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第43回 臨床試験と新規性(公然実施された発明)

高島国際特許事務所※1
所長・弁理士 高島 一

特許庁の運用によれば、医薬用途特許、例えば「化合物Aを有効性分とするXXXX治療剤」の特許においては、XXXX治療の臨床試験データを特許出願時の明細書に記載しなければならない。但し、ヒトと動物のデータがパラレルならば、動物試験でも良く、通常は動物試験のデータを特許明細書に記載する。臨床試験まで記載した例は少ない。ところが、特許出願前にヒトの臨床試験を行うことは、「公然実施された発明」として、新規性を欠如することになりかねないという懸念がある。

随分以前に、この点を無効理由の一つとして無効審判を提起したことがある。この事件においては、当該発明の臨床試験を行った医師が、特許出願前のある特定の期間に臨床試験を行ったこと、及び特許明細書に記載したと全く同じデータを当時の該臨床試験のデータであるとして特許出願後に頒布された文献に発表したものである。本無効審判においては、我々は、この出願前の臨床試験を根拠に当該発明は、特許出願前に公然実施された発明に該当するということを無効理由の一つとした。

本件は外来患者に対する臨床試験を、特許出願前に行った事案であり、患者は自己の疾病を熟知しているはずである。また、医師はインフォームドコンセント上、患者に対して疾病の説明、有効成分に関する説明を要するはずである。仮に医師が自発的に説明しなくとも、患者から求められれば、該臨床試験の内容、有効成分の説明を要する立場にある。さらに、外来患者に薬剤を持ち帰らせているのであるから、患者または患者から薬剤を入手した者は容易にその有効成分を分析することができたはずである。従って、当該発明は当該臨床試験によって、少なくとも、当業者に知られうる状態に至っていると思料され、新規性欠如ということになる。

もし、我々の主張が認められたら、非常な不合理が生ずることになる。即ち、医薬用途発明においては、臨床試験の記載を有するという特許庁の運用を遵守すれば、特許を取れなくなるという非常な不都合な事態が生じることになるからである。

結論として、本件においては、他の文献に基づいて進歩性がないということで特許は無効とされた。このため、上記の公然実施の主張については審理されなかった。
審判に勝ったので、結果良しではあるが、私としては公然実施で結論が出なかった点に、今でも多少の未練が残る。

(掲載日 2009年1月12日)

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