第214回  立法における国際的視点の必要性

早稲田大学大学院法務研究科教授・弁護士
道垣内 正人

特許法76条は、相続人がない場合の特許権の消滅について、「特許権は、民法第958条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、消滅する。」と定めている。

通常の財産は、相続人がいない場合には、特別縁故者からの請求があり、その請求が認められない限り、国庫に帰属するとの扱いがされる(民法959条)。これに対して、特許権については例外的に、相続人がいないことが確定すれば、そのまま消滅することとしているのが上記の76条であり、これは、特許権を国庫に帰属させても、一般に、国が当該特許権を自ら実施するとかラインセンスをしてそれを有効に活用することは困難であり、むしろ、特許権を消滅させて誰でも使えるようにすることが社会的利益の増大に繋がると考えられたからであると説明されている。

この法政策は妥当かとか、法人の解散の場合はどうなるのか、といった問題はさておき、ここで問題とするのは、「民法第958条の期間内」という部分である。これは、同条により、相続人の捜索の公告に際して家庭裁判所が定める「一定の期間」をいい、「その期間は、6箇月を下ることができない。」とされている。つまり、「民法第958条の期間内」とは、事案に応じて家庭裁判所が定める6か月以上の期間を意味する。

確かに特許権者が日本人である場合には、法の適用に関する通則法36条により、被相続人の本国である日本法が相続の準拠法となるので、民法958条を引用する特許法76条は、いつ特許権が消滅するかを明確に定めたものであるということができる(旧特許法59条は「特許権ハ相続人ナキトキハ消滅ス」とのみ定めていた。)。しかし、特許権者が例えば韓国人であり、相続の準拠法が韓国法となる場合には(韓国民法1057条によれば、裁判所は、2年以上の期間の間に権利主張をすべきことを公告して相続人の捜索をしなければならないとされている。)、特許法76条の定め方では引用条文が繋がらないことになる。

このようなことになってしまっているのは、立法に際して国際的視点がなく、特許権者はみんな日本人だという前提で条文が起草されたためであろう。六法を詳細にめくってみれば、このような例はほかにも見つかるであろう

国際化の進展する今日・・・という枕詞で様々なことが語られているが、法律の世界では純粋に日本的とはいえない状況への配慮の必要性を訴えていく必要がまだまだありそうである。2013年も数多くの法律が制定されることになろう。上記の特許法76条も早く改正すべきである。そして、一般に立法に際しては、作業の早い段階で国際的視点からのチェックを不可欠のプロセスとして組み込んでいくことが必要であろう。

  • ちなみに、著作権法62条1項は、「著作権は、次に掲げる場合には、消滅する。」とし、その1号で、「著作権者が死亡した場合において、その著作権が民法 (明治29年法律第89号)第959条 (残余財産の国庫への帰属)の規定により国庫に帰属すべきこととなるとき。」と定めている。これも特許法76条と同様の問題があるよう見えるが、そうではない。国際私法によれば、相続人不存在の確定までは「相続」の問題とされ、法の適用に関する通則法36条により被相続人の本国法によるが、不存在が確定した後は、「相続」の問題ではなく、通則法13条の「動産及び不動産の物権」の問題とされ、目的物の所在地法によるとされているからである。つまり、相続人不存在の場合の特別縁故者への分与や国庫帰属という問題は、無主物財産の帰属の問題として処理されるのである。無体物である著作権の物権についても通則法13条が適用されるのか否かは議論があり得るが、日本の著作権の帰属が日本法によることは明らかであり、そうすると、日本の著作権法の規定が日本の著作権についてだけ定めていることを前提とすれば、著作権者が外国人であっても相続人存在の場合には日本法により処理されることになる。したがって、著作権法は、民法958条の3による特別縁故者への分与は認めた上で(特許法76条は特別縁故者が特許権者となることは認めていない。)、民法959条の残余財産の処理についての例外として、著作権法62条1項1号は、国庫帰属ではなく、消滅すると定めていることになる。これは、まさに上記の国際私法における性質決定を踏まえた規定ということになるのである。

(掲載日 2012年12月25日)


次回のコラムは1月7日(月)に掲載いたします。

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