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判例コラム
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第206回 迷惑メールの迷惑

成城大学法学資料室
隈本 守

5月30日570件、31日591件、6月1日582件、これは筆者の携帯電話に届いた携帯電話会社の「迷惑メールおまかせ規制レポート」による筆者宛の迷惑メール件数である。この件数の迷惑メールが筆者の携帯に直接届いていたとしたら、日常業務、生活に大きな支障となったことは容易に想像できる。実際に迷惑メール規制をしていても一日に10件から20件の迷惑メールが届くこともあるが、その処理だけでもそれなりに負担となっている。また最近スマートホンで利用が増加している「SKYPE」や「LINE」を使っている場合には、これらを経由する迷惑メールも加わることとなり、さらに拍車がかかる。

迷惑メールの問題というと、詐欺、出会い系などの被害に関するものが多い。これらは被害額も多く、またその被害範囲の広さ、対応の困難さから大きな社会的問題となっている。しかし、このような実体的な被害が発生しないとしても、迷惑メールが国内のメール全体の7割前後を占める状況※1そのものも、充分に対応が求められる事態※2と考えられる。すでに総務省、消費者庁、(財)日本データ通信協会迷惑メール相談センター、各携帯電話会社、インターネットサービスプロバイダなどを中心として法的、技術的、その他、各種の対策※3が講じられており、その技術的成果の一つとして先の600件近い迷惑メールが届くことは防がれた訳であるが、迷惑メールの発信自体や法的な対策などの抜本的な部分についての対策は見つかっていないのが現状である。この問題は、日本にとどまらない。特にこの問題に早くから直面し対策を模索してきたアメリカでも、各種技術的対応はもとより、商用メールの規制法、迷惑メール対策法、その他発信者の研究等、様々な方策を講じてはいるが、それでも被害者たる利用者個人にアドレスの変更を薦めざるを得ない、という状況であり、やはり抜本的対策は見つかっていないようである※4

現在とられている対策の詳細については末尾のリンク先に譲るとして、ここでは対策の難しさについて見てみたい。技術的対策の難しさの例としては、迷惑メールの発信元となっているアカウント、サーバーを特定しても、それは使い捨てのごとく次々と新しいところから発信されるというイタチごっこになっていることや、発信元はウイルスに感染した善意のパソコンに過ぎず、そのコントロールをしているサーバーや本当の発信者を発見摘発することが極めて困難になっていること※5などがある。またメールの内容自体をチェックしこれを制限することは検閲等の情報制限にかかりかねないばかりではなく、迷惑メールではないメールまでも迷惑メールフィルタにかかり受け取れない、などの問題も生じている。また法的規制については、そもそも発信元、被疑者の特定が困難なことに加えて、その規制が国内法によるものである以上、海外からの発信、行為に対する対応も極めて困難となっている。実際、海外からの迷惑メールが8割から9割を占めているとする統計もあるが※6、これは意図的に法的対応の弱点をついて行われているとも考えられる。このような海外からの発信に対しては条約等を含む国際的協力による対応が不可欠となるが、現在のところ、その整備、効果が期待できる状況にはなっていないように思える。

このように見てくると、現在の対策には迷惑メールを詐欺や不法な請求などの実害発生の端緒として、また迷惑な商業活動、宣伝の規制対象として基本的に個人の迷惑に軸足を置いていることの限界がある。そこには、膨大な数の迷惑メールが国の枠を越えて横行すること自体が、社会活動の大きな障害であり、時として瞬時に多数の被害を発生させる、インターネット時代の「社会に対する迷惑」という理解、視点が求められているように思える。

(掲載日 2012年10月22日)


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