閉じる
判例コラム
(旧)コラム

 

第168回 世界模擬仲裁大会とグローバル人材の育成

同志社大学教授
高杉 直

例年、10月の第1金曜日になるとゼミの学生たちがソワソワし始める。というのも、この日に「Willem C. Vis International Commercial Arbitration Moot」(以下、Vis Moot)の問題文が公表されるからである。Vis Moot※1とは、毎年、3月末頃にウィーン(オーストリア)で開催される「模擬仲裁」の世界大会であり、「法学生のオリンピック」とも呼ばれる競技大会である。「仲裁」とは、裁判所でなく、民間人(仲裁人)が行う裁判で、国際取引上の紛争に関して頻繁に使われているものである。国によっては裁判所が信頼できなかったり、仲裁判断の方が世界中で強制執行が可能であったりするため、国際取引の紛争解決手段として、裁判よりも仲裁の方が適しているといわれている。

模擬仲裁は、学生に仲裁を擬似体験させる教育ツールである。Vis Mootの参加学生は、50頁以上の英語の問題文(ビジネス交渉段階の書面や契約書などから成る)を読み込んだ上で、12月上旬までに、原告側の主張書面(英語で50頁程度)を作成しなければならない。そのため、業界のビジネス慣行を調査し、世界中の裁判例や法律文献を収集・分析することになる。その後、対戦相手から主張書面が届くので、今度は被告側の反論書面を1月下旬までに作成する。その上で、ウィーンに赴き、仲裁人の面前にて英語で弁論(模擬仲裁)を4試合(予選リーグ)行うことになる。

Vis Mootには、例年、世界70カ国程度から300近くの有名大学(多くはロースクール)の学生約2000人が参加している。私の所属する同志社大学も毎年出場しているが、世界の壁は厚く、予選リーグで敗退するのが常である。いつの日か、優勝するのが私の夢の1つである。

ただ、結果も大事だが、Vis Mootは教育ツールであり、参加する学生たちの成長が何よりも大切である。初めて参加した年に全く歯が立たなかった学生が、1年間の努力の成果として、翌年、世界を相手に堂々と弁論している姿を見て、本当にVis Mootに参加して良かったと感じている。このような学生たちがいる限り、日本の将来も明るいに違いない。

なお、Vis Mootに参加する日本の大学・学生を支援するため、国際商取引学会の主催で5年前から「模擬仲裁日本大会(Vis Japan)※2」を開催している。次回は、2012年2月26日(日)・27日(月)に同志社大学で開催予定である(日本全国から5大学程度が出場予定)。グローバル人材の宝庫であるので、企業の人事担当者には、ぜひご覧いただければと思う(観戦自由)。

(掲載日 2011年11月7日)

» 判例コラムアーカイブ一覧