して不法行為に基づいて賠償請求をすることができる損害と厳密に一致することまでは要しないものと解されるが、上記の場合には、少なくとも加害者に対する不法行為に基づく慰謝料請求はすることができるものと解してよいように思われる」とし、また、「多数意見は、その説示から明らかなとおり、飽くまでも犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等への支援という特有の目的で支給される遺族給付金の受給権者に係る解釈を示したものであ」り、「上記文言と同一又は類似の文言が用いられている法令の規定は相当数存在するが、多数意見はそれらについて判断したものではな」く、「それらの解釈は、当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で、当該規定の趣旨に照らして行うべきものであり、規定ごとに検討する必要がある」とした。
  3.  ③今崎幸彦裁判官の反対意見
     まず、「犯給法は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため犯罪被害者等給付金を支給することとし(1条)、重傷病給付金、障害給付金と並べて遺族給付金を規定している(4条)」とし、「犯罪被害給付制度については、福祉政策、不法行為制度の補完、刑事政策の要素も含みながら、犯罪被害者の現状を放置しておくことによって生じる国民の法制度全体への不信感を除去することを本質とするなどと説明されて」おり、「犯給法は、遺族給付金が犯罪被害者遺族に対する生活保障と損害の塡補という2つの機能を十全に果たすことを通じ、上述したような制度の趣旨、ひいては法の目的が達せられることを期待しているものといってよいと」する。
     そして、「以上を前提に、まずは生活保障という観点からみた場合について」考えると、「仮に1号にいう『犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)』に同性パートナー・・・・・・が含まれるとすると、それまで犯罪被害者の収入によって生計を維持していた子らは同性パートナーに劣後し、支給対象から外れることとなる」ため、「犯罪被害者相互の間に、潜在的にせよ前述のような利害対立の契機をもたらすものでもある」ことを指摘する。
     次に、損害補填の観点から考えると、「同性パートナー固有の権利として、精神的損害を理由とした賠償請求権については・・・・・・認める余地がある」としつつも、「財産的損害、とりわけ扶養利益喪失を理由とする損害賠償請求権については、」夫婦の同居、協力および扶助の義務を定める「民法752条の準用を認めない限りにわかに考え難いというのが大方の理解であろう」ことを指摘したうえで、「そうであるとすれば、犯罪被害者の同性パートナーに認められる損害賠償請求権は、仮に認められるとしても異性パートナーに比べて限定されたものとなる」はずであり、「それにもかかわらず、多数意見の見解によれば、同性パートナーは異性パートナーと同視され、同額の遺族給付金を支給されることになる。遺族給付金が損害塡補の性格を有することを考えると、前提となる民事実体法上の権利との間でこのようなギャップが生じることは説明が困難と思われる」とする。
     そして、「社会への影響という観点」から考えると、「犯給法5条1項1号の『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』と同一又は同趣旨の文言が置かれている例は少なくないが、そうした規定について、多数意見がいかなる解釈を想定しているかも明らかでな」く、「個別法の解釈であり、犯給法と異なる解釈を採ることも可能と考えられるとはいえ、犯給法の解釈が他法令に波及することは当然想定され、その帰趨次第では社会に大きな影響を及ぼす可能性があ」り、「現時点で、広がりの大きさは予測の限りではなく、その意味からも多数意見には懸念を抱かざるを得ない」ことを指摘する。
     以上のことから、「犯罪被害者と同性の者は犯給法5条1項1号括弧書き所定の者に該当し得るとする多数意見の解釈には無理があるといわざるを得ない」とする。そして、「多数意見は、犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受け、その軽減を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が異性であると否とで異なるものではないとして」おり、「私は、これに異を唱えるつもりはない」としつつも、「そのことと、犯給法の規定がそうした理念を矛盾なく取り込める造りになっているかは別問題である」とし、請求を棄却すべきであるとしている。
     また、「多数意見は・・・・・・『事実上婚姻関係と同様の事情』という要件の中身については何も語らない」が、「しかし、単なる同性同士の共同生活と何が異なるのかと考えてみたとき、それは決して自明ではない」とし、「同性同士の関係における『事実上婚姻関係と同様の事情』は、多数意見によって新たに提示された概念であって、その中身を明らかにすることは、犯給法の条文の法令解釈にほかならないことを踏まえると」、仮に多数意見のように原審を破棄して差し戻すとしても、「差し戻すに当たっては、多数意見の考える解釈に従い、『事実上婚姻関係と同様の事情』の考慮要素を具体的に明らかにすべきであったと」している。

3.検討
 前述のように、近時の司法判断には、SOGIに関する大きな変化の潮流がみられる。すなわち、同性婚を認めない民法等の規定の合憲性をめぐる一連の地裁判決※3は、合憲判断を示したものもあるとはいえ、いずれも現行制度を問題視しており、初の高裁判決となる札幌高裁判決は、憲法24条2項だけでなく1項も含めて憲法24条および憲法14条1項違反であるとし、憲法24条1項が同性婚の保障を要請しているとした※4。また、性別の取扱いの変更の審判を受けるにあたっての生殖腺除去手術の実質的強制に関する最高裁大法廷決定※5は、性別の取扱いの変更の審判を受ける要件の1つとして「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を定める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号を違憲としたが、そのことを踏まえれば、「たとえ僅かな可能性であったとしても、戸籍上の性別では同性の間で子どもが生まれ得ることからすれば、同性婚か、少なくともパートナーシップ制やファミリーシップ制の導入による家族形成を認めなければならないはずである」※6
 こうした司法判断の大きな潮流との整合性からすれば、本判決の多数意見の結論は当然のものと考えられ、また、最高裁がこうした判断を示すことは、その潮流を加速するものとして高く評価できるものと考えられる。
 ただし、本稿で注目したいことは、むしろ、今崎幸彦裁判官の反対意見である(そして、林道晴裁判官の補足意見では、今崎幸彦裁判官の反対意見に対する回答に注目すべきであると思われる)。なぜなら、それらは今後の司法判断等の課題を示すものと考えられるからである。
 今崎幸彦裁判官は、多数意見の解釈に関して、第1に、生活保障の観点から、「犯罪被害者の収入によって生計を維持していた子らは同性パートナーに劣後し、支給対象から外れることとなる」可能性を指摘する。つまり、多数意見の解釈は、たんに支給対象を拡げるだけに留まらないのである。
 第2に、損害補填の観点から、民事実体法上の権利との整合性の問題を指摘する。
 第3に、他の法令解釈への影響を指摘している。
 そして、第4に、仮に多数意見の解釈に従うにしても、「同性同士の関係における『事実上婚姻関係と同様の事情』は、多数意見によって新たに提示された概念」であるにもかかわらず、多数意見が「『事実上婚姻関係と同様の事情』の考慮要素を具体的に明らかに」していないことを問題にしている。
 第1の指摘に関して、現行法の解釈としては、第4の点にもかかわるところであるが、上述のSOGIに関する近時の一連の司法判断を踏まえれば、たとえ多数意見の解釈によって、「犯罪被害者の収入によって生計を維持していた子らは同性パートナーに劣後」することになるとしても、不当な解釈とまではいえないように思われる。ただし、どのような優先順位が望ましいのかは多分に政策的判断も含まれるところであり、将来的には法改正も含めて検討されるべきものであると考えられる。
 第2および第3の点に関しては、法体系全体にかかわるものであり、もちろん、それらの問題点に関しても明確な解答を示すことが可能なのであれば示すべきところであろう。しかしながら、抽象的規範統制を前提としないで個別事案の解決に焦点をおく日本の司法制度を前提とすれば、それらを示さない多数意見の立場は否定されるべきものではないように思われる。
 そして、第4の点に関しては、前提になる司法哲学にもよるところであろうが、本件事案のような場合には、実社会に関する認識のなかで具体的な考慮事項も明らかになるであろうことを踏まえれば、あえて最高裁では考慮事項を具体的に示さず事実認定を行う原審に差し戻す判断もあり得るものと思われる。
 いずれにしても、これら今崎幸彦裁判官の指摘は、今後の司法判断(場合によっては法改正)における大きな課題を示したものといえるだろう。

4.おわりに
 すでに述べたように、本判決は、近時のSOGIに関する司法判断の大きな潮流に位置づけ得るものであり、こうした司法判断の潮流との整合性からすれば、多数意見の結論は当然のものであり、最高裁がこうした判断を示すことは、その潮流を加速するものとして高く評価できる。ただし、今崎幸彦裁判官の反対意見に示されるように、本判決の結論には、今後、検討されなければならない課題が残されている。
 もちろん、それらの課題のいくつかは、法律婚として同性婚が認められることになれば解決するものもあり、その意味では、過渡的な時期における限定的な課題といえるものかもしれない。しかし、これらの課題の解決を検討していくことが、法律婚として同性婚を認めることにも繋がるとも考えられる。今崎幸彦裁判官の反対意見は、そのための課題を明確にした点で高く評価できるものと思われる。


(掲載日 2024年5月14日)



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