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早稲田大学大学院法務研究科教授・弁護士
道垣内 正人
2009年12月26日に可決成立し、本年7月1日に施行された中国の「権利侵害責任法」には、興味深い規定がいくつか存在する。製造物責任について懲罰的損害賠償を認めるといったすでにいずれかの国に存在する制度もその一例であるが、オリジナリティのあるルールも散見される。
そのようなオリジナルなルールのひとつとして、24条は「被害者及び行為者が損害の発生についていずれも故意・過失がない場合には、実際の状況に基づき、双方に損害を分担させることができる。」と定めている。これは「公平責任」という考え方であるとされ、いくつかの規定にこれを具体化した規定がある。たとえば、32条2項は、「財産を有する民事行為無能力者、制限民事行為能力者が他人に損害を生じさせた場合には、本人の財産から賠償費用を支払う。不足する部分は、監護人が賠償する。」と定めており、87条は、「建築物の中から物品を放擲し、又は建築物の上から物品を墜落させて他人に損害を生じさせた場合に、具体的な権利侵害者を特定することが困難であるときは、自己が権利侵害者でないことを証明できる場合を除き、加害可能な建築物の使用者が補償を行う。」と定めている。
筆者の専門領域である国際私法は、各国の法律が異なっていることを前提とし、それでも法秩序を維持する方法として問題ごとに準拠法を定めるという方法をとっているため、大学での講義等では、日本法と様々に異なる外国法の例を用いて、受講者に具体的なイメージを持ってもらうことに腐心している。そのような者の立場からは、面白い事例を提供してくれる源泉として、このような中国の新規立法は大歓迎である。
しかし、中国という近い国の法律であるから、教室事例にとどまらず、現実に日本人が「権利侵害責任法」に基づく責任を課されることも生じ得る。たとえば、日本人観光客が泊まるホテルの窓から物が落下して、下の歩道を歩行中の人に当たったという事件が発生したとしよう。中国人の中には窓から物を投げ捨てる人がいるが、日本人はそのようなことはしないと主張しても無駄である。誰が落としたかを特定できないときは、落下角度等から加害行為があった可能性があるとされた窓の部屋の宿泊者には、上記の87条の規定により、外出中であったこと等から加害者ではないことの証明ができない限り、「加害可能な建築物の使用者」として賠償責任が発生することになる。ただし、これは中国で裁判になった場合のことである。
仮に、上記の想定例において、当該日本人が日本に帰国した後、被害者が日本で提訴したとすると、「法の適用に関する通則法」17条により加害行為の結果が発生した地の法である中国法が準拠法となるものの、同法22条1項により、不法行為請求は認められないということになるであろう。同項は、「不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は、することができない。」と定めているからである。そこで、やはり中国での裁判ということになるであろうが(中国の裁判所は不法行為地管轄を認めるであろう)、たとえ中国で日本人被告が敗訴しても、勝訴者はその判決に基づいて日本で強制執行を求めることはできない。日本で外国判決に基づく強制執行をするためには、民事訴訟法118条の定める要件を具備する必要があるところ(民事執行法24条3項)、中国は条約によらない限り外国判決は承認・執行しないため、日本と中国との間には民事訴訟法118条4号の相互の保証がないのが現状だからである。
日本と中国は依然として近くて遠い国である。
(掲載日 2010年9月21日)
次回のコラムは10月4日(月)に掲載いたします。