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判例コラム
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第49回 時々起きる悲劇!- 時間がかかりすぎる弁護士は何かがおかしい

早稲田大学大学院法務研究科(法科大学院)教授
弁護士 浜辺 陽一郎

早期発見、早期治療が大事であることは、法的紛争も同じである。また、刑事犯罪の捜査では初動捜査が重要だというが、民事の紛争でもそれは変わらない。時効にかかってしまう等といったレベルの低い問題だけではない。迅速に対応しないと、解決に向けられた切迫性が失われて主張の説得力・迫力も弱くなるし、うまく交渉する機会も失ってしまう。

ところが、まず本人のレベルで迅速な行動を取ることが遅れ、それに加えて、弁護士に依頼した後の、弁護士の動きが悪いために、事件処理が大幅に遅れてしまうケースがある。この両方の問題が、時に重なり、あるいは絡み合って、事件をつぶしてしまうことさえある。いずれも、法的な問題に対する無知や不慣れからくる問題だ。とかく紛争やら法律問題やらに疎い一般の人たちは「こんなものかな」とも思ってしまうかもしれないが、時間がかかりすぎるという症状は、要注意だ。

処理を迅速にしなかった弁護士も悪いが、その弁護士の遅い動きに対してタイムリーにアクションを取らなかった依頼者にも落ち度があるものと扱われてしまう。もとより、依頼者は法律の素人であるから、依頼者に責任があるなどと言うのは酷だ。しかし、その依頼者は、自らの権利を棒にふるという不利益を受ける結果をかぶる。本当にお気の毒ではあるが、後になってからでは「もっと早く動くべきだった」と言われてしまうことは避けられないのだ。近時、会社法が大きく変わったことなどをはじめとして、数多くの法令改正が行われており、一部の弁護士はその変化に対応できていない。理由はともかく、そうした能力不十分な弁護士にひっかかってしまう依頼者は、本当に気の毒である。

弁護士には定年がないし、スポーツ選手のように体力の限界が明確な形で結果に現れるといったことがない。むしろ先輩として持ち上げられるので、よほど自覚して律してもらわないと、老害を撒き散らすことになる。もちろん、自分は処理できないことを悟って、すぐに他の弁護士を紹介する弁護士がほとんどだと思うが、時として、いつまでも自分で事件を抱え込んで、依頼者に大きな迷惑をかけている。それが責任感だと、何か履き違えている。ただ、そういう弁護士に頼んでしまっている依頼者も、それが問題だと分からないうちに、事態は悪化していく。ほとんど完全に手遅れになってから、相談を持ち込まれても、対応は極めて難しい。そうなると、手遅れになった患者をもう救えなくとも仕方がないということになってしまう。

新しく弁護士になる新人は、比較的、まだ能力があり、気力もあり、将来もある。ただ、一定の競争や淘汰が必要だろう。それは老若を問わない。能力が十分とはいえない弁護士でも、事務所経営が成り立っているケースがある。

弁護士の側も改善・改革すべきことは少なくないが、弁護士を使う依頼者の側においても、より正しく弁護士を見る目を養い、有能な弁護士を正しく選別して、正しく使うことを考えてもらいたい。単に都合よく動いてくれるとか、調子が良いとか、最初は良さそうであっても、根本が誤っていた場合、最後にとんでもないしっぺ返しを食らうのは、依頼者本人にほかならない。法務のマーケットを形成しているのは、弁護士だけではない。法曹倫理や弁護士の質の問題は、弁護士を使う依頼者側にも大きく依存しているのだ。

(掲載日 2009年3月2日)

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