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判例コラム
(旧)コラム

 

第112回 選挙民一人に衆議院0.4票、参議院0.2票で清き一票と言えるのか

日比谷パーク法律事務所 代表※1
大宮法科大学院大学 教授※2
弁護士 久保利 英明

1. 0.2票しか持たないのは公正な選挙と言えない

いよいよ7月11日の参議院選挙が近づいてきた。「どうぞ○○に清き一票を」と全国の街頭に、村落に連呼が響いていることだろう。この選挙で政権の座を安定化させようとする民主党と、なんとか参議院で多数派を形成し、衆参ねじれ状態に持ち込みたい自民党。連立離脱をした社民党も、閣外へ飛び出した亀井氏から自見氏に首をすげ替えただけで郵政関連法案成立に命運をかける国民新党も懸命である。国民の審判と言うが、こんな国民をバカにした選挙はない。参院選地方区で、1人1票の価値を持つ投票権を行使できるのは実は鳥取県民だけである。これに次いで一票の価値が高い島根、高知、福井県民でも1人0.7か0.8票しか持たない。09年9月2日の選挙人名簿登録者数と議員定数を基礎に計算すると神奈川県民の投票権は鳥取県民との比較では0.2005票にすぎない(6月23日現在では0.1996票にまで低下している)。大阪府、北海道、兵庫県、東京都、愛知県、福岡県などの大都市圏住民もいずれも0.2票台である。こんな不平等な選挙権で国民の審判と評価することの無意味さに誰も気がつかないのだろうか。
この数字は昨年の衆議院小選挙区選挙での高知3区民の1票に対する千葉4区民の0.434票に比較しても更に半分以下となる。

2. 公正な選挙を求めて昨年の衆院選無効の提訴

衆院、参院ともに住所による著しい投票権の較差が存在するにも関わらず、国会はこの状態を放置し続けてきた。そこで昨年、私は升永英俊弁護士と共に多くの知己の支援を得て国民運動を立ち上げた。手始めに、こんな較差を放置する国会に定数是正を命じなかった最高裁判事の氏名を情報提供した。果たして国民審査で1票の不平等を合憲とする裁判官には他の判事より100万票、2%近く多い罷免票が投じられた。これほど大差がついたことは近年珍しい。次いで衆院選の選挙無効を求めて、全国高裁への一斉提訴を行った。

3. 4高裁の違憲判決と3高裁の違憲状態判決

その結果、大阪、広島、福岡、名古屋の4高裁で違憲判決を得、東京高裁第11民事部(他のグループ提訴)・福岡高裁那覇支部、高松高裁の3高裁で違憲状態判決が下った。違憲違法判決と違憲状態判決とは国会が違憲状態を放置していたことを「是正すべき合理的な期間を徒過した」とするか否かの僅かな差にすぎない。合憲と判断したのは僅か2高裁にすぎなかった。

4. 最高裁判決への期待と対応

我々は全ての高裁判決が選挙を無効とまでは判断しなかったので、上告中であるが、7高裁・支部が一人別枠方式(人口数にかかわらず全ての都道府県にまず1人の当選枠を付与し、残りを人口で割り振っていく)の違憲性を認めている。我々は最高裁も同様に早急に違憲判断を下すことを確信しているが、更に今回の参院選地方区では1人0.2005票の価値しか与えられず、試算では選挙区選出参議院議員の総数146人のうちの過半数(74人)を32%の人口が選出し、67%の人口からは72人しか選出できない。民主主義の根本の多数決のかけらもない。だから参院選地方区選挙は違憲・違法であり無効であるという訴訟を8高裁6支部全てに提訴する予定である。

それでも万一、最高裁が「一票等価値の原則」を認めず、これほど不平等な投票権による選挙を無効と判断しないのであれば、2割国民、4割国民とされた圧倒的多数の国民は、次の衆議院選挙と同時に行われる国民審査投票において最高裁判事罷免権を行使していただきたい。幸い、この投票では一票の価値は全国同一だからきっと効果は抜群であろう。

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(掲載日 2010年7月5日)

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