第201回  「親権停止で児童虐待から子どもを守る」

法律事務所オーセンス※1
弁護士 元榮 太一郎

平成24年4月1日から「親権停止制度」が始まり、児童虐待問題の解決に向けて大きな期待が寄せられている。

平成23年度中に、全国206カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、5万9862件(速報値)で過去最多の件数となった。児童虐待の相談件数は、厚生労働省が統計を取り始めた平成2年から一貫して増加し続けており、ここ10年で2.5倍以上に増加している。児童虐待は、核家族化や地域のつながりの希薄化によって子育てする親が孤立し易くなっていることが背景として指摘されており、この問題の根本的な解決には、社会全体での取組みが不可欠となっている。

児童虐待については、本来子を守るべき親が加害者となるという性質上、第三者が後見的に介入することには大きな障壁が存在する。つまり親権の存在である。親権とは、未成年の子を育てるために親が持つ権利義務であって、本来、子の利益を守るためのものである。しかし、児童虐待の場面においては、親が親権を理由として、児童虐待を正当化したり、施設入所中の児童について不当な主張をしたりする場合があり、そのような場合に実効的に児童を保護する方法が課題とされてきた。

親権の制限については従来、親権喪失制度(民法第834条)のみが用意されていた。もっとも、改正前の親権喪失制度は、親権の濫用又は著しい不行跡がある場合にしか制度を利用できないうえ、その効果についても、無期限に親権全部を喪失させるもので、親子関係を回復不能にしてしまうおそれがあった。そのため、一時的な親権制限で目的が達成できる場合や、親子関係の再統合のためには適切でなく、申立てや審判が躊躇されることが指摘されていた。実際、児童相談所長による親権喪失の申立ては、年間10件程度にとどまっていた。

この状況を打開するため、民法及び児童福祉法改正の柱として、親権停止制度はスタートした。
親権停止制度は、2年を上限として家庭裁判所の裁判によって親権を一時的に停止する制度である。従来の親権喪失制度よりも緩和された要件により、迅速な児童の保護を実現するとともに、親権が停止されている間に親や家庭環境を改善し、親関係子の再統合が図られる。これにより、親権喪失及び児童相談所長の措置などと併せて、段階的で柔軟な措置が可能となった。

また、請求権者についても、子自身や未成年後見人等による申立ても可能とされ、協力してくれる親族がいない場合や密室での性的虐待の場合など、制度の幅広い利用が期待されている。親権停止制度の開始以降、首都圏や関西を中心に既に30件以上の申立てがあり、児童相談所長による申立ても6月までの3か月で7件行われ、また、子自身による申立ても1件報告されている。

親権停止制度を柱とする今回の民法及び児童福祉法の改正によって、児童虐待問題の解決が進むことが期待されている。もっとも、親権停止は、その申立てにより、かえって親と子又は児童相談所等との対立が深まるケースも想定されるところであり、決して問題の根本的解決に直ちにつながるような特効薬ではない。児童虐待の根本的な解決のためには、発生した児童虐待への対策だけでなく、児童虐待の発生自体の予防が肝要であり、子育て支援事業の普及・推進など社会全体による取組みを継続していく必要がある。児童虐待がなくなる日が一日も早く来ることを願ってやまない。

 

(掲載日 2012年8月27日)


次回のコラムは9月10日(月)に掲載いたします。

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