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苗村法律事務所※1
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子
年始早々堅い話で恐縮である。日弁連が、「文書提出命令および当事者照会改正に関する民事訴訟法改正要綱」を出してから約2年、インターネット等で見る限り、外部からの大きな反響は見あたらない。この試案には、文書提出命令を自己使用文書等の例外を大幅に削減し、新たにプライバシーに関わることに加え、弁護士依頼者間秘匿特権に関わる文書を例外とするという弁護士にとっては、新たなそして重要な特権の定めを求めるものであるが、アカデミズムからはむしろこの導入には、批判的なようにも思える。
弁護士依頼者間秘匿特権は、国際特許侵害事件、独禁法違反事件等で問題となることが多いが、もともとは英米法で認められてきたもので、法的助言を求めるための弁護士と依頼者の間の通信に関しては、それが依頼者の手元にあっても開示命令の対象外とされるというものであるⅰ。依頼者が、弁護士との間では、様々な事実、主張を述べて、忌憚のない意見交換ができてはじめて、弁護士は充実した弁護活動ができるという、いわば弁護士の弁護権の延長上にある特権である。米国では、この特権は、強い権利として認められている。独禁法違反事件などでは、時に捜査機関側には、邪魔なものと写ることもあるらしく、違反を行っていた会社が、リニエンシーⅱを申し込む場合には、この弁護士依頼者間秘匿特権の放棄をすることを要求するというような実務が行われていた時期もあったようであるⅲ。欧州委員会でも、米国の規律に比べると若干制限的であるがⅳ、基本的には、弁護士依頼者間秘匿特権は認められている。
弁護士依頼者間秘匿特権がない中で、日本で文書提出命令の自己使用文書の例外規定がなくなれば、依頼者の手元にある、弁護士との交信記録、弁護士からの意見書その他は関連性があれば、すべて提出命令の対象となってしまう。現在でも、実際に弁護士との交信録が、自己使用文書として文書提出命令の例外となるかは判例等も乏しく定かではない。
独禁法違反事件、特許侵害事件、その内容は全く異なるものの、日米欧三局で同時に捜査対応、訴訟を進行させるという事態が往々にしてある。日本で、弁護士依頼者間秘匿特権がないとなれば、日本で訴訟が起こる場合を想定して、欧米の弁護士も日本の弁護士も、依頼者とは、eメールをはじめ、文書でのやりとりをせず、また意見書も依頼者に送らないといった、おかしな実務で対応せざるを得ないこととなる。
依頼者は欧米の弁護士とは、英語での交信が通常であろう。いかに日本企業が国際化し、英語が担当な法務部員が増えたとはいえ、すべてを電話や面談だけで行い、メモもとらずに、社内の意思決定を行っていくというのは不可能を強いるに近い。
日本の弁護士との間では、弁護士事務所に依頼会社の法務部員に来てもらって、弁護士が作成した意見書や事実関連をまとめた書類なども、それを社には持ち帰ってもらわないこととして、文書化した書類に目を通してもらうような工夫はできるが、やはり、そこでのディスカッションに備え、依頼者の内部でなされた議論については、メモも作らずに行わなければならず、その準備は十分なものとすることができない。そして、弁護士が用意した検討メモを用いてのディスカッションに当たっても、それにメモもとらずに行うしかないのである。複雑な法律用語を交えての議論を行い、それを聞くだけで、その後社内に報告し、社内の意思を決定してもらうというのは、ベテランの法務部員にとっても難しい。
特許侵害事件、独禁法違反事件、いずれも多額の出費を伴う可能性のある事件である。かような事件については、社内でも後々の検証に備えて記録化することが、社内デュープロセスの観点からもますます重要となろう。そんな場合にも、すべてを弁護士事務所にて保存し、必要な場合に来所してみてもらうというのは、あまりに不合理な方法であるⅴ。
弁護士依頼者秘密特権は、依頼者が十分な弁護活動をしてもらうための特権である。議論が活発にされ、一日も早い導入が求められると考えている。
(掲載日 2012年1月23日)