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成城大学法学部資料室
隈本 守
秘密の保護に関して最近いくつかの話題に触れた。一つめは4月15日奈良地裁で刑法134条秘密漏示罪について、最高裁によると記録が残る1978年以降初めてとされる判決が出されたこと※1。二つめは裁判員法において秘密保持義務が規定されると同時に、裁判員等に秘密を得る目的で接触することが禁止されたこと。三つめはイギリスで陪審員が評議内容を暴露したことについて、陪審員とともにこの記事を掲載した報道機関が法廷侮辱法の守秘義務違反で有罪とされたことである※2。
まず、奈良地裁の判決は医師の父親をもつ高校生の長男が自宅に放火し、継母と異母弟妹の三人を焼死させた少年審判事件で、少年の鑑定を行った医師が、持っていた供述調書ならびに鑑定調書の内容をノンフィクション本「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)の著者等に見せ、これを元に同書が出版されたことが社会的な問題となった事件である。この事件では、①鑑定人として行ったことが、医師としての業務にあたるか、②取材協力等の正当な行為か、③供述調書の秘密について告訴権を持つ者は誰か、④本の著者、出版社を起訴しなかった点は報道機関からの批判を回避する為であり公訴権の乱用ではないか、の四点について争われ、いずれも弁護側の主張は認められず、刑法134条(秘密漏示罪)の初適用判決(被告人控訴中)となったものである。被告人の秘密漏示罪の判断についてはここで検討するものはないが、事件全体としては本の出版者の秘密暴露行為について問題を残すものとなった。この事件では正犯の成立を認めていることから、本の出版者について身分なき共犯としての検討もされた上で共犯とはならないとされた。しかし同種の事例と考えられる神戸連続児童殺傷事件では、盗み出された鑑定医の鑑定調書の内容が週刊誌に掲載されており、漏示自体の正犯が成立せず秘密漏示罪に問うことは困難と考えられた。これらの事例について秘密の保護の観点からは、名誉毀損、損害賠償による他、秘密の入手、流布自体を規制する方策が求められるとする意見もある。
次の裁判員法の規定は、この点で一歩踏み込んだ条文のようにも見える。裁判員法9条2項と108条では裁判員等に守秘義務を課しているが、これに加えて「裁判員等の保護のための措置」として、第102条2項に「何人も、裁判員又は補充裁判員が職務上知り得た秘密を知る目的で、裁判員又は補充裁判員の職にあった者に接触してはならない」としている。これは裁判員等が医師、弁護士等とは異なり、一時的にかつ強制的にその任に就かされるものであることから、秘密を守りやすい環境を作ることも必要として設けられた条文とされる。しかし、守秘義務を負う者以外の者が「守秘義務を負う者に対して」との限定はつくものの、秘密を得ようとする行為を規制する点では、秘密漏示罪より少し広く秘密を保護するものといえるのではなかろうか。
最後の話題は、5月13日イギリスの高等法院が判決で、評決に不満を持った陪審員が評議の内容を新聞社に暴露し、この記事が掲載されたことについて、陪審員室の秘密(secrets of jury room)を暴露したとし、この陪審員と新聞社を法廷侮辱法(Contempt of Court Act 1981)の守秘義務違反の罪(8条)で有罪としたものである。同条では、陪審の秘密を漏らすことのみならず、秘密の入手自体も法廷の侮辱にあたるとされているのである。
裁判は公開が原則とされているところではあるが、非公開で行うべきとされる状況もある。裁判員とはいえ一般の人が参加するに際しては、被疑者、被害者等のプライバシーとの関係についてこれまで以上の配慮が求められる。「秘密が守られる環境にあるから秘密が開示される」という環境を維持するためには、秘密の保護の観点から今一度日本の秘密漏示規定について検討することが求められるように思えたところである。
(掲載日 2009年6月8日)