第197回  監査役が消えてしまっても、本当に良いのか
                    ~「監査・監督委員会設置会社」解禁による日本企業のガバナンス

青山学院大学法務研究科(法科大学院)教授※1
弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック 弁護士※2
浜辺 陽一郎

会社法改正の目玉「監査・監督委員会設置会社」
法制審議会会社法制部会において会社法制の見直しに関する要綱案の作成に向けて大詰めの作業が進行中だ。今回の会社法改正の論点は多岐にわたるが、その一つの目玉が「監査・監督委員会設置会社」(仮称)の創設である。

この論点については、このコラム第164回※3でも前に書いたように、問題が多い。しかし、とにかく、これが導入されることは間違いなさそうな事態となっている。

新しい監査・監督委員会設置会社などが制度化されても、面倒な改革をする会社は少ないのではないかという向きもあるが、必ずしも面倒なことばかりではない。むしろ、いろいろと新しい内容を知らされれば、この新しい制度に乗り換えた方が、現在の監査役(会)が消えるから、「その方が都合が良い」という経営者も多いのではなかろうか。

「監査・監督委員会設置会社」とは、簡単にいえば、「委員会設置会社」の指名委員会と報酬委員会のないバージョンだ。細かい違いはいろいろとあるが、ポイントはそこだ(第164回の解説参照)。 部外者の介入を嫌う企業では、社外役員の数はなるべく少なく抑えたい。現在の上場企業の多くが採用している「監査役会設置会社」であると、監査役会で半数以上、即ち2名以上の社外監査役を招く必要がある。そこに加えて、法律の義務ではなくとも、上場規制等によって、社外取締役を1名以上選任することが必要となりそうだから、将来的には合計3名以上の社外役員が必要となりそうなところであった。

しかし、監査・監督委員会設置会社にさえなれば、社外監査役は不要だ。2名以上の社外取締役だけで十分だから、なるべく社外者を少なくしたいと思えば、必然的に「監査・監督委員会設置会社」を選択することになる。

それで日本のコーポレート・ガバナンスが改善されるか?
もちろん、まじめにやれば、どんな制度でも、「監査・監督委員会だけ設置会社」でも、うまくやることはできる。しかし、「性善説」を前提とした制度設計は、いかにも日本的な発想で、これまで監査役に与えられてきた独任制、4年もの任期等が失われる新たな制度は監査の機能をかなり弱めることにならざるをえないだろう。

確かに、会社のチェックシステムという意味に限定していえば、外部監査と内部監査での二本立てになるという意味において、日本もアメリカ型に似たような形になる。しかし、会社を取り巻く外部環境は、アメリカの企業と日本の企業とでは大きく異なる。また、法制度としても、アメリカの取締役とは異なり、日本の会社法は個別の取締役に調査権がない※4のに、取締役は本当に監督機能を発揮できるのだろうか?

アメリカでは、企業内のチェックシステムが機能しなかった場合には、後日、SECや厳しい裁判制度による事後チェックを受けることになる。クラスアクション、多重株主代表訴訟など、経営を震え上がらせるようなシステムがたくさんあるから、経営者も予防法務やコンプライアンス・プログラム等に対しても大変なコストと労力をかけて、かなりの努力を強いられている。

しかし、日本では、企業内のチェックシステムが機能しないとき、後日、外部の制度でそれを是正する仕組みがないわけではないが、かなり限界がある。米国とは制度環境が大きく異なるのだ。今回の会社法見直しでも、多重株主代表訴訟はザル法になりそうであるし、クラスアクションなどはない。弁護士の少ない日本では、企業の内部で何かあった時に後から何かしようというのは、よほどのことがないと難しい。その余程のことが、しばしば日本企業で大変な不祥事となって発生するから、そのようなことを防ぐために、三様監査の実務が広く行われ、それなりに機能してきた。ようやく近時、監査役にも厳しい事例(ダスキン事件やオリンパス事件等)が現れるに至って、監査役監査が機能し始めた矢先に、今回の会社法の見直しに直面することになった。

大きな岐路に立つ監査役制度
監査役が役に立っているかどうかは、企業においてずいぶん状況は異なるだろう。ただ、制度としての監査役は、かなり完成度の高いものだ。監査役の権限は、実質的な妥当性監査のほか、極めて強力な独任制や監査報告、提訴権限や各種の開示規制等によって、経営者がコントロールしにくくなりつつある制度になっている※5

ただ、こうした状況を、監査を受ける側から見た場合に、監査役制度を脅威と受け止めても不思議ではない。監査役制度を終焉に追い込もうとする勢力があるとしたら、それは監査役の機能発揮が現実化しそうであることが察知されたからであるかもしれない。監査役も、監査・監督委員会設置会社の導入によって、終焉を迎えそうである。「監査役が消えてしまっても、本当に良いのか」というのを、今回のテーマにしたのは、これが現状の大きな流れとなっているからだ。

もっとも、制度改正の流れを見る限り、絶望する必要はないのかもしれない。監査役に会計監査人の選解任等に関する議案等及び報酬等の決定権を付与するとか、監査の実効性を確保するための仕組みが提案される時代だ。「監査役選任議案の決定権を監査役会に(取締役会は議案を出せない形にする)」という制度まであと一歩のところにまで迫ってきている。監査役制度は終焉を迎えるのか、それとも劇的に再生できるのか、大きな岐路に立っている。

 

  • http://www.law.aoyama.ac.jp/staff/index.html
  • http://legal-clinic.mylawyer.jp/pc/
  • https://www.westlawjapan.com/column/2011/111003/
    なお、拙稿「問われる企業統治と会社法改正の動向(上)(下)」(会社法務A2Z、第一法規2012年2,3月号)にも同趣旨を少し詳しく論じている。
  • 取締役とは異なり、監査役には、会社法381条2項乃至4項によって広範かつ強大な質問権・調査権が認められており、取締役や従業員には回答義務・説明義務があるから、監査役には内部統制部門に対する「指揮命令権」などなくても、監査の実効性を高めることはできる。
  • 拙稿「監査役のアイデンティティの再検証〔上・下〕」(旬刊商事法務1967/1968号(2012年6月5日号、同月15日号)。

(掲載日 2012年7月23日)


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