第116回 商標法におけるパロディ許容の可能性 〜シーサーとプーマの戦い〜

TMI総合法律事務所
弁理士 佐藤 俊司

最近、パロディ商標が話題になっている。というのも、つい先月、PUMAのパロディ商標について、知財高裁で2回目の判決が下されたからだ。特許庁の取消決定が知財高裁で2回も取消されるという、珍しい事案である。


第5040036号
(本件商標)

第3324304号
(引用商標C)

第711054号(引用商標A)

第723431号(引用商標B)

本件商標※1は、審査段階では、引用商標A及びBに類似する(4条1項11号)として拒絶査定を受けたものの、拒絶査定不服審判を経て登録に至った※2。しかし、PUMA社からの異議申立てにより、本件商標は引用商標Cと類似する(4条1項11号)として、取消されてしまった(第1次異議決定※3)。本件商標の権利者は、かかる特許庁による本件商標の取消決定に対し、その取消を求めたところ、知財高裁第2部は、本件商標と引用商標Cは非類似 であるとして、特許庁の取消決定を取消す判決を下したのが、第1次知財高裁判決である※4

かかる第1次知財高裁判決を受けて、特許庁は審理をやり直したものの、再度本件商標を取消す決定を下した(第2次異議決定)。その理由は、本件商標は、1)引用商標Aと類似する(4条1項11号)、2)周知著名な引用商標Cとの関係で出所の混同が生ずる(4条1項15号)、3)周知著名な引用商標Cが有する信用又は名声に便乗して利益を得ようとの不正の目的をもって使用する(4条1項19号)、という3つの理由に該当するというものであった。特許庁としては、再度11号が認められなくても、15号又は19号には該当するだろうということで、一旦その登録を認めた本件商標についてどうしても取消しをしたかったようである。

特許庁の2度目の取消決定に対して、本件商標の権利者が再度その取消を求めたところ、知財高裁第2部は、再度特許庁の取消決定を取消す判決を下した。これが、先月出された第2次知財高裁判決である※5

特許庁による取消決定が知財高裁第2部によって、2度も覆されるという非常に興味深い事件だが、第2次知財高裁判決では、補助参加人であるPUMA社が、本件商標について、「補助参加人の商標のパロディであって,補助参加人の商標の信用をフリーライドし,希釈化するものである」と強く主張したため、商標のパロディについて、補足的判断ではあるものの、以下のとおり、初めて裁判所としての判断を示している。

「『パロディ』なる概念は商標法の定める法概念ではなく,講学上のものであって,法4条1項15号に該当するか否かは,あくまでも法概念である同号該当性の有無により判断すべきであるのみならず,後記のとおり,原告は引用商標C等の補助参加人の商標をパロディとする趣旨で本件商標を創作したものではないし,前記のとおり,本件商標と引用商標Cとは,生じる称呼及び観念が相違し,外観も必ずしも類似するとはいえないのであって,必ずしも補助参加人の商標をフリーライドするものとも,希釈化するものともいうこともできない。」
そして、第2次知財高裁判決では、本件商標は、4条1項11号、15号、19号のすべてについて、該当しないと判断した。

過去の審決例においては、一般的にはパロディと思われる以下の商標について、パロディかどうかについては判断していないものの、4条1項15号を適用してきた事案はあった。


昭和32年抗告審判第179号

平成10年異議90851号

異議2002-090881


異議2007−900190

4条1項15号に該当するとされた上記の各商標の元となった有名ブランドのマークは、特に言及するまでもないほど有名なものであり、これらの有名ブランドにフリーライドしていることは明らかなのであるが、これらの商標に接した需要者は、これらの有名ブランドのマークのパロディ商標であることを認識すると考えられ、その意味で必ずしもその出所について混同を生ずるとは限らない。今年1月の知財高裁第4部によるローリングストーンズベロマーク事件※6においても、「引用商標がローリングストーンズの業務に係る商品又 は役務を表示するものとして音楽関係の取引者・需要者の間で周知・著名であることは, また,それ故に,引用商標と本件商標との上記の相違点は,看者にとってより意識されやすいものであると解されるところである。・・・(中略)・・・本件商標を本件指定商品等に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,著名な商標である引用商標を連想・想起して,本件指定商品等がローリングストーンズ若しくはローリングストーンズとの間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると誤信するおそれがあるものと認めることはできないといわざるを得ない。」とし、下記の本件商標が4条1項15号に該当するとした特許庁の取消決定※7を取消している。

 

 


本件商標

引用商標

 

ここで、仮にいわゆるパロディ商標に対して4条1項11号、15号、19号の適用可能性がないとなると、近年適用事例が増えている4条1項7号の適用可能性が出てくるが、実際、最近の特許庁の審査や審決では、以下のとおり、この7号を適用して拒絶しているものも出てきている。

 
不服2008-10902

不服2008-10900

2009-33402
 

BUTAとUUMAに関しては、本件商標のSHI-SAと同様、PUMAのパロディであることは明らかであるが、文字の相違、動物図形の相違より、PUMA社と混同を生ずる可能性は低いと考えられることから、特許庁は、4条1項7号を適用して拒絶したものと思われる。
「本願商標は、プーマ社が、永年スポーツシューズ等に使用し取引者、需要者の間に広く知られている商標と承知の上で、当該他人の承諾もなく、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し、不当な利益を得る等の目的のもとに、請求人(出願人)が引用商標の有する特徴を模倣して出願し、登録を受けようとしたものといわざるを得ず、かかる行為によって、引用商標自体に化体した信用・名声及び顧客吸引力を希釈化させ、あるいは損なうおそれがあるものといわなければならない。・・(中略)・・・本願商標を登録することは、商標法の精神に反し、商取引の秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当し、商道徳に反し、社会公共の利益に反するというべきである。」
なお、BUTAとUUMAの出願人は、他にも下記のような商標を出願・登録している。


登録第4994944号

2007-35410

2007-35411


2007-35412


2007-35413

2007-35414

2007-123910

2007-102267

2007-102270

2007-102271

2007-102272

一方、GONELについては、著名なシャネルマークを引用しつつ、7号、11号、15号に該当するとして審査段階で拒絶されているが、7号に該当する理由として、シャネル社の著名商標をパロディ化したものであると容易に理解、認識させるものとみるのが相当であり、シャネル社の著名商標の名声に便乗し、顧客吸引力にただ乗りする行為であるといわざるを得ず、また、その名声を傷つけるおそれもあり、公正な取引秩序を乱すものであって、ひいては国際信義に反することを理由としており、近年拡大の一途を辿る7号の拡大解釈における一類型として、今後パロディ商標の類型も加わってくる可能性もある。

なお、米国では、犬のおもちゃの「Chewy Vuiton」が「Louis Vuitton」とは違うブランドであることが明らかに認識でき、パロディであるとして、混同を生じさせるものではないと判断した第4巡回区控訴裁判所判決※8や、ゲームの中でのパロディ商標の使用について、少なくとも美術的な妥当性を有する場合があり、また明らかに誤認させるようなものではないとして、合衆国憲法修正第1条によって保護されるとした第9巡回区控訴裁判所判決等※9、パロディ商標の使用は商標権侵害にならないとしたケースがある。パロディによる表現の自由と商標権者の信用の保護とのバランスをどう考えるかについては、米国でも判断が難しいようである。

今回の第2次知財高裁判決を受けて、特許庁は三度目の審理をやり直すことになるが、果たしてこの4条1項7号を適用して、再度取消決定を出すのであろうか?それとも、知財高裁の第2次判決を受けて本件商標の登録をついに認めるのか、まだまだシーサーとプーマとの戦い(知財高裁と特許庁との戦い)から目が離せない。

 

(掲載日 2010年8月9日)

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