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判例コラム
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第7回 ごぼうの先生?

金沢大学法学類教授
同イノベーション創成センター将来開拓部門長
大友 信秀

金沢大学法学部に知的財産法担当教員として赴任し、はや4年が経過した。同学部には、それまで知的財産法の専任教員がおらず、赴任直後から、基本的な研究・教育環境を整えるための試行錯誤が始まった。

大学予算は、国立大学法人化の影響もあり、毎年削減され、学部予算もそれに対応し減額された。そのような状況下のため、新しく立ち上がる科目であるという特殊事情は考慮されることもなく、必要不可欠な文献購入費は、すべて競争的資金からの獲得にすがるしかなかった。しかし、外部資金は、通常、すでに一定の研究環境が整備されていることを前提に、十分な研究能力を生かして予定どおりの研究成果を生み出すことが求められているものであり、これから研究環境を整備するための費用を要求できる資金はなかった。そのため、外部資金として獲得した資金の一部を少しずつ基本的文献の購入費にあてるしかなかった。毎年のように改正される知的財産法の文献を揃えるために、赴任後は競争的資金を取得することが年間行事となっていった。

そんな中、平成16年には、教員よりも比較的採用率の高い、金沢大学学長戦略経費の学生向けプロジェクトへの申請をゼミナール所属学生に挑戦させ、1件の採用を得た。これは、学生用の文献は学生の力で購入させようという苦肉の策であると同時に、普段の授業では得られないフィールド・ワークの機会を作ることを目的としたものだった。とき折しも、地域団体商標制度の導入が決まり、特許や著作権とは異なり、地方でも多くの需要がみこまれる知的財産権問題が生まれ、ゼミの学生は、九谷焼の窯元のブランド化や能登半島の野菜生産者の地域ブランド立ち上げに協力することになった。

教科書で知った新制度の知識は現場の方の素朴な要求には難しすぎ、知識をもっていることと、現場でそれを生かすこととのギャップを知ることとなった。登録に必要な周知性の証明はどのように行うのか、商品・役務区分の選択はどのようにすれば良いのか、そもそも、生産量が極めて少ない野菜に商標の出願・登録費用をかける意味があるのか。次から次へと予想していない疑問・問題が現れた。

1年が経つうちに、協力先との親密な関係がつくられ、現在では、石川県七尾市沢野地区の沢野ごぼう事業協同組合の皆さんが学生の活動用にゲストハウスを提供してくださるまでになった。この間の活動は地元新聞でも取り上げられ、詳しいことを知らない地元の方々からは、金沢大学にごぼうの先生がいると噂されるようになった。

(掲載日 2008年4月28日)

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