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判例コラム
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第31回 バンクロフト・ホイットニーとサンフランシスコ大地震

成城大学法学部教授
成田 博

1906年4月18日午前5時12分、マグニチュード7.9の大地震がサンフランシスコを襲った。この大地震で、サンフランシスコを拠点とする法律出版社バンクロフト・ホイットニー(Bancroft-Whitney Co.)もまた大打撃を受けた。20万ドルほどの売り掛けがあったらしいにもかかわらず、会計帳簿を失ったために、回収の見込みが立たなくなったのである。そこで、バンクロフト・ホイットニーは、弁護士年鑑・Martindale’s Legal Directoryを参照して弁護士に手紙を送った。これによって、既にその当時、Martindaleが定評のあるものとなっていたらしいことも窺える。

これに呼応して、弁護士達は、その債務額を正直に申告し、それによってバンクロフト・ホイットニーは危機を脱したというのである。バンクロフト・ホイットニーは、その後、これに感謝すべく、新聞数紙に“A Grateful Acknowledgment To an Honorable Profession”と題する広告を出したという。

筆者が上記広告について知ったのは、Elede Toppy Hall, The Bancroft-Whitney Company : roots of a legal publisher, The Kemble occasional, no. 27 (winter 1981) によってであるが、これはサンフランシスコでは有名な話のようで、弁護士を褒め称えたそのコピーを求めて多くの弁護士がバンクロフト・ホイットニーを長く訪ねてきていたらしい。

その広告の文章自体は、上記Hallの論文に掲載されているのであるが、やはり、その実物をなんとか見たいと長く思っていた。ごく最近、本当に何気なくインターネットで検索してみたところ、その広告が目の前に現れた※1。インターネットの威力に改めて驚かされるが、その広告には1907年2月7日のスタンプが押されていることもはっきり見て取れる。

バンクロフト・ホイットニーは、1886年、A・L・バンクロフト(A. L. Bancroft & Co.)とサムナー・ホイットニー(Sumner Whitney Company)とが合併してできたものであるが、1919年には米国連邦最高裁判所判例集Lawyers Editionで知られるロイヤーズ社(Lawyers Co-operative Publishing Company)の子会社となった。さらに1989年、トムソン(Thomson)によるロイヤーズ社の買収により、その傘下に入った。そして、1996年、トムソンによるウエスト出版社(West Publishing Company)の買収によって形成されたウエスト・グループ(West Group)の一翼を担って今日に至るのであるが※2、その存続・発展を支えた専門職業集団としての弁護士が存在したという事実は、この先も十分語り継ぐに値することではなかろうか。

(掲載日 2008年10月13日)

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