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クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所 *1
ライアン・ゴールドスティン
ここ10年、テキサス州東部地区連邦地方裁判所に提起される特許権侵害訴訟は増加してきた。同裁判所が好まれるのは、通常、陪審が原告に友好的であること、特許権侵害訴訟において陪審が多額の評決を認容していること、及び、トライアルが比較的短期間であることに起因する。その上、連邦民事訴訟規則上は「当事者及び証人の便利のための」裁判地移送申立ても可能であるが、同裁判所に提起された事件では、同地区に殆ど又は全く関係がないものでも、この申立てが認められることは殆どなかった。これらのことから、同裁判所は、迅速なトライアルと裁判地移送申立ての認容に消極的な裁判官による「ロケット・ドケット」として知られている。しかし、この傾向は変わりつつある。
フォーラム・ショッピングに対する歯止め
連邦巡回区控訴裁判所によるフォーラム・ショッピング(法廷地漁り)の取締りは、In re TS Tech USA Corp., 551 F.3d 1315 (Fed. Cir. 2008)で始まった。この事件では、問題の製品はテキサス州で販売されていたが、原告・被告ともテキサス州企業ではなく、テキサス州に事業所を有していなかった。また、殆どの物的証拠及び書証や主要な証人の多くがオハイオ州などに存在していた。地方裁判所は被告らの移送申立てを却下したが、連邦巡回区控訴裁判所は、物的証拠や書証、証人らの場所を考慮し、また、製品は米国中で販売されており、問題の製品がテキサス州東部地区で販売されていたというだけでは、裁判地との意味のある関係を構成しないことなどを指摘し、事件のオハイオ州南地区への移送を命じた。
同じく原告・被告ともテキサス州外の企業であったIn re Genetech, Inc., 566 F.3d 1338 (Fed. Cir. 2009)では、テキサス州東部地区に証人や証拠は存在しておらず、証拠は欧州やカリフォルニア州等に分散し、証人も同様に分散していた。地方裁判所は被告らの移送申立てを却下したが、連邦巡回区控訴裁判所は、事件をテキサス州からカリフォルニア州に移送することにより、証人や証拠の移動による原告や欧州等の証人の負担の追加はわずかである一方、テキサス州に証拠を移動する被告の負担は大きいことや、カリフォルニア州北部地区の裁判所の召喚権限に服する証人が相当数いることなどを考慮して、事件の同地区への移送を命じた。
In re Nintendo Co. Ltd., 589 F.3d 1194 (Fed. Cir. 2009)では、連邦巡回区控訴裁判所は「証人ら及び証拠が移送先の裁判地に近く、原告によって選択された裁判地を支持する便利さの要素がほとんど又は全くないときには、事実審裁判所は移送申立てを認容しなければならない。」と述べている。
原告の移送回避の試みの拒絶
事件によっては、州外の原告が移送回避目的でテキサス州東部地区との関係を作り出そうと試みることがあるが、連邦巡回区控訴裁判所はこうした試みを拒絶している。原告が大量の書類を電子データにして、テキサス州の代理人の事務所に送り、テキサス州東部地区と事件の関係を作ろうとしたIn re Hoffman-La Roche Inc., 587 F.3d 1333 (Fed. Cir. 2009)や、原告がテキサス州に代理人の他の依頼人らと共有の事務所を最近になって確保し、その本部から書類をその事務所に移転したIn re Zimmer Holdings, Inc., 609 F.3d 1378 (Fed. Cir. 2010)、原告がテキサス州に事務所を開き、英国から書類を移転し、テキサス州東部地区で訴訟を提起する前に会社化をしていたIn re Microsoft Corp., 630 F.3d 1361 (Fed. Cir. 2011)などの事件は、連邦巡回区控訴裁判所により悉く移送させられている。
被告がテキサス州に存在している場合の移送
被告がテキサス州内に存在していても移送はありうる。In re Acer America Corp., 626 F.3d 1252 (Fed. Cir. 2010)では、当事者の中にテキサス州東部地区に所在する会社はなかったが、被告の1社はテキサス州北部地区所在であった。しかし、この事件では、1社を除く米国企業の全てがカリフォルニア州本拠の会社であることや、証拠の大部分が同州に存在し、また、相当数の証人が同州北部地区の裁判所の召喚権限に服していること、関係企業の多数が同地区に所在し、同地区の裁判に対する関心が高いことなどを考慮して、カリフォルニア州北部地区への移送が命じられている。
トライアルまでの期間
さらに、テキサス州東部地区はトライアルまでの時間の面でも「ロケット・ドケット」の役割を失いつつある。統計によれば、同地区でのトライアルまでの平均的な期間は、24.2か月に達している。この期間がより短い連邦地方判所は、米国国内に多数存在している。
結論
連邦巡回区控訴裁判所の最近の決定により、テキサス州東部地区と関係が殆ど又は全くない事件の移送の可能性は高まっている。最近の論文によれば、TS Tech事件後、同地区の移送申立て件数は以前の270%に増加している。さらに、同地区が人気になるに連れ、トライアルまでの期間が長くなってきている。今後も動向を観察を続ける必要はあるが、フォーラム・ショッピングをする原告にとってテキサス州東部地区の魅力が減じてきていることは確かである。
(掲載日 2011年8月15日)