第199回  ご当地ならではの発明

高島国際特許事務所※1
所長・弁理士 高島 一

関西電力大飯原子力発電所では、フル稼働に達する直前の先月8日、取水口(国内の原発では、原子炉で発生した蒸気を使ってタービンを回して発電し、残った蒸気は、海から取り込んだ海水を使って冷却して水に戻す)付近でクラゲが大量に発生した影響で、一時、発電機の出力を低下させる事態が起こった。ネット上では、「原発稼働にクラゲもデモ」などと揶揄されているようだが、クラゲの大量発生が原発や火力発電所に影響を及ぼす事態は、これまでも各地で起こっている。

若狭湾沿岸は原発銀座と呼ばれるので、クラゲの大量発生は頭の痛い問題だろう。福井県でクラゲといえば、越前クラゲが思い浮かぶかもしれないが、エチゼンクラゲは遊泳能力が高いため、発電所の取水口をふさぐようなことはめったにないそうだ。発電所の出力低下を引き起こす原因は、主としてミズクラゲという日本沿岸に広く生息しているクラゲらしい。水温やプランクトン等の条件がよければ、どこでも大量発生するおそれがあり、発生を防ぐという抜本的な対策は難しいという。電力会社も、取水口付近に網を設置したり、網目をすり抜けたクラゲを除去する装置を設けたりしているが、クラゲの量が多くなり過ぎると処理が追いつかず、今回のような事態に至ってしまう。

発生予防が難しいとなると、除去するしかないわけだが、除去作業に多大な費用がかかる上、獲れたクラゲは廃棄されるか、せいぜい肥料に使わる程度であり、経済的損失は甚大である。この点は、底引き網漁や定置網漁におけるエチゼンクラゲの被害にしても同様である。そのため、クラゲの有効利用が強く望まれている。

福井県内の大学・研究機関や地元企業では、クラゲを資源として有効活用する試みを進めている。クラゲは95%が水分で、残りの5%のうち2%がコラーゲンからできている。そこで、このコラーゲンに着目し、細胞培養のための足場基材として利用しようという研究が進められている。幹細胞等を利用した再生医療への期待が高まっているが、幹細胞の培養には足場材料が重要となる。現在は細胞に効果の高い哺乳類由来因子が利用されているが、ウイルス感染やプリオン混入の懸念があるため、代替因子の開発が求められている。クラゲコラーゲンは、ある種の細胞に対して、単に哺乳類由来因子を代替するだけでなく、細胞分化を促進するなど、より高機能な足場となることが見出されている。

福井県といえば、越前ガニも名物の1つであるが、カニ殻も厄介な廃棄物である。有名な三国地区の飲食店からだけでも、年間数十トンが生ごみとして廃棄されるという。福井には、越前ガニの殻を捨てずに肥料として利用する伝承農法がある。カニ殻を作物に与えると、生長が促進されるだけでなく、病害にも強く、美味しい野菜を高収量で得ることができるという。福井県内のある大学の研究室では、大量に廃棄されるカニ殻の有効利用を図るべく、この伝承農法を再検証した結果、土壌中のある細菌が、カニ殻の主成分であるキチンを分解して生じるオリゴ糖が、植物体内で作用してファイトアレキシンと呼ばれる抗菌成分の産生を誘導し、病害抵抗性が向上することが明らかとなった。また、キチンは、関節の老化防止のためのサプリメントとして人気の高いグルコサミンから構成されているので、この土壌細菌を用いてカニ殻からグルコサミンを発酵生産できる可能性もある。

特許の仕事をしていると、最先端の研究成果を一般の人が目にする前に知ることができるという喜びがあるが、特に医薬分野では、結果的に産業化にまで結び付く研究はごく限られている。他方、地方発の発明には、地元の産業と密接に結び付き、その地方独特のニーズに応えるようなご当地ならではの発明が多いので、その発明が実用化されたという話題を比較的多く耳にすることができるという楽しみがある。

 

(掲載日 2012年8月6日)


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