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弁護士・高岡法科大学教授
中島史雄
白山市長Aは2005年6月25日に公用車を使用のうえ市職員を同行して、市内の一般施設で開催された白山比咩(ひめ)神社鎮座二千百年大祭の奉賛会発会式に出席し、市長として祝辞を述べた。白山市民Xは本件行為が政教分離原則に違反し(憲法20条3項・89条)違憲であるから、市の執行機関Yに対し本件行為に伴う公金支出相当額(1万5,800円)の損害賠償をAに対して請求するよう義務付け請求する住民訴訟を提起した(自治法242条の2第1項4号本文)。
金沢地方裁判所は、本件発会式の会場が神社境内でないことと、式次第も神道上の儀式・祭事に基づくものでなく、社会的儀礼の範囲内であると判示した(平成19.6.25判時2006.61)。これに対して名古屋高等裁判所金沢支部判決は、本件行為は大祭を奉賛・賛助する目的を有し、かつ、同神社を援助・助長・促進する効果を有する点において、社会的儀礼の範囲を逸脱しており、違憲であると判断した(平成20.4.7判時2006.53)。
注目された最高裁第1小法廷判決(平成22.7.22最高裁ホームペ-ジ)は、5名の裁判官全員一致で、本件行為は宗教とのかかわり合いを持つことは否定できないが、同神社は多数の参拝客が訪れる地元の重要な観光資源であり、大祭は観光上の重要行事であったと認定したうえで、宗教的色彩を帯びない儀礼的行為の範囲にとどまると判断し、第1審判決を正当とし原審判決を破棄した。
本判決は、原審判決のような政経分離原則を宗教的信仰の表現である一切の行為であると解する厳格説を否定し、津地鎮祭違憲訴訟上告審大法廷判決(昭和52.7.13民集31.4.533) の多数意見(15名中10名)である「目的・効果基準」(目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるような行為は違憲であるとする)を具体例に即して判断し、さらに一層の定着を図ったものと評しえよう。
すなわち、津判決は、地鎮祭は社会的儀礼行為であって宗教的活動に当らないとした。次いで、箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟上告審判決(平成5.2.16民集47.3.1687)は、忠魂碑は宗教的施設ではなく、慰霊祭への公的参加も戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという世俗的なものであるに過ぎないとした。
これに対して、愛媛玉串料・供物料訴訟上告審大法廷判決(平成9.4.2民集51.4.1673)は、愛媛県が靖国神社の秋季例大祭に玉串料を、また愛媛県護国神社の慰霊大祭に供物料を各9回にわたり公金から奉納した行為は目的・効果基準を逸脱していると判断した。また、砂川訴訟上告審判決(平成22.1.20判例集未登載)は、北海道の砂川市が空知太神社から寄付された土地を神社境内地として同神社を維持管理する町内会に無償使用させ続ける行為を政教分離原則に違反すると判断し、原審に破棄・差戻した。
本件判決が著名神社を観光資源として重視し、神社行事への市長出席を合憲とした点は画期的であるが、自治体はそれを過度に評価すべきではなく、節度ある姿勢が望まれる。
(掲載日 2010年8月23日)